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 ─決めてたんだ、私。私のお客様第一号は、あなただって。

 あの日彼女はそう言って、件のクナイをそのままオレにくれた。
 彼女の信頼を得られたこと、それに応えられたことが嬉しかったし、安堵もあった。
 ありがとうと言って受け取ったが、それ以上に何かモヤモヤと胸に引っ掛かる歓びに似た気持ちを一緒に吐き出したくて、でも言葉が見つけられなくて飲み込んだ。
 危うく、クナイを持っていない方の手で抱き寄せそうになった。
 それはたぶん彼女が抱き付いてきたのと同じ衝動的なものであるが、それをすると、お互いが非常に困りそうなのでやめておいた。


 かくしてオレはクロガネ二代目店主のお客様第一号という栄誉ある称号を与えられ、本来ならばその座に就くはずであった猿飛アスマを、お客様第二号として紹介することとなった。
 アスマとの約束でもあるが、サキホとの約束でもあるのだ。

 忘れられて仏頂面をしたアスマと合流し、オレたちは職人街へと向かった。







「どうも、猿飛アスマだ」

「こんにちは。麦野サキホです。カカシから、あなたのこと聞いてます。あの、ご期待に添えるか分かりませんが、頑張ります。よろしくお願いします」

 聞いているこちらが助け船を出したくなるようなド緊張が伝わってくる挨拶だ。
 忘れていた。サキホは職人街の外の人間との関わりをほとんど持っていない。同年代の友人すら居ないのだ。そりゃあ人見知りくらいするだろう。
 しかしたどたどしいながらも丁寧で前向きな言葉を紡いだその姿勢に、半年間の準備期間がふと脳裏に浮かんで胸があつくなった。

「お願いしますはこっちのセリフだな。あのクロガネに武器をこさえてもらうとなりゃあ」

「アスマ。あんまりプレッシャー掛けないでね...」

「あぁ、悪ィ」

 早速なんだが、とアスマはホルスターに手を伸ばし、自分の得物を取り出した。
 特徴的な形状の刃がぎらりと鈍く輝く。
 は、とサキホが浅く息を吐くのが聞こえた。ふるふると唇が震え、見開いた目に光が入る。

「...、よく見せてください...!」

 興奮ぎみににじり寄ったかと思うと、次の瞬間サキホはアスマの手首を両手でしっかりと握りしめていた。

「うぉ、何だ何だ」

「ちょ、サキホ...?」



 深呼吸するみたいに、大きく息を吸い込む。





「っっっっかッッコイィィィ...!!」




「えっ」

「この繊細かつ大胆なフォルム!アイアンナックルならではの剛胆さと極限まで薄く仕立てるという緻密な技術の共存!磨きあげられた輝き!計算しつくされた刃の角度!歪みの無い美しい曲線!すばらしいです...!!!これぞ芸術!!」

 息継ぎもなく捲し立て、肩が上下するほどに呼吸を乱し、恍惚の表情を浮かべているサキホ。
 手首を掴まれたまま助けを求めるようにオレを見るアスマ。
 見たことのない表情のサキホに引いているオレ。
 武器マニア、という単語が過る。
 いや、鍛冶屋が武器マニアというのは、何らおかしいことではないのだが。
 今までの実直でおとなしい印象の彼女のイメージとはだいぶかけ離れていた。
 彼女はひとつ呼吸を置いて我に還ったのか、男との別れを惜しむように切なげにそっとアスマの手を解放した。

「一体どこの誰ですか、これを造ったのは」

 言いながら、一瞬にして瞳に真剣な色が宿る。
 それを見たら、やっぱり彼女だ、と思えた。



式日