ビブルカードを作ってくる。



そう言い残してルフィの兄
エースは姿を消した。



正確に言うと、彼の愛船ストライカーに乗って
近くの街にでも行ったのだろうが、
いつ戻ってくるのかはわからなかった。



とある天気の良い午後
珍しく少し焦っているエースが
ゴーイングメリー号に飛び乗ってきたのがすべてのはじまり。



ちょうどそのとき、
私はみかんの様子を見るために高いデッキにいたので
急速でこちらに向かってくるストライカーを
最も早く発見したことを覚えている。



「ルフィ!お兄さんが来るわよ!」



甲板でいつもの通り遊んでいる3人に声をかけて。
みかんの見張りをしていたサンジ君と一緒に甲板に降りた。



程なくして
デッキの手すりに飛び乗る影。



彼がこの船に遊びに来るのはめったにないことだけれども
ルフィの顔を見に来るときは
だいたいこうして
自身の船からメリー号に飛び乗ってくる。



敵ではない、客人が来たことに
お天気の中でのんびりしていた船員たちが集まってきた。



よく見ると、
彼は何かを抱えている。



細くて
白くて
今にも折れそうな
傷だらけの。



「よォ、悪いがこいつを診てくれないか?
 オヤジの船よりもこっちのほうが近かったもんで」



彼が抱えているのは荷物ではなく
女性だった。



顔も
首まわりも
腕も
足も
痛々しい傷がある。



黒い洋服を着ているが
かなり破れており、
あまり意味を為していない。
そもそもこれは洋服なのか。
ただの布をかぶせられているだけなのかもしれない。



顔は青白く
閉じた目は意識が無いことを示している。



誰だろうか。



得たいの知れない女性を船にいれてもいいのか。



しかもきっと彼女は・・・



衝動的に助けたい気持ちが湧き上がる。



私は一瞬迷って、
駆けつけたルフィを見た。



船長は兄への挨拶と同時に
彼の抱えている彼女を覗き込む。



綺麗なレディじゃないか、と隣でサンジ君が叫んでいる中
首を傾げている弟に向かってエースがさらに口を開く。



「ナマエナマエナマエっつーんだけど、頼めるか?
 俺が守る約束をした女なんだ」



その言葉を聞き、
ルフィは迷い無く頷いた。



「チョッパー!頼めるか?」



エースから彼女を受け取りつつ、
可愛く走ってきた船医に話しかける。



私たちの船の医者、チョッパーは彼女を一目見てから
わかった、と頷いた。



「ゾロ、サンジ!ベッドの用意を頼めるか?
 ナミとロビンは彼女を診るのを手伝ってほしい」



船長が受け入れると決めたのであれば
船員である私たちに異論はない。



助けられるという事実に少し安心しつつ
ルフィがこの状況で断るはずもないかとも思い直す。



チョッパーの的確な指示に従って
全員が動こうとすると
手すりに足をかけたままのエースが
ロビンと私に手招きをした。



「2人にしか言えねェことが」



いつもの笑顔ではなく
少し曇った顔で言う彼を見て
先ほど頭をよぎった予感が
当たっていると、確信する。



ちらりと隣のロビンを見上げると
私のほうを見返して、小さく頷いた。



きっと彼女も同じ考えなはず。



エースは笑顔を消して
真剣な目をしていた。



「勘のいいお嬢さんたちは気づいてるだろうが」



先ほどよりも音量を押さえた声で
エースが話す。



自身のお腹を指差して。



「一応調べてくれねぇかな。腹ン中」



あぁ、やっぱり。



わたしとロビンはもう一度目をあわせると
ゆっくりと彼に向かって頷いた。



「ナマエナマエナマエから聞いたわけじゃない。違ってたらそれでいいんだ」



あいつ何も言わねェから、と困ったように頭をかきながら
笑うエース。
きっと空気を変えたかったんだと思う。



ルフィの腕に抱かれて
チョッパーと共に船内へ入った彼女を思い出す。



しっかりと見てはいない。
でもあの傷のつき方。
破れて意味を為していない布。
明らかに何かで拘束されていた腕と足の痕。



細くてだらりと下がった力のない四肢と
彼女の青白い表情。



すべてをあわせると、
なんとなく想像できた。



彼女に何があったのか。



「体力が回復したら、お風呂に入れてあげないと」



ロビンの答えは、せめて私たちがやれることをやるという
最適の回答。



もっとも、目を覚ます前に身体を拭いてあげることくらいはできるだろう。
チョッパーにはうまく伝えないと。



他の船員たちを思い浮かべる。
他は・・・今はまだ黙っておこう。
勘違いかもしれないし、それならそれで最高だわ。



さらに2-3言会話をした後、エースはストライカーに飛び乗って
どこかへ消えてしまった。



ビブルカードを作ってくる。
そう言って。






Prologue -3 航海士からみた彼女








update---20180315





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