朝ごはんの時間は毎日だいたい同じ。
だからその時間にあわせて、私の身体は覚醒をはじめる。



女部屋の他の住人であるナミとロビンも同じで、
この時間になると目を覚ます。



なんとなく3人で顔を見合わせて朝の挨拶をし
なんとなくそれぞれ身支度を整える。



2人とも寝起きでさえ美人、なんて思いつつ
顔を洗って歯を磨いて
髪型を整えてメイクをする。



すべて急ぎ気味に済ませてから、
ナミとロビンがこちらを見ていないことを確認し
そっとドアに近づいた。



倉庫と繋がるドアとの距離を適正に保つように気をつけながら、
特にそのことなど気にしていないように装う。



ここ最近は毎日朝から気を遣って
同じように装っているけれども
もしかしたらいちにちの中で一番大変な時間かもしれない。



すぐにコツコツ・・・と音が聞こえてくる。



それだけで、少しだけ頬が緩んでしまいそうになり、
顔の筋肉を引き締める。



コツ・・・と、女部屋の前で音が止み、
遠慮がちにノックが2回。



「おはよう、レディ達。朝メシの支度ができてるぜ」



サンジくんのいつもの朝の挨拶。



また頬が緩みそうになるけれど、
しっかり堪えてから周りを見回す。



右を見ると
洗った顔をタオルで拭いているナミと目があって。



あ・・・と口を開きかけると、
ナミは人差し指を口元に当て、唇の動きだけで
どうぞ、と言われた。



ありがとうの代わりにひとつ頷いてから
ドアに向き直る。



「おはよう、サンジくん。すぐにみんなで行くね」



声が弾みそうになるのを押さえて
できる限り平静な声を出した、つもり。



ドアの向こうの彼がふわりと笑った気がした。



「おはよう、ナマエナマエナマエちゃん。
 早く君に会いたいから、ここで待っていてもいいかい?」



彼はいつもこう答える。



頬がゆるみそうになるのはこれで3度目。



毎日堪えるのに必死なこちらの気持ちも察して欲しい、なんて
相当身勝手なことを考えつつ
断ろうと口を開く。



ナミとロビンに時間のプレッシャーを与えるだろうし。
サンジくんだって早くキッチンに戻って、朝食の仕上げをしたいはず。



それに・・・



毎朝朝食を知らせに来てくれるだけで十分。
もう戻って、



と、伝えようとすると、
肩から生えてきた自分のものではない手で
口を塞がれてしまった。



「あら、今日は髪型が違うのね。可愛いわ」



後方からロビンの澄んだ声が聞こえる。



口を塞いでいる手を除けようと首を振ると
いつのまにか隣にいたナミが扉を開けて
私の背中を押し出した。



「はい、サンジ君。ロビンとすぐに追いかけるから。
 お姫様をちゃんとラウンジまでエスコートするのよ」



ぽん、と肩をたたかれたと思うと
そのまま私の背後の扉は閉まる。



あっという間に、サンジくんと廊下に2人きり。



ナミとロビンに毎日気を使わせているのが申し訳ないと思いつつも
目の前にいる彼に目を移した。



ドアの横の壁にもたれて
煙草の煙をくゆらせて
優しい笑顔がこちらを見下ろしていた。



恭しく頭を下げ、
片手を差し出して。



「おはようございます、プリンセス。
 ラウンジまで朝のデートを」



さらさらの黄色い髪の毛が少しだけ揺れた。



今度こそ、頬がゆるむのは押さえられない。



差し出された手に、自分の手を重ねる。



そのまま手の甲にキスが落とされるのを
目で追う。



まるで映画のワンシーンの再現のような彼の仕草にはがゆさを感じるけど
それよりも今日の朝も彼に会えたことに感謝する気持ちが上回る。



彼が顔を上げて微笑みをくれたら
その腕に自分の腕を絡めた。



手を繋ぐのも好きだが、
腕を絡めたほうが距離が近い気がして
今日はそういう気分。



ラウンジまでの足取りは、
ひどくゆっくり。



ほんの少しだけの2人の時間。



いつもナミとロビンは追いついてこないから
2人の優しさに感謝する。



サンジくんの視線を感じて見上げると
彼は高い位置でアップにした私の髪型を見ていた。



サンジくんが目を細める。



急に距離が近づき
首筋に吐息がかかって
軽いリップ音が響いた。



「んー・・・」



キスした後に、頭をひねっている。



朝から首筋へのキスは
痕が残らないといい、などと考えつつ
彼を見上げた。



眉間にしわが寄っている。



そんなにアップヘアが嫌だったのだろうか。
今日のファッションに合わせて珍しく頑張ってみたのだけど。



「ストール、持ってなかったっけ?」



眉間にしわを寄せたまま、
真剣な目でそんな質問をされた。



サンジくんが甲板に繋がるドアを開く。
心地よい風が吹き抜けた。



彼の突然の質問の意図はよくわからないが
今日は寒くなる予報でも出ていたのか。
こんなに澄んだお天気の朝なのに。



ストールならいくつか持っているけれど、
サンジくんに貸してあげられそうな柄はあったか。



少し考えてから口を開いた。



「ナミにもらったのがいくつかあるけど。
サンジくんに貸せそうなのはあるかな・・・」



サンジくんがふっと笑った。



そのまま急に立ち止まるので、
腕を組んでいる私もつられて足が止まる。



「おれじゃなくて」



絡んでいた腕が解かれる。



サンジくんの顔がゆっくり近づいてきて、
首筋で止まった。



黄色の髪が頬と首を撫でて
くすぐったい。



ちくり・・・



小さな痛みが走った。



「ちょっと、サンジくん!」



何が起こるかわからず、
ぼーっとしていた私の意識が
あわてて覚醒する。



これは、絶対に、痕をつけられた。



抗議の声とともに
覆いかぶさっているサンジくんの身体を押すが
彼の身体は少しも動かない。



それどころか両腕を取られてしまい
動くことさえできなくなる。



そのまま彼の顔が移動して、
私の首筋を1周するように
何度も何度も。



聞こえるのはリップ音、
感じるのは小さな痛み。



女部屋からそう遠くない
誰でも通れる甲板の端で。



朝から吐息を漏らすことになった。



「ねぇ・・・やめ、て・・・」



はぁはぁと小刻みに漏れてしまう吐息。
感じる顔の熱はかなり高くて。



誰もここを通りかからないことを祈るだけだった。



ナミもロビンも、
まだ部屋から出てこないでくれるといい。



私の顎をすくうように持ち上げた彼の長い指。



見上げると、
夜によく見る顔をした彼と
視線が絡み合った。



そのまま勢いよく唇に口付けられる。



息が上がっていたところに
深いキスをされて
空気の吸い方がわからなくなりそうだった。



角度を変えて
ゆっくり舌が絡め取られて



深く
深く。



朝であることを忘れそうなキスが続く。



「ん・・・ふっ・・・・」



酸素が不足しすぎたのか。
頭がぼーっとして、
思わず膝の力が抜けそうになったとき。



やっとサンジくんの顔が離れて
代わりに腰を抱かれた。



「ほら、ストール、必要だろ?」



急に解放されても
頭はまわらない。



なんとか自分の足で立とうとして
彼のスーツを掴んだ。



嬉しそうな声で
一緒に取りに行こうと言って
女部屋に戻ろうとするサンジくん。



切り替えが早すぎる。



こちらは朝とは思えないキスのフルコースを提供されて
ふらふらだというのに。



せっかくセットした髪の毛も少し崩れてしまったかもしれない。



今日の気分に合わせて選んだワンピースが
着崩れていないといい。



先ほどとは打って変わって笑顔全開の彼を睨んだ。
今日は朝からなんなんだ。



掴んでいたスーツを引っ張って
軽く彼のお腹をパンチした。



それでも笑顔が変わらない。



「そんな顔で見上げたって、こわくないぜ?」



嬉しそうなまま、突き出した私の右手を優しく掴んで
手を繋ぐ。



そのまま手を引いて倉庫に戻り始めた。



今女部屋まで戻ったらナミとロビンが部屋にいるに決まっているし
こんな顔を見られたらまずいし
何よりも首の周りにはネックレスみたいな痕がきっと残っていて
絶対に戻りたくない。



いやいやをして繋いだ手を引っ張って
立ち止まらせようと試みるが
あまり効果はなかった。



ストール、ストールと嬉しそうに呟きながら
歩を進める。



私はまったく嬉しくないのに。



「もしナミさんもロビンちゃんもいなかったら、ちょっとお邪魔していいよな」



不謹慎なことまで呟き始めた。



ナミとロビンがいればからかわれるに決まっているし、
いないならいないで、このままだと朝食にはいけずに終わる。
いや、私たちがまだ倉庫を出ていないのだから、
絶対に部屋にいる。



コックのいない朝食でダイニングは平気なのか
反論を唱えるが、あまり聞いていないあたり
おそらく準備は万全。
みんなの朝食は問題ないのだろう。



女部屋に2人がいたことで、別の部屋・・・
格納庫に行こうなんて言われたら。



私だけ朝食を食べ逃すことになり、
朝から疲れて
けだるい午後を迎えるのだ。



女部屋には戻りたくない理由しかなかった。



しかしながらこのままラウンジに行っても
こんな姿を他の人には見せられない。



すでに良い選択肢なんてひとつも無いのでは。



今の状態に気づいて唖然としている私とは反対に
楽しそうなサンジくんが女部屋の扉の前に立つ。



「ナミさん、ロビンちゃん、いるかい?ナマエナマエナマエちゃんがストールを忘れちまったんだが」



明日の朝は寝坊しよう。
せめてもの抗議にそう誓った。






今日も彼の声でいちにちが始まる








(毎朝同じことを繰り返すの、やめてよね)
(ナマエナマエナマエはこんなに暑い日にストールなんて巻いてどうしたんだ?)
(おい、コラ、ウソップ!ナマエナマエナマエのことじろじろ見んじゃねえ!)
(朝から元気ね)





update---20180306





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