ぽふん・・・っ



顔面に何かが当たったのを感じ、
驚いて飛び起きる。



いつの間に寝ていたのか・・・
軽く頭を振って、
覚醒を促した。



昨日小さな港町を持つ島を出港したので
今日は洋上日だったはず。



なんだか喉が渇いたのでラウンジに来てみたが
サンジくんの姿が見当たらなかった。



勝手に飲み物をつくってもよかったのだが、
せっかくならサンジくんにお願いして
美味しい飲み物でのどを潤したかった。



キッチンに入ることにも気が引けたため
端に置いてあるソファで待とうとして。



腰かけて、
いつのまにかうとうとして
いつのまにか眠っていた、ようだ。



ラウンジの外の甲板からは
ルフィとウソップとチョッパーの楽しそうな声がする。



また3人で遊んでいるのか・・・
そういえば今日は朝ごはん以外、
ルフィの姿を見かけていない。



ぼーっとどうでもよいことを考えている私の前に
美味しそうな香りのするマグカップが差し出される。



「おはよう、ナマエナマエナマエちゃん。カフェラテでいいかな」



顔をあげると、
ニッコリ笑ってコーヒーマグを差し出す
サンジくんがいた。



起きぬけはいつもカフェラテが飲みたい。
そう思っている私の嗜好を把握している彼は
やっぱりフェミニストだと思いつつ
微笑み返してからマグを受け取った。



「熱いから気をつけて」



ほどよく温めたマグに
タイミングを計って淹れてくれたカフェラテ。



ソファで眠りこけている私を見て、
いつ起きてもいいように準備をしていてくれたのだろう。



と、いうことは、寝顔を見られてしまった可能性もある、が。
口を開けて、いびきをかいたりしていないといい。
ヨダレも出てはいなかっただろうか。
何も考えずにいつのまにか寝てしまったので
ただ恥ずかしい。



最も、それくらいではサンジくんが女性を嫌いになることなど
無さそうだけれど。



「ありがと。次はもうちょっと可愛い寝顔を見せられるように努力する」



コーヒーマグを両手で包み込んで一口飲んだ。



じんわりと手が温まる。
熱すぎずぬるくない、ちょうどよい温度のカフェラテが
喉を伝った。



ほのかなエスプレッソの苦味と
ふんわり包み込むようなミルクに
少しだけ入った甘いお砂糖。
まさに今、私の飲みたい飲み物だ。



本当にサンジくんは、飲み物ひとつをとっても
素晴らしいコックだ。



「サンジくんの飲み物は、いつも最高だわ」



カフェラテの美味しさに笑みがこぼれてしまった私を見て
サンジくんは嬉しそうに笑った。



「ありがとう。君の寝顔も、その言葉も、笑顔も、おれにとっては宝物だ」



ルフィには到底言えそうに無いセリフを
気取りもせずに発する。



そんなことを至近距離で言われたら
こちらが照れてしまいそうだ。
毎日平常心で返すのが大変だということに
彼は気づいているのだろうか。



サンジくんが腰をかがめた。
これは・・・?と呟きながら
ソファの下に転がっているふわふわの何かを拾い上げる。



「クッション・・・?何だってこんなところに」



黄色い星型のクッションだった。



まったく見覚えが無い。
ソファに置かれていたのだろうか。
私が座る時に気づかないうちに落としてしまったのか。



とにかく自分のものではないし、
見たことも無いので頭を振って知らないと回答した。



クッションを買うとしたら女性のようにも思うが
ナミやロビンがラウンジのソファのためにクッションなど買うだろうか。



購入者も所有者も想像がつかない。



サンジくんも同じことを考えたのか、
思案顔のまま星型のクッションを抱きしめて
首を傾げていた。



なんだか少し
可愛らしい。



黒いスーツに黄色い星はよく映えるし
きっちりしている彼が可愛い小物を持っているのも
あまり見ない姿。



思わずくすりと笑ってしまった。



「可愛いサンジくん、案外好きかも」



反射的にサンジくんの顔が紅くなる。



そんな顔ををしてクッションを持っていると
ますます少年のようだった。



「ありがとう、ナマエナマエナマエちゃん。おれはいつでも君のことが・・・!」



ぽふん・・・っ



お礼を言いかけたサンジくんの頭に
高速で何かがぶつかって
彼は反動でよろけた。



話を邪魔されたと怒りの形相で
頭を抑えて後ろを振り向くが
そこには何もないようで。



誰もいないし、何も無い。



ただ、足元には水色の丸型のクッションが転がっていた。



怒りの矛先を見失い
どうなっているのか理解できない表情をしている。



ソファに座っている私からは
サンジくんが影になって
あまり周りは見えない。



謎解きのヒントはその足元のクッションのみなのか。



今ふと思い出したが、
私も顔に何かが当たった感触がして
眠りから覚めたように思う。



もしかして、黄色い星型のクッションは私の顔に当たったものだったのでは。



足元の水色の丸型クッションを拾い上げると
表裏を交互に見比べて、カラクリは無いかと確認するサンジくん。



どう見てもただのクッションで、
あえていえばそれぞれ違う生地でつくられているくらいの違い。



2人で首をかしげて、
その姿がおかしくて笑いあう。



手にしているカフェラテをゆっくり飲んだ。



サンジくんはクッションを裏返したり
斜めにしたり
殴りつけてカラクリが無いか確認したり
未だにまったく腑に落ちない様子だ。



わー・・・・!!



甲板から歓声が聞こえた。



思わず外を見ると、はしゃいでいる船員たちが見えた。



私から姿を確認できるのはウソップだけだが、
ピンクの何かを持って、それを投げているように見える。



雲ひとつ無い海の上で
楽しそうに遊んでいるのを見て
隣で一緒に外を眺めているサンジくんと目が合い
2人で釣られて笑いそうになりつつ。



ふと、そのピンクの ”何か” の正体に気づく。



ピンクのハートのクッション、では。



サンジくんの腕の中にある2つのクッション。
急に私たちに飛んできたそれ。
外でウソップに遊ばれているクッション。



あぁ・・・と思わずため息が出た。



目覚まし代わりに顔に飛んできたクッションを思い出す。
よく考えてみると、遠慮がちだったようにも思う。



対してサンジくんの頭に飛んできたクッションは
風を切るようなスピードだった。



どちらも投げた相手が見えないなんて、
そんなことができる人は
そんなことをする人は
ひとりしかいないじゃない。



急にため息をついて呆れてしまったことが不思議だったのか
サンジくんが私の顔を覗き込んだ。



「ナマエナマエナマエちゃんどうし・・・!」



ぽふん・・・っ



また素晴らしいタイミングで、
風を切って飛んできたのは
ピンクのハートのクッションだった。



サンジくんの頭に当たり、跳ね返ってソファの横に転がる。



今日一番のスピードだったように思うけど
さすがにクッションでも痛いのではないだろうか。



よろめいたサンジくんは私の隣に片手をついて
転ぶのを防いだ。



頭を押さえて勢いよく後ろを振り返る。
何度も頭に攻撃されては腹もたつだろう。



相変わらずこのラウンジには私たち2人しかいないけれども。



きっとあの扉の向こうには、中を伺っている彼が
もうずっとそこにいるはず。



私はマグカップを片手に持ち替えてから
足元のピンクのハートのクッションを拾い上げた。



ふわふわで
ふかふかで
抜群の手触り。



どこかで触ったことのあるような
ずっと撫でていたくなるような肌触りだった。



「ルフィ、これ、どうしたの?」



名前を呼んだら、0.1秒で扉が開いて
嬉しそうな船長が飛び込んできた。



朝ごはん振りに見たルフィの笑顔が
ひとっとびでソファに近づく。



目を丸くしたサンジくんの首根っこを掴むと
そのまま後ろに放り投げて
立ち位置を一瞬で交代させた。



私の前の景色はルフィでいっぱいになる。



あまりに予想通りの展開で、相変わらずわかりやすい彼。



サンジくんの怒った声がルフィの背後から聞こえるけど
全く気にも留めずに笑顔のまま、
私の腕の中のクッションを指差した。



「チョッパーみたいだろ、それ?」



ニシシシ・・・といたずらっ子のように笑う。



さきほど撫でたときに、
どこかで触ったことがある、と感じたはずだ。



彼の言うとおり、チョッパーを抱きしめた際の抱き心地にそっくり。



もう一度撫でてみると
チョッパーの毛並みととてもよく似ていて。



思わずそのままクッションをぎゅっと抱きしめた。



チョッパーのほうが温かくて、
抱きしめるとくすぐったがって笑うし
もっと可愛いのは事実だけれども。



抱き心地を確かめていると、
彼の腕が伸びてきて、
腕の中からクッションが奪われてしまった。



そのままクッションの行方を目で追う。



彼はそのクッションを自分のお腹にしまいこんでしまったので
何を考えているのかさすがにわからず、
首をかしげた。



そんな私にルフィは腕を広げる。



ほら・・・と言っているが
何がなんだか。



抱きしめてほしいのだろうか?



ルフィの背後にはまだ怒ったままのサンジくんがいるだろうし
人前であまりそういうのは得意ではない。



キスしろ、と言われているのよりはマシだとしても
なぜここで。



ますます首をかしげたまま動けないでいると
ルフィは腕を広げたまま、唇をとがらせた。



「なんだよーナマエナマエナマエがチョッパーならいつでも抱きしめたいって言うからだろ」



拗ねてもなお、その腕を閉じようともせず
手をパーの形にしたまま固まっている。



ルフィに言われてもあまりピンときていないが
おそらく、たぶん、少し前の夜に
そんなことを言ったような気もする。



すごく眠くてすぐにでも寝てしまいたかった夜に
ルフィが何度も抱きしめようとしてくるから
その腕から逃げながら
チョッパーのふわふわならいつでもぎゅっとしたいとは
言ったかもしれない。



瞼も開けられないような眠さの中で
ふわふわのチョッパーなら抱き心地もよく
安心して眠れそうだな、なんて思っていたような。



私を求めてくる彼を避けるのは難儀で
それがすぐに面倒になってしまい
文句を言う彼を置いて
自分のベッドに歩いて戻ったような記憶がある。



あの夜は眠くて眠くて記憶も定かではないので
自分が何を言ったか、なんて正しくは思い出せないが。



もしかしてあの時のことを気にして
チョッパーの抱き心地に似たクッションを探していた、のだろうか。



そんなつもりではなかったのだが、おそらく彼は真剣だ。



否定しても伝わるかどうか。



「ルフィ、確かに私はチョッパーのことは大好きだけど」



あの時は眠かった。
ただそれだけ。



ルフィに抱きしめられて
求められて
嫌な気分になるなんてあるものか。



チョッパー以外は抱きしめたくない、
抱きしめられたくない、
なんて思うなら、
私があなたの笑顔を見るだけで幸せな気持ちになることなどないだろう。



伝えようと口を開いたら



我慢できなくなったのか、
彼と私の距離が急激に縮んだ。



ぽふ・・っと私の顔が彼のお腹のクッションに当たる。



彼の腕が私の背中にまわされて。



「仲間は大事だけど、おれ以外にそんな簡単に好きって言うな」



拗ねた口調のまま、ぽつりと呟かれた。



彼は素直で、嘘が無いから
きっとこれは
嫉妬
してくれているのだと思う。



そんな気持ちがくすぐったくて
私と彼の距離が0ではないことが少しはがゆくなる。



でもおそらくこの部屋にはサンジくんがまだいるし
私の顔はクッションに埋まったままで
良かったのかもしれない。



きっといま、私の顔は真っ赤だ。



手の中にあるマグカップから
美味しいカフェラテがこぼれていないといい。



そんなことを唐突に考えて
気を紛らわせようとしてしまった。



それなのに。



「これなら今夜は一緒に寝てくれるよな?」



雰囲気をぶち壊しかねない信じられない言葉を吐くから
反射的に立ち上がってしまった。



カフェラテが大きく揺れて
少しだけ床にこぼれてしまったかもしれない。



急に腕の中から立ち上がった私に驚いて
ルフィは後ろにバランスを崩したけど
そんなことはどうでもよかった。



ほかに人がいるところで言うべきことじゃない・・・!



身体中の熱が顔にまわっているのではないかと思うくらい
絶対に紅い顔を見られるのが恥ずかしくて
下を向いてそのままキッチンまで歩いた。



「今日はサンジくんと朝までここで飲むから」



船内中に響いたんじゃないかと思うくらいの
ルフィの大きな抗議の声と
両手を挙げて大喜びしている
サンジくんの声と
2つがラウンジに響き渡った。



今日はルフィとは目を合わせないようにしよう。



そう考えながら、落ちていたハートのクッションをそっと拾い上げた。






気持ちの示し方








(サンジ、ナマエナマエナマエに近寄りすぎだ!)
(お前は嫉妬の対象が多すぎんだよ!)





update---20180306





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