蝶屋敷の当主を十四歳で務めたニ年後、しのぶは柱となった。カナエさんとは違い彼女が独自に編み出した " 蟲の呼吸 " は、鬼の頸を斬る代わりに毒で滅するのだ。そして、このニ年で変わったのは私達の階級だけじゃない。彼女の性格もガラリと変わった。カナエさんのように柔かく笑い、時に毒を吐くようになっていた。
「一露葉様!お帰りなさい」
「ただいまー。しのぶいる?」
「しのぶ様でしたら診療所の方に」
「あ、そうだ」
「?」
「お土産買ってきたから後でみんなで食べてね」
「わぁ〜!ありがとうございます!」
任務を終えて蝶屋敷に戻ると、いつも元気な三人娘が出迎えてくれた。この笑顔を見ると任務の疲れも吹っ飛ぶのよね。先に帰路の途中に立ち寄った町で買った甘菓子をアオイに渡しておこうと台所に向かうと、なぜか激怒しているしのぶの姿があった。
「何?どうしたの?」
「あ、一露葉様」
「どうしたもこうしたもありませんよ!カナヲが!」
「カナヲが?」
「私達に黙って、藤襲山へ行ったみたいなんです」
「最終選別に?」
「……はい」
「アオイは何も聞いてなかったの?」
「はい。ただ、カナエ様が亡くなられてからしのぶ様や一露葉様の訓練を眺めている事が増えていたと思います」
「見様見真似で習得したってこと!?」
「その様です」
「実は才能があったりして」
「そんな悠長な事を言ってる場合ですか!?あの子にもしもの事があったら」
「じゃあ、選別に飛び入りして連れ戻す?鬼殺隊の最高位でもある柱が?」
「……」
「気持ちは分かるけど、こういう時ほど冷静にならなくちゃ」
私だって心配していない訳ではない。事情はあれど、隣にいるアオイもあの選別を経験しているのだ。あの七日間がどんなに過酷であるかは口にしなくても、ここに居る三人は分かっている。だから尚の事、心配なのだろう。もし、帰って来なかったらと。
「一露葉は平気なんですか?」
「まさか。カナヲにもしもの事があったら、藤襲山にいる鬼を全て狩ろうと思ってるくらいよ」
「え」
「私もご一緒します」
「ま、大丈夫よ。あの子は必ず帰ってくるから」
この騒動から七日間後の夕刻、カナヲは傷を一つも作ることなく鎹鴉を連れて帰ってきた。歓喜する暇も無く、カナヲは日が暮れるまでしのぶからのお説教を受けたのは言うまでもない。