ミルクティーでも飲もうかしら。



そう思って開いていたページにしおりを挟み
読みかけの本を閉じた。
ラウンジの階段から腰をあげて
軽くパンツをはたく。



ほんの少しの階段を昇れば
キッチンのあるラウンジのたどり着く。



この時間ならおそらく
おやつを作っているコックさんがいるだろう。


一言お願いをするだけで
とても美味しい飲み物をつくってくれる彼のうでは
なかなかに素晴らしいもの。



がちゃりとドアノブをまわしてラウンジの扉を開ける。



「コックさん、ミルクティーを・・・」



お願いできないかしら?



そう頼もうとして、
キッチンには彼以外の姿もあることに気づく。



なぜかお揃いのエプロンをして。
なぜかお揃いのバンダナまで被り。



泡だて器を持つ彼女と
なぜか彼女の後ろに立ち、
その泡だて器を持つ手を握る彼。



これは、どういうことかしら。



「ロビンちゅわぁーん!今すぐミルクティーを用意するねぇー!」



私の姿を見るや、
いつものように目をハートにして
お返事をくれる・・・のはいいのだけど。



泡だて器を持つ手は決して離さなかった。



うーんと。
それはあまり、どうなのかしら。



少し面白くなってしまって、
私はキッチンに近づき、
彼女が左手で持っているボールの中を覗き込む。



その左手は、当たり前のように
コックさんの左手が包み込んでいて。



ただ、そんなことも構わず
彼女はひたすらボールの中を泡立てている。



様子を見る限り、彼女に下心も何もなさそうだったので
これは、彼のほうに問題がありそうだわ、と考察する。



「ナマエナマエナマエちゃん、このまま角が立つまで続けて」



私の目線に気づいたのか、コックさんは肩をすくめて
彼女から離れた。



ナマエナマエナマエは頷いて、熱心にボールをかき混ぜている。
彼女がお料理をする姿は見たことが無かったから
これが初めてなのではないかしら。
素人目に見てもなかなか筋は良さそう。



そんなことより。



涼しい顔で紅茶を淹れ
ミルクをそっと注いで
淹れたてを用意してくれたコックさん。



どうぞ、ととびっきりの笑顔で出されたティーカップ。



私はにっこり笑ってそれを受け取る。
立ち上る湯気と共に漂ってくる香りは
すぐに口をつけたくなるほど。



こちらは確信犯ね。



コックさんの目を見返すと
彼は照れたような表情をするが
それ以上は口を開かない。



一口、飲んだミルクティーは
やはりいつもどおり美味しかった。



「味も香りも素晴らしいわ。ありがとう」



お礼を伝えると
彼はくねくねとからだを躍らせて
喜びを表現している。



それは相変わらずなんだけど。



「サンジくん、これでいいか見てもらってもいい?」



泡だて器を使って生クリームの角を立て
真剣な表情でコックさんを見ているナマエナマエナマエ。



とてもきれいな白いクリームを味見したのか
唇の端にも生クリームがついていた。



これはよろしくないわね。



コックさんが彼女のもとに行くよりも早く
彼女の元に進み、
かわいらしい顔に手を伸ばした。



唇の端のクリームをぬぐって
その指をぺろりと舐めあげる。



「今日のおやつ、楽しみにしているわね」



ちらりとコックさんを見ると
真っ赤な顔。



悔しいのか、なんなのか、わからないけれど。
私の勝ちね。



「船長さん、探してくるわ」



コックさんのいたずら心に牽制の一言を残し、
ラウンジを出た。






































船長さんはいつも通り
サニーの頭の上にいた。



あなたの大事な彼女が
ちょっとしたピンチを迎えているというのに。



足を延ばして昼寝体制。



ミルクティー片手に近づくと
ひょいっと身軽にからだを起こす。



「おやつの時間か?!」



嬉しそうな船長さん。
食に対して貪欲なのはいつものこと。



「今日のおやつは、ナマエナマエナマエとコックさんの合作よ」



彼女の名前を出せば
船長さんはすぐに反応する。



少し驚いた顔をしてから
大慌てでサニーの顔から降りた。



絶対に俺が一番に食べる!と息巻いて
ラウンジに走っていく。



大好きな彼女がいるなら、
狼さんから守ってもらわないとね。



ナマエナマエナマエと食べ物。
この2つに敵うものはないんじゃないかしら。



そんなスピードでラウンジに走った船長さんの後ろを
興味深く追った。





































船首にいた航海士さんにも声をかけて
2人でラウンジに向かう。



「離れろぉぉー!!!」



ものすごいボリュームの船長さんの声と
樽か何かが転がったような音が聞こえてきた。



どうやら
コックさんは私の牽制もむなしく
ナマエナマエナマエを諦めなかったようで。



驚いて慌ててラウンジのドアを開ける航海士さんに続いて
中に入ってみる。



何かが飛んできたので手を伸ばしてみると
ケーキの乗ったお皿だった。



弧を描いて飛んできたお皿の上には
レモンケーキと、添えられた生クリーム。
飾りつけにはミントの葉が一枚。



しっかり受け止めたので
幸い、数ミリ横にずれただけで、形は崩れていない。



ラウンジの中は仲間同士が乱闘中。



ナマエナマエナマエを腕に収め、もう片方の手でコックさんを押しやる船長さん。
その船長さんの腕を得意の足技で受け止めているコックさん。



樽と思ったのは、ラウンジの椅子が転がる音だったようだ。



船長さんにしっかり抱きしめられているナマエナマエナマエは、
困った顔をしているかと思えば。



私たちのほうをみて、ほっとした表情を浮かべていた。



「ありがとう、ロビン!ケーキ、受け止めてくれて」



2人の喧嘩もよそに、彼の腕をぴしっと叩いて
私たちの元に走るナマエナマエナマエ。



「初めて作ってみたの。生クリームだけなんだけど。よかったら食べてくれる?」



差し出してくれたフォークを受け取り
ケーキを掬おうとして
手を止める。



何がなんだかわからない航海士さんは
ケーキとナマエナマエナマエを交互に見てから
船長さんとコックさんの間に入った。



これ以上2人が暴れると
メリー号に何らかの損害が出る。
喧嘩両成敗とばかりに、航海士さんが2人を怒ると
船長さんは声を張り上げた。



「だってよぉ!サンジが後ろからナマエナマエナマエを抱きしめて、あーんしてたんだぞ??」



素直な船長さん。
彼は見たまますべてをは話したのだろう。
私の目の前にいるナマエナマエナマエの顔が少しだけ赤くなる。



「そういうつもりはなかったのよ!私だって・・・」



船長さんの方を見ないまま
彼女が声を張り上げた。



おそらく。
できあがったケーキを前に、おやつタイム前の味見と称して
コックさんは彼女と2人で一口食べようとしていたのだろう。



それも、先ほどのような体制で。



ケーキに夢中だった彼女にも非はある。
最も悪いのは、コックさんだけれども。



航海士さんに怒られて床に座り込みながら
いまだに怒り狂っている船長さん。



私は手元のフォークをお皿に乗せると
ケーキを彼女に手渡した。



ナマエナマエナマエの細い肩をつかみ
くるりと後ろを向かせる。



ぽんっ・・・と軽く腰をたたいて
前に進むよう促すと
勘のいい彼女は理解したようだ。



お皿をしっかり握って
船長さんのもとへ。



何をするのかと見守っていた全員の前で
船長さんの前にしゃがむと
ケーキを一口すくって
生クリームをすくって
そのまま彼に差し出す。



「はい、ルフィ」



美味しくないかもしれないけど・・・とうつむく彼女。



ぱくっと一口食べるやいなや
途端に嬉しそうに笑う船長さん。



喜怒哀楽のわかりやすさが
彼のいいところ。



怒っていた様子はどこへやら。
幸せそうな笑顔を浮かべると
そのまま彼女の顎をすくあげる。



感想でも告げるのかと思いきや
そのまましっかり口づけた。



コックさんの声にならない悲鳴が聞こえ
驚いた航海士さんは一歩下がったが
私は思わず拍手を贈るところだ。



周りを全く気にもせず、
ナマエナマエナマエに甘くて長い、
深いキスを。



彼女の右手はフォークを持ち
左手はお皿を持ったまま
空中で震えている。



抵抗することもできず
ただ、船長さんのキスを受け続ける彼女の顔は
どんどん赤く染まっていく。



緊張と恥ずかしさからか
息継ぎもうまくできていないナマエナマエナマエが
軽く首を横に振ると
それに気づいた船長さんが、
やっと顔を離した。



「うまかった。ごちそうさま」



シシシ・・・!といつもの笑い声をあげながら
爆発しそうに真っ赤な顔の彼女を抱きしめる船長さん。



さすがにここまでは予想していなかったけれど。



やっぱりこの一味は楽しいわ。



床に座ったまま幸せをまき散らす2人の隣で
転がっている椅子を元に戻す。



持っているティーカップをテーブルに置いて
ショックを受けた表情をしているコックさんを見やった。



「ミルクティーのお代わりをお願いできるかしら」





甘いおやつ








(次に人前でキスしたら、キス禁止にするから!)
(わりぃ、ナマエナマエナマエがウマそうだったからさー)
(〜・・・!私も、今回は、ごめんね・・・?)





update---20200128





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