09 (2/4)


 大名を邸宅まで無事送り届け、その足で休みを取らずに里へ戻ると、もう日付が変わるか変わらないかという深夜だった。
 報告書は後日でよいと予め免じてもらっていたので、里の門をくぐったところでツーマンセルを組んでいた上忍とは別れて真っ直ぐ自分の家を目指した。
 夜なので静まり返ってはいるが、里の様子は三ヶ月前と何ら変わり無いように見受けられる。
 自分だけが平行世界に迷いこんでいて、もしかして木の葉の里では三ヶ月前から時間が経過していないのでは、なんていう馬鹿げた空想も過ったが、自室の埃っぽい空気を吸い込んだらやっぱり空想は空想だと思い知らされた。
 明朝起きたらまず掃除だ、と溜め息を吐いた。



 後ろ手で玄関のドアを閉めようとした。
 が、そこにある気配にそれを阻まれた。





「おっかえり、カカシ」

 ドアノブをしっかりと握って阻んでいたのは。

「...あんず、」

 いつの間にそこに居たのか。
 彼女も元暗部のはしくれだから気配を消すくらいは何でもないだろうが、自分がそれに気付けなかったことを苦く思う。油断していた。さすがに少し疲れがあるのかも知れない。

「今夜帰ってくるって聞いたから、待ってたの」

「何、こんな夜中に」

「やーね。二人きりで会うのはいつだって夜中じゃない」

 言いながらあんずは細い腕をオレの首に絡ませてきたので、それを振り払うよりも先に人目に付きたくないという思いが勝って、彼女を部屋に引き入れてしまう形でドアを閉めた。
 バタン、と閉まりきると同時にすかさず唇を塞がれた。マスク越しにではあるが。
 額を手のひらでぐいと押して引き剥がし、強引な口付けを中断させる。
 しかし彼女は満足げにニィと笑った。
 こうなると面倒臭い。
 変わり身でも使って逃げればよかったなぁと内心後悔したが、どうにも頭も身体もうまく回転しなかったのだ。やっぱり疲れているらしい。

「珍しく血の匂いがしないのね、何の任務だったの?」

「...そっちはだいぶコッテリ血の匂い撒き散らしてるじゃない」

「そーなの。だから、ねぇ、わかるでしょ?」

 昂ってるの、とあんずは両手をオレの頬に添えながら覗きこむように首を傾げて言った。
 不思議なもので、彼女の鈴をコロコロ鳴らすような高い声を聞いていると、さらに疲れがどっと押し寄せてくるように背中や肩にのし掛かった。






 殺戮任務を終えた後の精神的昂りを、性衝動に転嫁する者がいる。
 あんずがそのタイプだった。
 彼女だけじゃない、そういう忍は一定の割合で存在する。
 オレはそれを、別に悪いことだとは思わなかった。合意してくれる相手が居てその性的欲求を満たしてくれるのならば、そうすればいいのだ。気持ちよくなって鬱蒼とした気分もサッパリすることだろう。
 オレ自身、毎回では無いにしろ、同じ衝動に駆られることだって。そういう時は後腐れの無さそうな、理解のある相手を選んで誘うのだ。
 あんずもその相手の一人だったし、彼女も彼女でオレ以外にも色んな男と寝ているのは知っている。テンゾウは彼女の奔放な所を嫌っていたが、そんな風に振る舞っていないと精神を保っていられないような脆い人間だって確かにいて、彼はそれを理解していないだけだ。
 無理に理解する必要は、もちろん無いが。

 不器用で可哀想な女だとは思っているが、それは絶対口にしない。
 理解できてしまう自分も、所詮同じ穴の狢だから。



式日