彼女の隣で本を読む。
朝から夜まで。
もしくは夜から朝まで。
ごはんも付き添いも航海士さんと交代で。
彼女の目が覚めるのを願い、
傷が癒えるよう手伝い、
そばにいた。
船長さんのお兄さんの腕の中で気を失っていた時から今まで
まだその目が開くことがない。
彼女の身体の傷、
状態、
船長さんのお兄さんの伝言、
そして船医さんの見立て。
これらすべてが彼女がこれまでどのような凄惨な扱いを受けていたのかを語っていた。
そこから類推し、念のためではあるけれども
船医さん以外の男性陣には面会をお断りしている。
お兄さんからの預かりものを気にかけている船長さんも、
女性には無類に優しいコックさんはもちろんのこと、
珍しい客が気になるそぶりの剣士さんも、
治療に必要な道具の運搬を手伝いながら心配している狙撃手さんも。
コックさんは10分おきに倉庫の扉の前に立っているし
ほかの3人も折を見ては気にしているようではあったけれども
面会謝絶。
目を覚ましたら彼女が驚いてしまうかもしれないから。
そう説明はしたけれども。
まあ、嘘でもないし。
本をゆっくり読む時間が増えたので、
どんどんとページが進む。
予定していたよりも早く読み終わってしまうかもしれない。
残りのページ数を厚みで測ろうと本を閉じると
目の端で何かが動いたような気がした。
その何かを追うようにベッドに目線を移すと
天井をぼぅっと見上げている彼女が、いた。
初めて見た、その瞳は
目は開いているのに
何も映していないかのようで。
意識を取り戻したのか
そうではなくて、ただ目が開いているだけなのか。
とにかく船医さんを呼ばなくては。
「ここはゴーイングメリー号よ。あなたに危害を及ぼす人はいない」
彼女はこの船に来たときから気を失っていたのだ。
どこにいるのか、まったくわからないだろう。
そう思っての声かけだった。
驚かないように、なるべく静かな声で。
ただ、安心してほしかった。
海賊船である、という点は
彼女のこれまでが不明だったため、
ひとまず伝えずに。
私の声が聞こえているのか、いないのか。
反応はない。
椅子からそっと立ち上がり
船医さんを呼ぼうとドアに手を掛けた時。
遠慮がちに向こう側から、そのドアが開かれた。
開いたドアの先には船医さん。
さすが。素晴らしいタイミングだわ。
「彼女が目を覚ましたの。ただ、反応がない」
そう伝えると、複雑な表情をして
すぐに彼女の隣に走って行った。
彼女の目線の先に船医さんがくるよう
後を追った私が彼を抱え上げる。
「おれはトニー・トニー・チョッパー。医者だ。目を覚ましてくれて、嬉しい」
船医さんが微笑みかけると
彼女の瞳が揺れた。
初めての反応だ。
少しは回復しているのかもしれないと
思わず笑みがこぼれた。
「痛いところはないか?」
質問されている。
そう理解はしたようだ。
もぞもぞと手が動き
ゆっくりと口が開く。
何か・・・言ったようだった。
しかし伝わってきたのはかすかに震えた空気の振動だけ。
声が出ていない。
喉をその手で掴み
音を絞り出そうとしている様子も見えたが
唇から言葉がこぼれ出てくることはなかった。
もしかしたら自身では発声したつもりだったのかもしれないが。
ずっと寝ていたこともある。
何日も食事をしていない可能性が高い。
それが原因で声が出ないのかもしれない。
船医さんが焦らないように、と伝えると
彼女は笑ったようだった。
青白い顔ではあったが
口角が少し動いたような。
唇を少しだけ動かして
音の出ない言葉を紡いだ。
ありがとう。エースは?
Prologue -6 考古学者からみた彼女
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