天気は快晴。
まさに釣り日和。



こんな平和な日は釣りに限るよな!と、
甲板から釣竿を投げ
魚の食いつきを今かいまかと待っている。



もちろんルフィと競争だ。
あいつはメリーの頭の上という特等席から釣竿を投げているようで
おれからすると、そこで釣れるわけがねぇ。



これは勝ち勝負。もらった、と思わず顔がにやけていた。



つい先ほど、話の内容は聞こえなかったが
ナミに怒られていたようだし。
集中もしていないだろう。



今日の敵は、弱い。



くい、くい、と感触のあった釣竿を
自信たっぷりに引き上げて
その先に食いついていた魚をバケツに放り投げる。



釣りをはじめて30分ほどか。
すでに7匹とは。
手ごたえがあるとはこのことだ。



バケツの中がいっぱいになりそうなのか、
入っている魚がぱしゃぱしゃと音を立てて
暴れている。



大きくしぶきが飛んで、
メインマスト近くで寝ているゾロにかかりそうだが
そんなことで彼は起きないだろう。
・・・そもそもいつから寝ていたんだ?
つい先ほどまで鍛錬に勤しんでいなかったか。



もう1匹釣りあげたらルフィに勝利を宣言して
サンジのところへ魚を持っていこう。
おそらく看病をしているロビンへの差し入れをつくっているかなにかで
ラウンジにいるだろうし。



この勝負にはいつもチョッパーも加わわるところだが
あいつは今、本業の医者で忙しい。




5日前にこの船に乗ってきたルフィの兄の女。
絶賛その彼女の診察、看病中である。



しばらく張り詰めたような緊張感で診察していたが
3日前に目を覚ましたとかなんとか。
そこからはたまに会うチョッパーの顔も
疲労が濃いものの、少しほっとしたような表情を見せていた。



彼女の容体は・・・正直おれたちにはよくわからない。
交代でメシを食べにくるナミとロビンが
状況を説明してはくれるが、直接見たわけではないし。



とりあえず目を覚ましはしたが・・・
なんだか精神状態がよろしくないとか。



メリーに乗り込んできた際の彼女を思い浮かべれば
精神状態はそりゃ良くはないだろう。
おれからは詳しくは見えなかったが・・・
これまでいた場所では良い扱いは受けていなかったように思う。
ルフィの兄との関係性も謎なので、詳しいことはわからないが。



診察の手伝いで水の入ったバケツやら
ふかふかのタオルやら
なんだかんだと重いもの軽いものを運び込んではいるが
倉庫内で彼女に会ったことがない。



まあ、理由もなくあの3人がおれらを会わせないようにすることもないだろうし、
元気になれば彼女の方から出てくるのだろう。



新鮮な魚でも食えば元気になりそうだが
サンジの言うにはまだ固形食が食べられないとか。
どんなにチョッパーが優秀でも、
点滴だけでは回復も遅いだろう。



美味しそうな匂いで食欲が出たりしないもんかね。
そんなことを考えながら釣竿を振りかぶり
大きく遠くへ投げた。



「・・・ッイテ!」



水面への着水とは違う感触。
こつんと、何か軽い石にでもぶつかったような。



慌てて船の手すりに駆け寄り、水面を見下ろすと
上半身裸でオレンジのハットが眩しいルフィの兄が笑っていた。



「今日の晩メシは魚か?うまそうだな」



予想外の相手に驚き、口をぱくぱくさせている間に
ルフィの兄は彼の船から身軽な動作でメリーに飛び乗る。



いつものことだが、どう見ても強そうな見た目のくせに
身のこなしが異常に軽い。
そして受ける印象がルフィに似ている。



兄の声を聞きつけたのか、ルフィもナミもこちらを向いた。
その様子を見てから、エースは深々とおれたちに頭を下げる。
相変わらず礼儀正しい人だ。



「突然邪魔した挙句、頼み事までして申し訳なかった。
 おれのお姫様はどうなった?」



いつも突然やってくる彼だが、皆彼の来訪には慣れてきたのか
当たり前のようにメリー号に立っていても
誰も驚いてはいないようだった。



兄を釣り上げたおれだけが驚いたってことか。
なんだか納得がいかない。



やっと戻ってきた、とでもいうように安どの表情を見せたナミが口を開く。



「3日前に意識を取り戻したわ。ただ、あまり・・・その、元気では、ないっていうか・・・」



ハキハキと話す彼女には珍しく口ごもっている。
精神面の回復が身体面の回復の遅れにも影響しているとは聞いているが
それだけではないのだろうか。



少し考えるようにしながら言葉を続ける。



「あなたに会いたがって」



バン・・・ッ!



ナミの言葉を遮るように
唐突に大きな音を立てて扉が開いた。



慌てた様子でロビンが倉庫から飛び出してくる。
こちらも焦っているのは珍しい。



「彼女を見なかったかしら?」



彼女・・・彼女といえば、ナマエナマエナマエしかいないだろう。
だが、ナマエナマエナマエはロビンがそばについていたのでは。



「中にはいないのか?」



問いに対して問いで返してしまったが、
ロビンはそんなことも気にもせずに首を横に振った。



倉庫の入り口のすぐそばで釣りをしていたが、
扉の開く音は聞こえなかった。
聞いたのは、ロビンと看病を交代したナミが
新聞を読みながら倉庫から出てきた時だけ。
とはいえ、ずっと扉を見ていたわけではないが。



今もメインマストで寝こけているゾロが見たのかもしれないが
彼女がふらふらと1人で出てきたのであれば
気づいて声をかけそうである。



勘の鋭さでいえばルフィが一番。
ゾロが気づかず、ルフィも気づかないなんてことがあるのか。
ルフィを見ると、腕を組んで首を傾げていた。



倉庫か風呂の方にでもいるんじゃないか?
そう思って口を開こうとしたとき。



ルフィとエースの顔が同時に変わった。



目を見開いたかと思えば
信じられないスピードで船尾に向かって走り出す。



目の前を風が通り抜けたかと思う速さにおれも目を見開くが
こうしちゃいられないと慌てて後を追った。



「・・・ナマエナマエナマエ!」


階段を駆け上がり
ラウンジの横を抜けて
もう一度階段を昇ると
船尾にたどり着く。



船尾を覗き込んだおれが目にしたのは



歯を食いしばって腕を伸ばすルフィと
甲板を蹴って船尾に右手を伸ばすエース。



そして、船尾の手すりを越えて
音もなく海に落ちていこうとする
白いワンピースの女性。



久しぶりに見たナマエナマエナマエは
うっすら笑っているようにも見えた。



「・・・ナマエナマエナマエー!!!」



おれが声をあげる間も無く
彼女の体は船を越えて
見えなくなる。



躊躇なく飛んだエースの体も
海に向かって落ちていった。





Prologue -7 狙撃手から見た彼女








update---20200106





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