07 (2/4)


 
 一夜明け、今日もまた任務に勤しむ。
 ...といっても、一時期に比べれば今は火の国の領土内はずいぶんと平和で、手に余るような殺戮任務というのも数えるほどだ。
 何にせよ、依頼さえあれば、こなすだけ。
 今日の任務の内容は武器の密売組織の内偵だった。ターゲットと接触すれば戦闘任務に切り替わることになる。
 それだけの内容ならば正規部隊の上忍中忍のチーム編成でも良さそうなところだが、先見隊の情報によると名の知れた抜け忍数名が組織に絡んでいるとあり、暗部に指令が降りてきた。



 先見隊がアジトの場所まで示していてくれたので難なくターゲットとの接触まで持ち込んだはいいが、さすが抜け忍、と言うべきか。
 目の前に転がったそいつを見て思わず溜め息がひとつ。

「あーぁ、死んじゃいましたね」

 今日またしてもチーム編成が一緒になった猫の面がのんきに呟いた。
 そう。
 敵は腐っても忍の一端らしく、情報を吐かせる前に自害してしまったのだ。
 本来なら生け捕りにして尋問部に引き渡さなければならないところ、これだからただ殺す以外の任務は面倒だ。

「やっぱりチームに幻術タイプ入れとかないとダメですね」

 彼の言う通り、生け捕りならば幻術タイプを配置しておくのが定石であるが、基本的に殺戮任務の多い暗部にはその能力者が少なかった。
 バランスよく人材を配置できればもちろんそれがベストではある。火影様だって分かっているだろう。
 ただ、慢性的な人手不足の中、貴重な幻術使いを暗部にそう何名も置けないことは明白だった。
 しかしよくよく考えてみると、自分はつくづく暗部向きなのだ、と思う。
 家族も無く、能力は根っからの戦闘タイプ。殺す以外の任務が面倒臭いだなんて考える始末だ。
 あと何年暗部に身をおくのか分からないが、別にずっと暗部でも構わない。

 なんとなく。

 正規部隊のベストを着る自分は、あまり想像がつかなかった。



「取り敢えず戻って報告だな。お前ソレ持ってきてね」

 ソレ、とは当然、足元に転がる抜け忍の死体のことである。

「...はいはい、っと」

「後輩の仕事なんだから嫌な顔しなーい、テンゾウ君」

「はいはいはい」

 昨日に続いて、たまたまではあるがまたこの猫の面と一緒の任務。
 仕事なので火影様の采配に文句を付ける気などはさらさらないが、それにしてもまたこいつか、というのが正直な感想である。
 昨日、任務終了後に二度も会っているのでさすがに胸焼けを起こしそうだ。

「あ。そういえば昨夜はごちそうさまでした」

「...ああ」

 昨夜はあんずへの苛立ちもあってさっさと立ち去りたい気持ちばかり逸って、後輩たちに金を押し付けて席を立ったことを今更思い出した。

「すみませんでした、お食事のお邪魔してしまって」

 死体を担いだ状態で世間話というのもシュールであるが、とりあえず移動しながら会話を続けた。

「いや別に。こっちの連れも人見知りが激しくてね」

「あんずさんを止められなくてお連れさんに申し訳無かったです」

「あんずは遠慮が無いからねぇ」

「遠慮というか...、本当は空気読めるくせにあえて読まないっていうあの人の姿勢が嫌です、ボクは」

「はは、よく分かってるじゃない」

 そう。テンゾウの言うとおり、あんずのあの傍若無人ぶりは決して天然というわけではない。
 彼女曰く、「男と対等に立ち回ることほどしんどいし不条理である。だから女らしさを演じる」んだとか。
 そうやって生きてきた人間なのだ。あの馬鹿みたいな振る舞いも、彼女の考える"女らしさ"ということだ。

「お前、あんずが嫌い?」

「好きか嫌いかで言ったら嫌いですね」

「はっきり言うねぇ」

「彼女は自分の振る舞いが人を傷付けてること、全然わかってないですから」

 テンゾウは面越しにもしっかりとオレまで届くくらい明白に、深く大きく溜め息を漏らした。
 オレは進行方向に向けていた視線を、横にいるテンゾウのほうへとやった。
 互いに面を着けているので、表情は分からない。
 相変わらず死体を担いで、淡々と地面を蹴っている。
 彼は物事を白黒はっきりと言うし、生真面目さ故に言葉が辛辣になることもしばしばあるが、誰か他人をこうも扱き下ろすことは珍しい。

「あの後何かあった?」

「......昨夜、ボクら三人で食事に行ったのは、紺に頼まれたからなんです」

「紺に?それって...」

「まぁそーゆーことです。橋渡しってやつです」

「へぇ、あいつがあんずを」

「あんずさんだって馬鹿じゃないんだから、そういうことだと察するでしょう普通。なのにカカシ先輩見つけたらあのはしゃぎ様でべたべた絡んで行って」

 テンゾウ曰く、オレとサキホが帰った後の気まずさたるや余程のものだったらしい。
 あんずはつまらないから帰ると言い出し、紺は不機嫌になっていつも以上に寡黙になり、生真面目ばかりが取り柄のテンゾウがそんな二人をなだめるという、聞いただけでも頭を抱えてしまいそうな状況だ。
 テンゾウには悪いが、さっさと離脱して巻き込まれるのを回避できてよかったと心底思う。
 だいたい、こいつに恋愛の橋渡しを頼むなんて紺もどうかしているが。



「まあ何にせよ、お騒がせしてすみませんでした」

「オレとしてはお前に同情するよ。ま、サキホも別にお前らのことどうこう言って無いし」

「サキホさん...て言うんですか?」

 名前を聞き返されて、あ、と思わず自分の面の口許に手をやった。
 そういえば昨夜サキホは愛称のバクのほうを名乗っていたのだ。
 別にオレたち暗部のように素性を隠しているわけでもなし、知られて問題は無いのだが。
 なんだか自分がひどく軽率な気がして、彼女に申し訳なく思い、唇を噛んだ。





式日