5日前。
おれが彼女を見たのはそれが最後だ。
何も語らない女がこの船に乗ってきた。
というか、男性は面会禁止!というナミとロビンの謎のおふれにより
彼女のいる倉庫には立ち寄らせてもらえない。
なので会いに行くことはできないし
そもそも倉庫から出てこないあの女に
偶然出会うこともなかった。
倉庫に出入りしているのは、
彼女を診ているチョッパー
付き添っているナミとロビン。
3日前に目を覚ましたらしいが、
ごはんを運んでいったコックも倉庫には立ち入れず
必要な水を運んで行ったウソップも倉庫には立ち入れず
船長であるルフィでさえ、倉庫のドアを開くことはできなかった。
となるともちろんおれも、倉庫に入れてはいない。
ゴーイングメリー号の設計上、
風呂に入るにはこの倉庫を通る必要があるのだが
その時もうまいことナミとロビンがかばっているのか
あの女の片りんすら見たことが無い。
いや、特に見たい理由もないのだが。
何か必要がありゃ呼ばれるだろうし
進んで関わる気にもならなかったが
そう大きくないこの船で、
数日間もまったく会わない誰かがいるというのは
なかなかに珍しいことではあった。
いつも通りデッキで腕立てに素振りに
日課の鍛錬を行っている朝。
閉めっぱなしの倉庫の扉が音を立てて開き
ながら歩きをしているナミが出てきた。
新聞を読んでいるのだろう。
目の前にまったく注意を払わずに歩くナミだが
万一こちらがその邪魔にでもなろうものなら
瞬時に殴られる。
だいたいこっちが先にいて
そこでやることやってるだけなのによ。
ぶつかろうものなら怒られるのはこちらなのだ。
割に合わない。
あまり気にしないようにしながら
片目で彼女の足取りだけを追っておく。
「アラバスタ近郊って・・・このへんじゃない」
新聞から顔を上げ、ルフィに向かって写真を見せている。
気になる見出しでもあったのだろう。
ちらりと見えた一面の見出しを飾るその写真は
生き物のように燃える火に飲み込まれ
海に沈みかけている黒い海賊船だった。
「海賊船が1隻沈められたみたいよ。ルフィ、一応用心して」
声をかけられた船長は、いつも通りメリーの頭の上だ。
おー、と気のない返事を返して
早速ナミに怒られていた。
朝から元気だな。
ルフィのおかげでナミが遠ざかったのを見て、
おれは鍛錬に集中しようと目を閉じた。
手の中にある刀にだけ気を注ぎ
腕の筋肉の動きを感じる。
目の前に空想の敵を用意し
振り下ろすイメージを持った。
そのイメージのままに
一振り。
風が耳を凪いで
空気が少し、止まった。
今日は身体のキレがいい。
このまま突然戦闘になったとしても
瞬時に動いて、すぐにカタがつけられそうなくらいだ。
思わずニヤリと笑い、
手にしていた刀を腰の鞘に戻す。
「まあ、大丈夫だろ。なんかそんな感じがする」
根拠のない返答をするルフィの言葉が聞こえてきた。
ナミに怒られているのに、なんだか笑っているようでもある。
あいつの言っていることは大抵意味が分からないが
あいつが言っているのであれば、そうなのだろう。
とすると、その新聞に載っていたであろう事件は
気にする必要もないということ。
手元のタオルで顔を軽くぬぐうと
そのまま横になった。
「あいつさ、飯、食えるようになったか?」
ルフィのそんな問いかけを遠くに聞きつつ
おれは眠りについた。
Prologue -5 剣士から見た彼女
update---20191218
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