「素敵です!スカートフリルたっぷりなのに軽いです!装飾も細かいです!デザインかわいいです!」
とにかくのえるは思ったことを口走った。
ラスボス感放つ話し方と雰囲気ではあるが、こちらも端正でかっこいい顔のアルマロイド。こんなファンシーでフリルたっぷりな服を縫うのだ。その相反するギャップにも驚いたが、どれだけ器用なんだろうか。
のえるの思いをそのままに褒めていると、エイルがノイズ混じりに咳払いした。
「のえる、貴様はちびすぎる。おかげで縫うのも一苦労だったな」
「ごめんなさい……。でも本当にありがとうございます!」
「そこまで喜ばれたら作りがいもあるな」
「うんうん!デザインはアタシなんだよー!地球のファッションとか調べながらだったから、昨日あんまり寝てないけど、こんなに喜ぶなら休みも潰した甲斐があったよ」
やっぱり仲いいねとのえるは思うが、言ったら喧嘩しそうなのでやめた。
それよりもルルカカに、感謝を素直に述べた。
「ルルカカもありがとう!デザイン本当にかわいいの。私が着るのもったいないよ……」
「管理官が特別手当くれるらしいから、頑張っちゃった!それにのえるかわいいんだもん。もったいなくないよ」
「ところで、どうしてサイズぴったりなの?」
「すまない……のえるの姿をデータ化した」
「えっ」
「いや……変な目的ではなくてな……アルマロイドは見たものをデータ化、数値化できるだけだ」
「素敵な洋服もらえたし、別にいいの!どうかな?似合うかな?」
洋服自体はのえるの好みだった。満面の笑みでくるくると回ってみたりして、困惑しているアズールヴェルに見せると、ふと笑った。
「可愛らしい。ふたりに頼んでよかった」
「管理官の頼みでなければ作らんのだがな。だが被検体、貴様の服くらいならいつでも作ってやろう」
「ありがとうございます!」
副管理官と言うくらいだから、仕事片手間に作ってくれたのだろう。のえるは自分のために時間を割いてくれたことに改めて感謝を述べた。
「被検体のように微生物も素直ならな」
「えっ……副管理官気持ち悪ぅい」
「貴様よほど我に喧嘩売りたいようだな?」
またエイルとルルカカは睨み合うが、すぐに睨み合いを中断させたのはアズールヴェルだ。
「ふたりともここではやめてくれ。あとルルカカには頼みがある」
「頼み?」
「のえるを鍛えてやってくれ。あとアルマの扱いを教えてやってほしい」
「そのくらいなら喜んで!」
「アルマの使い方を教えたら、のえるはエイルと戦闘してもらう」
「え?私、死んじゃう……?」
アルマロイドと戦うのはさすがに自殺行為ではと思う。潰されたら終わりなのは目に見えていた。
「狼狽えるな。そのプロテクトドレスを作ったのは我だ。直々にプロテクトドレスの強度を測るというのだ。光栄に思え」
「ならこっちも気合い入れて鍛えなきゃ!訓練室空いてるの?」
「一部屋開けてある。上の階だ。終わったら副管理官室に来てほしい」
「ありがとう!いくよ!のえる!」
なんのかんのと話が勝手に進み、のえるは心の準備もできないまま、ルルカカがのえるの腕を引っ張り向かったところは黒くて広い空間だ。
「なにここ?」
「ここはテクスチャを張って外に見立てたりする空間だよー」
ルルカカが指を鳴らすと、真っ黒の空間がグラウンドになった。土を踏む感触や砂埃に太陽は作りものとは思えないほどリアルだ。
「うわぁ……」
「実はさ……勢いで来たのはいいんだけど、教えることわかんないんだよねぇ……」
「うん」
「だから……実戦ね!」
「えっ?」
ルルカカはどこからか取り出した剣を両手に持って飛び掛かってきた。
「待って!待って!」
「戦闘中に待ってくれるおばかさんはいないよ!」
剣が当たる寸前にのえるは後ろにジャンプした。
体が軽く、簡単に避けることはできたが、ルルカカの持っていた剣が飛んできた。
「ひえっ!」
身を守る盾のような丸い氷塊をイメージすると、丸い氷塊が出てきて剣を弾いた。地面にすとんと着地して、体制を整える。
「やるじゃん!じゃあ次はこれ!」
「なにそれーっ!」
ルルカカの回りに何本か剣が浮き、それをルルカカは掴み、のえるに投げつけてきた。それを走って避ける。いつもよりかなり速く走れて、正直楽しくなってきてはいた。
「のえる……遅いよ!」
「うわっ!」
剣を避けることに集中していると、いつの間に後ろにまわっていたルルカカに気づかず、蹴られ衝撃で吹き飛び壁に叩きつけられる。
ただ、思ったほど痛くなかった。これなら立ち上がれそうだ。
「もう!そんなんじゃ副管理官に勝てないよ!攻撃してこないと!」
「いいの?ルルカカ怪我しない?」
「怪我が怖くて軍隊入れないでしょ!いくよ!」
空中に浮いた剣をルルカカが握って飛ばしてきた。避けるのは間に合わない。こちらも菱形の小さめの氷を用意してぶつけて応戦した。
走ってルルカカに近づきながら、ルルカカの頭の上に氷塊も用意して落とすが、のえるよりルルカカが速いので避けられてしまう。
仕方ないので、接近戦に持ち込む事にした。
のえるは近づいて何度かボディブローをしてみるが、全てガードされてしまう。
ルルカカはカウンターに蹴りを入れるが、のえるは片手でガードしてもう片方の人差し指から、大きめの菱形の氷を放った。
「っ!?」
のえるの狙い通り命中したようで、氷と一緒にルルカカは吹き飛んだ。
のえるは追いかけて、氷塊を退けてルルカカを起こした。
「大丈夫?」
「なかなかやるー!必殺技でも作ったら?」
「必殺技?」
何だか一気に魔法少女みたいになってきたなとのえるは思う。アルマタップもらった時点で魔法少女になっていたのかもしれないけれど、そう考えると少しだけ笑いが漏れた。
「そうだね。ルルカカの必殺技は?」
「アタシの能力は見たことある刃物ならアルマが尽きるまで出せるんだけど、その中でも作り難くてアルマの消費が激しい大剣を背中に6本展開して操って攻撃かなー?」
「アルマの消費が激しいって言われても……」
「管理官からアルマ供給してもらってるから強力な技とか気にせずに出せるのかな?」
いいなーとルルカカは羨むが、のえるは実感がなかった。ただ、やりたいことは少し想像しただけで出来るし、体も自然と動く事がわかったのでルルカカに感謝しなくてはいけない。
「ルルカカありがとう。このあと副管理官さんと戦うんだよね……」
「どういたしまして!大丈夫大丈夫。副管理官は銃の精製ができるだけ。アルマが尽きるまでどんな銃でも作れるの。大砲とかもいけるらしいよ」
「何も大丈夫じゃないよ?」
さらっとエイルのアルマの能力を知ってしまった。何だかずるい気もするが、死なないためにルルカカの言葉にのえるは耳を傾けた。
「遠距離は不利だから、さっきみたいに接近して凍らせちゃえばいいよ。ついでにアタシの代わりに殴っといて」
「生きて家に帰ることができるかな……」
「副管理官は殺しはしないと思うよ?ただ距離とられたら、のえるの素早さを活かして接近しないと勝機はないかも」
「詳しいね?」
「毎日殴り合ってるし」
「殴り合ってるの?ルルカカって何なの?受付けって絶対違うよね……?」
受付けって一番平和そうなのに、ルルカカは強かった。アルマロイドと毎日喧嘩するとかもはや正気の沙汰じゃない。命がいくらあっても足りないとのえるは思うが、そんな思いとは裏腹に、ルルカカはけらけら笑う。
「受付けって何でも受け付けないといけないの。たとえ襲撃者でも受付けが追い出さないとだから、そこそこ強くないとね!」
「そうなんだね。だから強いんだ」
のえるにはルルカカが眩しく映った。
強くて美しいのだ。それだけで憧れる。
「よし!副管理官のところにいこう!」
「うん!」
立ち上がり砂埃を丁寧に落とすと、トレーニングした部屋を跡にし、副管理官室に向かった。
副管理官室につくと、ルルカカは部屋の扉を蹴り飛ばした。中に入ると、高い天井と広い部屋に、よくわからない機械がたくさんあり、銃のようなものが転がっていた。管理官の部屋より広いここなら、巨大なアルマロイドと戦ってもあまり影響はなさそうだ。
奥にはアズールヴェルとエイルが佇んでいた。
「のえるの訓練はもういいのだろうか?」
首を傾げながらアズールヴェルは聞いた。
「もちろん!いい動きだったから副管理官と殴り合っても大丈夫!」
「ありがとう。のえるは大丈夫だろうか?」
「がんばる……しかないもんね?」
「エイル、殺すのは勘弁してほしい」
「殺しはしないが被検体よ、貴様は殺す気で来い」
上から威圧感満載の声と、鋭くのえるをカメラのようなレンズで射抜く。背中に寒気が走るが、ここで逃げるわけにはいかない。
訓練してくれたルルカカに申し訳ないし、どこまでできるか今の自分を試してみたかった。
「終わりを決めるのは私だ。そのときまで存分に力を発揮してほしい」
「のえる頑張ってね!副管理官解体しちゃえ!」
「ありがとう!解体は無理だよ!」
アズールヴェルとルルカカは距離をとった。そしてのえるとエイルは向かい合い、アズールヴェルのはじめ!の声で、最初に駆け出したのはのえるだ。エイルとの距離を縮め、身の丈ほどのいくつか菱形の氷を打ち出した。
「ほう、氷か」
「ええっ……!?」
氷を全てはたき落とされたが無理もない。相手は巨大なアルマロイドだ。
「次はこちらからいこう」
エイルの手が何かを握る形になると、軽機関銃のような形の銃がエイルの手に収まった。
銃口をのえるに向ける。
「それは無理ー!うわわっ!」
躊躇なく光が連続で発射される。実弾なのか、なんなのかはわからないけど当たったらひとたまりもなさそうだ。しかもアルマロイドが扱う銃なので弾も大きく、それをのえるは必死に避けるが、エイルとの距離が遠くなる。これは不味いと思ったときには既に遅く、いつの間にかエイルは両手に同じ銃を持っており、弾幕が向かってくる。とっさにのえるは上に跳んだ。
「空中は恰好の餌食だな」
「ひえっ!?」
銃口はのえるの方向を向けられていた。気づいたときにはもう遅く、避けられず直撃し壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
さすがに痛かったが、すぐに痛みは薄れていき、少々ふらつくが立ち上がることはできた。
「そう簡単に終わってはつまらん」
最初に作り出した軽機関銃のようなものを捨てた。のえるはチャンスと思い、床を蹴り風のように距離を詰めに行く。銃口を向けられるが、まっすぐ飛んでくるので避けるのは苦ではなかった。
「ほう……」
「これならどうです!?」
のえるも身の丈の倍はある菱形の氷を負けずと打ち出す。さすがに当たりたくないのか、エイルは避けた。移動したときの衝撃で床が揺れるが気にせず打ち続けた。
「?」
「当たった……かな?」
打ち出した氷に気を取られている間に、避けた先のエイルの頭上に同じ氷を落としてやったのだ。でもダメージはなさそうだ。
「少しはやるようだが……甘いな?」
「えっ」
いつの間にか別の銃にかわっていた。アサルトライフルに近い形の銃だ。そこからの銃弾はまさにレーザーで、のえるを追尾してくる。しかも連続で出てくるので避けるのも一苦労だ。
「それは無理ー!」
全て避けるのは無理だったので、氷の盾を作りやり過ごそうとしたが、いとも簡単に貫かれのえるに直撃した。
「うっ!ああっ!!」
いくつかレーザーが体に当たり体を貫かれると思ったが、熱を感じるくらいだった。当たった痛みもさっきよりは遅かったが回復したころで立ち上がり、エイルより高く上に向かって跳んだ。
「学習能力がないのか?」
さっきのレーザーが弾幕となり襲い掛かってくるが、空中に氷の足場をつくって行き、避けながらエイルに向かっていった。
「副管理官さん、覚悟です!」
一気に距離を詰めると、エイルの肩あたりを思いっきりパンチするが、簡単に片腕でガードされた。
のえるは半ばやけくそで肩の部分を蹴った。
「被検体……手ぬるいがどうした?」
「きゃっ!」
エイルは腕を振り、のえるをはたき落とした。
床に叩きつけられ、激痛が走る。ゆっくり痛みは引いていくが、立ち上がる。痛みで顔が歪み、呼吸も荒いが少しだけのえるの口元が笑った。
「上手く出来ました……」
「なんだ……?」
蹴ったところからエイルの肩と腕はみるみる凍っていった。
触れたところってもしかしたら凍るかも?という思いつきだったのだが、上手く行ってホッとする。そのとき、アズールヴェルのやめ!の声でエイルは武器を捨てた。安心するとのえるの体はふらりと傾いた。体を支えてくれたのは、灰色の大きな手だ。
「しっかりしろ」
「ありがとうございます……」
エイルにのえるは素直にお礼を言った。エイルの肩はいつの間にか氷が全て落ちていた。
ゆっくりのえるは立ち上がると、アズールヴェルとルルカカがこちらに来た。
「大丈夫だろうか?」
「うん……ちょっと疲れたみたい」
「すまない。無理をさせてしまった」
アズールヴェルの端正な顔がしゅんと悲しそうな顔をする。表情豊かだ。そんな事を思っていると、お腹が盛大に鳴った。
「補給が必要だな。ルルカカに案内させる」
「まかせてー!それより!副管理官の腕凍らせるなんてすごいよ!いまなら切り落とせそうなんだけど!……あれ?氷が取れてる」
「微生物くらいなら片腕で事足りる」
「はぁ!?ならやってみる!?アタシならいつでも副管理官と殴り合えるけど?」
「ルルカカ!ごはん行こう!」
のえるがバチバチ睨み合う二人の間に入った。本当なら入りたくないのだが、お腹はすでに限界だった。
「せっかくのチャンスなんだけどなぁ」
「残念だったな微生物よ。凍らされたところで貴様に遅れは取らん」
「のえる!また凍らせて!次は全身ね!」
「うん……全身は無理かなぁ?」
「被検体、プロテクトドレスの調整はこちらでしておこう。精進しろ」
「はい!副管理官さんありがとうございます」
のえるが頭を下げると、エイルがふっと笑った。穏やかな笑顔で優しい人なのかなとのえるは思う。まださすがに緊張はほぐれないけれど。
のえるはスマホでプロテクトドレスを解除して制服に戻した。
「行こーのえる!ご馳走しちゃう!」
「食べ終わったら二人ともまた私の所へ来てくれないだろうか」
「はーい!いってきまーす!」
「いってきます」
ルルカカに手を引かれた。何処かに移動するのかと思ったら扉を開いて、ワープした。
ワープした先で待っていたのは、まるでデパートのような空間だった。普通のデパートと違うのは、売り物と宇宙人と人間サイズのロボットがその辺をうろうろしているくらいだろう。武器や銃器が並んでいるデパートなんてのえるにしてみたら圧巻だった。
「ここは……?」
「グラナダ内の買い物エリアだよー?歩くの面倒だったからワープしちゃった☆」
「うん……買い物エリアすごいね」
「食堂もあるんだけど、あえてこっちきたの」
「あえて?」
「食堂はのえるが入れるかわかんないし、確実に食べられるとこにしてみたんだ」
「ありがとう」
じゃあ行こうかなんて手を引かれて連れて行かれる。なんとなく、周りの人がこっちを見ているような気がするので、目をそらしてルルカカの方をみる。一気に突き抜けると、ついたのは小洒落たカフェのようなスペースだった。