ただならぬ関係 (1/3)
草が揺れ、冷えた空気が走る。
わずかに気配。大木の向こう。
でも、おとりかも知れない。
相手は何処からだってこちらを狙える力を持っている。
上空からでも、地中からでも。
ここは動かずに身を隠して様子を見るべき──。
そう思いながら息を潜めたのも、次の瞬間に無駄に終わってしまう。
それも、仲間の雄叫びによって。
「そこだってばよぉぉお!!!」
三本のクナイが大木に向かって放たれる。
勢いはある─が、入射角度が悪かったのか、それらは刺さることもなくカンコンと音を立てて木の幹にぶつかって地面に落ちた。
仲間の今の威嚇でこちらの居場所はしっかりバレてしまう。
そして私たちもその地面に落ちた不様なクナイ同様、あっさりと捕らえられ、地に伏した。
あーあ、という感想しか浮かんでこない。逃げる気力すら湧きやしない。
否、逃げる必要など無い。
何故ならこれは実戦ではなく演習だから。
「ハイ、終〜了〜」
これで何度目か。
うずまきナルト、うちはサスケ、そして私春野サクラが折り重なって伏すそのさらに上の方で、上官の間延びした声が響いた。
「ナルトぉ!あんた先走りすぎ!!」
「チィ、ウスラトンカチが...」
「ちくしょおぉ...ずるいってばよカカシ先生。わざと気配出してたんだろ!」
「だぁーから、それを想定して慎重にならなきゃダメなのよ」
サクラの言うとおり、と呆れたため息と共に言いながら、私たちの上官─はたけカカシは私の背中にのし掛かっていた身体をゆっくりと離し、解放した。
第七班担当上忍、はたけカカシ。
彼の元で私たち三人は晴れて下忍となったけれど、新人チームの通例らしく、任務と演習を半々でこなす日々。
男子二人は低ランクの任務やアカデミーのような演習にどこか嫌気を見せ始めているが、戦闘スキルに不安のある私としては演習はありがたいものだった。
上忍の忍術をごく間近に見ることも出来るし、気軽に色々と聞ける。カカシから学ぶことは多い。
それにしても─。
「やっぱり、カカシ先生って強すぎ...」
「お前ら弱すぎ。...あのねー、パワーの強さや忍術の精度だけじゃ無いんだよね、もっと基礎的なこと...たとえば、」
言葉を続けながら、カカシは背後を振り替える。
その視線の先に、先程ナルトがクナイを投げて当てた大木が立っていた。
どこか面倒臭そうに猫背のままゆるゆるとそこまで歩いていくと、木の根元に落ちているクナイを拾い上げ、人差し指でつつつ、と刀身をなぞった。
「...ナルト、お前、忍具の手入れってしてるか?」
「え?」
「見てみろ。摩耗しちまって刃はボロボロのガタガタ。持ち手も手汗で滑るし、こんなの投げて例え敵に当たったとしても大した傷にもならない。現に、木に突き刺さりもしてないでしょ」
ホラ、とカカシは私たち三人の眼前にそれを差し出した。
言われてからよく見てみれば、確かに彼の言うとおり、クナイはすっかり傷んでいる。
「サスケにサクラも、持っているクナイを見せてみろ」
言われて、それぞれに一本ずつクナイを差し出す。
自分の物に関しては、ナルトのように手入れ不足を指摘される心配は無かった。今日の演習前に、アカデミーに寄って新しい物を支給してもらったばかりだから。
「サスケはそれなりにやってるねー」
「ふん、アカデミーの講義でも忍具の手入れは習ったからな。出来てねーのはそこに居るドベくらいだろ」
サスケに食いかかろうとするナルトを容易く片手で制止ながら、カカシは今度は私のクナイを見る。
「...使用の形跡無し」
「見ただけでよくわかるわね、先生。私のは今朝支給してもらったばっかりなの。言えばすぐに支給してもらえるし、なるべく小まめに新しい物にしてるわ」
「うん、そーだね。だけど例えばこの先長期任務に出ることになったらどうする?戦争が起こって忍具の供給が追い付かなくなったら?...その時はやっぱり、自分で手入れしなくちゃならない。それができなければお前もナルトと一緒。クナイ一本が命に関わることもある」
ナルトと一緒にされてしまったことに悔しくて思わず下唇を噛むが、まったくの正論だった。
何より、身に付けて無駄なスキルは無い。
サスケの言うように確かにアカデミーで講義があったから、帰ったらすぐにノートを引っ張り出さなくてはと思った。
「んー。ま、いい機会だ。今日の演習はこのへんにしといて、忍具の手入れのおさらいをしようか」
カカシは右目でにこりと笑うと、ついておいでと歩き出した。
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