08
しゃく、しゃく、しゃく、と私たちはスイカを齧っていた。
まるでついさっきキスを交わしたことなど無かったかのように、平然とスイカを齧っていた。
相変わらず窓の外ではセミがじーわじーわと鳴いている。魔法のスイッチみたいな唐突なキス。でも、世界は変わらなかったのだ。
スイカは大人二人でも一日では食べきれなくて、次の日も、その次の日も私は成歩堂芸能事務所に招かれてスイカを食べて過ごした。
くだらない話をしたり、みぬきちゃんはどうしているかと想像したり、ご飯を作って食べたり、ポーカーをしたり(成歩堂さんは私を勝たせてはくれなかったけど)。
そんなことをしながら、時々、思い出したようにキスをした。
数日間で交わしたキスの回数を、数えることはしなかった。多くはないが、少なくもないと思う。
教師とその教え子の父という間柄の私たちが、不自然きわまりない行為をひどく自然に行っていた。まるで何年もそうして過ごしている恋人のようにだ。
成歩堂さんの唇はやさしくて、なんだかとても落ち着く。私たちは男と女であるはずなのに、そのキスは性的なものが感じられないというか、プラトニックな気がした。
とにかく、ただ触れる以上の意味は無いように思えたのだ。
それ以上の意味なんて。
意味なんて求めてはいけないと。私の頭の中で抑止力が働いていた。
―だってみぬきちゃんが言っていたじゃないの。
「さっきみぬきから電話があったよ。夕方には帰ってくるって」
「…それまでには帰ります、ね」
「うん、」
ああやっぱり。
思ったとおりのタイミングで成歩堂さんは顔を寄せ、私にキスをした。
ちゅっと軽く音を立てて離れるそれはもはや慣れた所作だった。挨拶代わりにキスを送りあう国がある。親愛のキスを。
私も成歩堂さんもいっそのことそういう国の人であればよかったのに。
そうすれば、私はこんな不毛な質問を彼にぶつけずに済んだ。
「どうしてキスするんですか」
聞かなければいいのに。この白昼夢みたいな色の無い数日間が終わりを迎えて、意味を求めたくてたまらなくなってしまったのか。
性的なものじゃないと言い聞かせて、そういう雰囲気を精一杯に身に纏って、本当はつなぎ止めたいと思っているのだろうか、私は。
「キミこそ、どうして拒まない」
と成歩堂さんはポーカーフェイスで言う。彼は本当にポーカーをしているときもこの表情のままだ。
なんてずるい人なんだろう。質問に質問で返すのは反則だと思う。
私は答えられなかった。
ただ黙って、もう一度キスを、やっぱり大人しく受け入れたのだ。
それは貴方が好きだから、なんて答えられたらどれほど楽だったろう。
答えられるわけがなかった。
だってみぬきちゃんが言っていたじゃないの。
パパは恋をしない、って。
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晴天の式日