cosmic dust

 小洒落たカフェスペースは、あまり地球と変わらない。お洒落な木目調のテーブルと椅子。強いて言うなら、メニュー表がテーブルに投影されていて、お冷が自動的に置かれるくらいだ。
「なんにするー?……っていっても地球の食べ物ないけど」
「それ大丈夫?毒とか」
「うーん……アタシの住んでいた惑星ってセルアっていうんだけど、地球と似通ってるよー。似通った惑星なんて沢山あるんだけど。だから食べ物もあんまりかわらないと思うよ」
「竜の蒸し焼きって……」
「竜なんて地球で言えば恐竜だよ恐竜」
「恐竜」
「そっか絶滅してたね」
「店長気まぐれメニューにしようかな」
 メニューのなかに食べられそうなやつがなかった。魚もあったが色がカラフルで、単語も馴染みがなくて食べる勇気がない。
「ならアタシもそうしよ!」
 投影されたメニューをタッチすると消えた。これで注文は終わりらしい。
「戦う以外にアルマってどんなことできるの?」
 素朴な疑問だった。のえるは普段使えないので、何ができるのか知っておきたかった。
「基本的にアルマの能力って覚醒しなくても、ある程度体内にアルマがあれば使い方を学んで使えるようになるの。例えば、物を転送したり、ワープなんかもそうよね」
「ルルカカは学んだから使えるってことなの?」
「そうそう。惑星セルアって地球みたいに学校があって、覚醒する年齢まで基本的な事を学ぶんだ。もちろん読み書きとかの座学もあるけど」
「座学あるんだ?でもアルマ使うならいらなさそうだけどな」
「読み書きとか基本的な学問は学ばないと人は成長しないからね。アルマに頼りっぱなしもきついし」
「普通はアルマが切れたらどうなるの?」
 のえるはただの地球人。アルマを持たないので切れたときのイメージがつかない。疲れるのかな、とかぼんやりとしか。ルルカカはため息つきながら話した。
「もう半端なく疲れるよー。体力と同じだもん。でも、空気を取り込むと体内でアルマも蓄積されるからアルマがなくて衰弱死なんてことはないよ。あとごはん食べてもアルマは回復するよー。食べると体内でアルマを吸収できるの。寝るのが1番手っ取り早いけどね」
 そこはアルマを使う全種族に共通しているそうだ。なるほどとのえるは相槌をうちながら水を飲む。
「じゃあ、覚醒しなかったらどうなるの?」
「そしたら基本的なアルマの扱いしかできないよ。物の転送とかワープとか応急処置とか、あと魔術」
「魔術?」
「魔術は覚醒した能力と違って、発動に呪文と素材がいるの。例えば石を鉄に変化させたりとかかな?基本的に覚醒してない人とか、覚醒したものがあまり役に立たないものだった人が使うんだよ。あとお医者さん」
「お医者さん?」
「治療に魔術を使うの。ものすごく難しい魔術だから、頭とセンスがないとお医者さんになれないんだよ」
 だからあまり魔術を使う人はいないらしい。でも使いこなせるようになったら、様々な応用が出来るので、敵だと厄介だと言う。
 のえるには想像つかなくて、首を傾げた。
「じゃあアルマの能力は?魔術あるなら特にいらなさそうだけどな……」
「その人が得意とする呪文なしの魔法だよ。普通は何か物を別のものに変化させる能力が多くて、のえるとかアタシとか副管理官みたいに何もない所から何かを精製するのって珍しいんだから」
 かなり破格の能力だと言う。ただしルルカカやエイルのように、物を何もないところから作る場合1時間ほどで消えてしまうそうだ。
 ふむふむとのえるはルルカカの説明を聞く。
「覚醒したら本来ちょっと練習しないと、思うように自分の能力でも使えないんだけどね。のえるは管理官のアルマがすごいのかな」
「アズの?」
「そもそもアルマロイドの原動力はアルマなの。だから体内に貯蔵してるアルマの量とか計り知れないんだよ。そのアルマを供給されたら?」
「強くなる……とか?」
「それもあるけど管理官のアルマ貰ってるから基本を学ばなくても、それこそ息をするようにアルマを使えるの。だからいきなり戦えるんだよ」
 だからアルマを扱う時も簡単にできたのか。今のえるは納得した。改めてアズールヴェルに感謝しなければいけない。
「ただ、のえるの場合は、普段使えないように管理してるんじゃないかな。生きるためだけの最低限のアルマを渡してるのかもね」
「普段使うつもりはないんだけどね」
 確かにアルマの力は便利だ。だけどのえるは普段使おうなんて思わなかった。みんなからの質問責めとか、それこそ興味持った謎の組織から人体実験とかされそうで想像しただけで大惨事で、のえるは身震いした。
「うう……使ってもワープだけかな?あとプロテクトドレスくらい?」
「まさに地球でいう魔法少女ってやつ!?」
 そういたずらな笑みでルルカカは笑った。
「のえる小さいしかわいいからねー。魔法少女似合う似合う」
 そうルルカカは笑いながら納得して、のえるの頭を撫でた。
 他愛もない会話していると頼んでいたメニューが出来たようだ。
 上から銀の手が生えてきてテーブルに乗せていく。マカロニにミートソースがかかったようなメインと、見た目は完全に苺ソースがかかったパンナコッタ。それと魚か肉かよくわからない固まりが入ったスープと、見た目は普通の野菜サラダ。見た目だけなら美味しそうだ。
「きたー!食べよー!いただきます」
「いただきます」
 宇宙人であるルルカカもいただきますするのだ。あまり地球の人間と変わらないなとのえるは笑う。フォークとスプーンで恐る恐る食べた。
「あっ……おいしい!」
 普通のミートソースより濃厚だった。多分ひき肉の味だと思うが自信はない。
「のえる……かわいい」
「え?」
 ついてるよ、とルルカカからお母さんのようにナプキンで口周りを拭かれた。
「うう……恥ずかしい」
「ゆっくり少しずつ食べなよ。料理は逃げないよ」
 そう言ってルルカカの食べる姿は優雅で美しい。ひとつひとつの動きが洗練されていて育ちの良さが出ていた。
「綺麗に食べるんだね」
「育ちだけはいいからね」
「どうして副管理官さんと毎日殴り合ってんの?」
「そりゃあイラッとするから。それと半分八つ当たり?」
「副管理官さん可哀想」
「向こうから喧嘩売ってくるんだから、いいのいいの」
 ルルカカは華やかに笑っているのに、言っていることが荒っぽくてのえるは苦笑した。
「あと、アンブルジュエルってなに?」
「貴重なアルマの塊かな?あんまり珍しいものではないよ」
「どうして地球にあるの?」
「管理官に聞いたんだけどね、輸送してたら何者かに襲撃されて、地球に一部落ちちゃったんだって」
「そうなんだ……どういうものなの?」
「強力な力を秘めてて、使い方間違えると惑星破壊できちゃう危険物だよ」
「危ないなぁ……」
「ひとつひとつならあまり問題ないんだけどね。それと亜空間作るのも地球周辺だけなんだって」
「どうして?」
「地球周辺にアルマが極端に少ないからだよ。ちなみに地球って宇宙の中でも一番端っこにある辺境な惑星なんだよ」
「辺境な惑星」
 会話に花を咲かせつつ、二人ともフォークが進んでお腹が満たされていく。ご飯は本当にどれも美味しかった。
 ただし、のえるはパンナコッタらしきものだけは許せなかった。白い部分がすっぱくてソースが甘いという想像と違ったからだ。
「すっぱい……」
「のえるの顔かわいい!すっぱいの苦手なの?」
「すっぱくなさそうなのにすっぱいのが……」
 まさに見た目詐欺といってのえるとルルカカは笑いあった。
 二人とも出された料理は全て食べ終わった。けっこうなボリュームだったが、動いたからなのか全部食べきることができた。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま!管理官のところ戻る?」
「戻ろうか。待たせてるだろうし」
「じゃあいこうか」
 ルルカカはテーブルの側面に手首についているブレスレットで触れた。
 ピピッと認証するとルルカカが立ち上がったので、のえるも慌てて立ち上がりルルカカに付いていった。
 カフェの扉を開いて、ワープする。
 もうこのワープにも大分慣れてしまった。すぐに管理官室に戻れるのでかなり便利だ。
 アズールヴェルは背中にケーブルのばして、空中に投影している画面の窓を増やして忙しなく働いていたが、すぐにのえる達に気づいた。
「おかえり。のえるの口に合っただろうか?」
「うん!美味しかったよ!」
「それは何よりだ。のえるの端末に隊員情報と財布を追加した」
「隊員情報……?」
 スマホからグラナダを開くと、確かにアイコンが増えていた。人の形のアイコンの隊員情報と、丸いアイコンの財布。
「正式にのえるは軍に入ることができた。その証だ」
「おめでとうー!それ持ってたらどの部署にも出入りできるし、食堂で食べられるよー!で、どの部署なの?」
 のえるよりルルカカの方が目を輝かせているが、アズールヴェルは言いにくそうに目をそらしている。
「それなのだが……のえるは地球での生活もあるし妥当なのがなくてだな……」
「まあ、入隊したら惑星の何処かの基地もしくは宇宙ステーションに所属されて、そこで生活するのが原則だもんね」
「だから……臨時管理官補佐とした」
「臨時管理官補佐……!?」
 これにはのえるもルルカカも声が被り、ぽかんとした顔になる。先に正気を取り戻したのはルルカカだ。
「職権乱用……」
「どうして?」
「管理官補佐ってことは、管理官に指示されて動いたもん☆責任は管理官にあるもん☆で済ませることができるからね。でも補佐って、確か管理官権限使えるよね?」
「使えるな。だからのえるは臨時とはいえ、管理官として指示を出すこともできる」
「のえる、いきなり大出世!」
「そうなるな。だが、本当に妥当なものがないのが現状なんだ。まさか整備室にやるわけにもいかないしな……」
 ものすごくアズールヴェルが困ったように話す。のえるは二人の会話にあまりついていけなかったが、ひとつだけわかったことがある。
「それ失敗できないよ……?」
 責任が重たいということだ。
 一気に不安がのしかかったのえるだが、ルルカカが明るくフォローした。
「大丈夫!管理官から地球に住んでアンブルジュエルの回収しろって指示されたから、アンブルジュエルだけ回収しちゃえばいいってこと!補佐と言えど、管理官の指示は絶対だからね」
「ルルカカの言うとおりだ」
「軍隊の事何も知らないんだけどな……」
「後からゆっくり知るといい。のえるは週に一度はグラナダに報告に来ること。それから、のえるには規約がある。端末を見てほしい」
 のえるがスマホを見ると、ずらりと色々書かれている画面になっていた。
「色々書いてあるが、一番気をつけて欲しいものが上から三番目だ」
「三番目……」
「地球にグラナダで知った情報を流してはならない。これはグラナダや、アルマのこと、エヴァンウィル等、地球人が知り得ない情報を流したら、のえるは即刻グラナダに住んでもらうことになる」
「アンブルジュエル回収中でも?」
「もちろん。その場合、亜空間発生してから行く事になる。つまり最低でも人ひとりは食べられて死ぬな」
 それを聞いてのえるはさっと顔が青くなって、ぶんぶんと横に首を振った。
「絶対言わないようにするよ。でも、中に人がいたらどうするの?」
「被害者の記憶を消して処理するが、問題がひとつある」
「問題?」
「のえるとの関係が深い者に、記憶を消す魔術は効きにくい。だから、なるべく迅速に頼む」
「うん……がんばる」
 要は誰にも話してはいけないし、見られてはいけないとのことなので、のえるは一人納得しながら、スマホの画面をスクロールしていく。
「アンブルジュエルはいくつあるの?」
「残りは15個。そう簡単には集まらないだろうな……」
「でもアルマタップに集まるならすぐに集まりそうだけどな……」
「妨害が入るかも知れないのと、アンブルジュエルはそんなに素早く引き寄せられない。だが、近くに来たらわかるだろうな」
 近くにアンブルジュエルがあれば、スマホで場所がわかる仕組みになっているそうだ。
「あ!襲撃者!正体はわかってるの?」
「まだわかっていないな」
「襲撃……?」
「アンブルジュエルはグラナダの輸送船が運んでいたところを襲撃され、散らばってしまった」
「輸送船?」
「さすがにワープが使えない距離にある惑星に運び入れる時は、宇宙船を使わないといけないのだが……襲撃されて宇宙に散らばり、一部が地球に落ちたんだ」
 50個のうちグラナダが20個回収したのだが、敵に15個奪われ、残りが全て地球に落ちたので、急ぎ回収をと言うことだった。
「だから、襲撃者が現れる可能性もある。のえるをひとりで戦わせない。しばらく戦闘時は私が側にいよう」
「ありがとう。でも……忙しいのにいいの?」
 会話中ずっと仕事してるのは見て取れた。アズールヴェルの背中のケーブルが差し変わったり背中が主に忙しい。
「あー、見てるだけで過労死しそう」
「このくらいでは過労死しない。私なら」
「管理官だけだから!そんな事してるから亡霊アルマロイドとか言われるんだよ」
「亡霊か……悪くないな」
「悪いから!副管理官に表舞台は全部押し付けて!最近、副管理官疲れてるんだけど」
「ルルカカ、君がエイルの身を案じるのか……」
 アズールヴェルのカメラレンズの様な目が絞り羽根で絞られたり、拡がったりしている。
 対してルルカカは少しだけ俯いて、真っ赤になっている。
「ちがっ、顔見ないほうがいいけど!違うの!正々堂々と解体できないから言ってるの!」
「逆にエイルからは仕事寄こせと言われているのだが……まあ、いい。ルルカカ、君は案外かわいいのだな」
「んなっ!かわいくないから!のえるの方がかわいい!」
「うわぁっ」
 がばっとルルカカが抱きついてきた。ふわりと香る甘い香り。
「小さくてかわいいー!素直だしね」
 ルルカカはけっこうぐいぐいくるタイプだ。ちょっと困ったようにのえるがはにかんで笑う。
「あの……それでえーっと、とりあえず明日から回収でいいの?」
「もっと言うなら地球に戻ってから回収活動は始まる。近くにないとアルマタップは反応しないから……それまでは自由だ。なるべく、のえるの負担にならないようにしよう」
「ありがとう……」
「あ!のえる、連絡先交換しよ!」
「う、うん」
 連絡先と言われたので、スマホをつけると大量のメッセージ。それを全て無視する。
「どうやって連絡先交換するの?」
「……確かに」
「グラナダのアプリから」
「なるほど、こうだーっ!」
 アプリを開いて、ルルカカがブレスレットを軽く近づけると、メッセージにルルカカが追加された。
「よっし!ねえねえ!地球の写真とか送って送ってー!」
「うん、いいよ」
「いろいろ地球の事調べたら楽しくって!いつか地球にいきたーい!」
「近いうちに行くかも知れないな」
「管理官ほんとーっ!?」
 やったーっとルルカカが小躍りしている。大人っぽいと思ったら、意外と年相応なところもあってのえるは笑った。
「二人ともお疲れ様。ついでに、ルルカカもうひとつ案内を頼む」
「んーなになにー」
「事務長、大佐、整備室に案内を。軽くのえるに挨拶をさせてから家に帰してくれないだろうか」
「……大佐のとこは嫌すぎるけどいいよ。のえる、行こう!」
「あ、アズ、これから本当によろしくね!」
 これから本格始動だ。頭をぺこりと下げると、アズールヴェルは優しく微笑んだ。見惚れそうなほど綺麗な顔だったが、そんな時間なくルルカカに腕を捕まれ管理官室を後にした。

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