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「ま、こんなもんかな」

 期待通りのそつない手早さで私の散髪を済ませてくれたカカシを振り返る。
 その時やっと気付いた、というのも間抜けな話ではあるが、彼が手にしているのはハサミではなくてクナイだった。
 髪なんて切ったら刃が傷むのに、と思ったけれど、それは私が研いでやれば済むことだとすぐに思い直した。
 そうだ。この先彼の忍具のメンテナンスは私がすればいい。それくらいならいくらでも無償でしてあげたい。他ならぬこの人にだけは。

「うん、大丈夫。ありがとうね」

「えー。ほんと大丈夫?鏡くらい見れば?」

「カカシのこと信頼しているから平気だよ」

 私が言うと、彼は照れ臭そうにマスクで覆われた鼻の頭を指先で掻いた。

「ご飯でも食べに行こっか」

「行きたい!」

 嬉しい提案だったので反射的に声を大きくしていた。
 私の顔を見て、食い付き良すぎ、とカカシが苦笑する。
 だってだって。
 外食なんて久し振りだ。
 ましてや、誰かと一緒の食事だなんて。

「何にするかなぁ」

「ラー」

 めん、と言い切る寸前で、カカシの鋭い眼差しにそれは遮られた。
 これは忍ではない私にだって判るくらい判りやすい、牽制の眼差し。
 そう。
 熱中症でお説教を喰らったあのときと同じの。
 言葉を飲み込み、ついでに息も止まってしまいそうになる。

「おまえ、今日昼間何食べた?」

「えー......おにぎり...です...」

「......」

「あ、あとサバ缶も食べたし...」

「そんだけ?」

「ハイ......」

 嘘や誤魔化しも頭を過ったが、だめだ。この人には絶対に通用しないだろう。
 自分の食生活が決して健全とは言えないことは分かっている。
 カカシが言いたいことだって。

「おまえ本当にね、いい加減にしろよ。そんな食生活続けてたら次は栄養失調で倒れるから。もっと野菜とかたんぱく質もバランス良く食べないと」

 次はもう病院運んでやらないかんね!と、だめ押しの釘を刺される。
 私だってもうあんな事はごめんだ。絶対そうならないようにしたい。
 でもその考えは多分、カカシの想いとはちょっとずれているのかもしれない。
 私は自分自身の健康がどうのと言うよりは、彼に心配や迷惑を掛けてしまうことか気掛かりなのだから。
 これを言ったらまた怒られそうだから絶対に言えないけれど。





 食事は、カカシがよく行くという定食屋に連れていってもらうことになった。
 とにかくバランス良くということを強調されたので定食屋ならばその条件には確かに見合っている。
 木の葉のメインストリートから一本脇道に入ったところにそのお店がある、と説明されたけど、あまり出歩かないのでピンとこない。
 職人街から楽に歩ける距離ではあるが、日中のメインストリート付近はとても人通りが多くて賑やかで苦手だったから、特別な用事でもない限りは踏み入れない場所だった。
 今だって、カカシが私のほんの一メートル先を歩いて居てくれるから、こうしてこの道を歩けている。
 もう辺りはすっかり日が落ちているというのに、やっぱりこの付近は人が多い。
 でも、視界の真ん中にカカシの背中があって、なんだか街がいつもと違って見えた。
 怖くない。
 一人じゃない。



式日