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人を襲ったことがないというあの子の話はとても信じられないが、お館様が容認しているのだ。あながち嘘ではないのだろう。


「えーと、禰󠄀豆子ちゃんだっけ?あなたのお名前」
「……」


私の質問の答えなのだろうか。箱の中からカリカリという爪を引っ掻く音が聞こえた。竹筒を咥えているのだから、話せないのは当たり前か。


「私は紫藤一露葉。よろしくね」
「……」
「ねえ、禰󠄀豆子ちゃん。そこから出てきてくれないかな」
「……」
「私ね、あなたとお話しがしたいの。あなたを狩ろうとなんてしないから、安心して?」
「……む?」
「おいで」


敵意が無いと感じてくれたのだろうか。自室に戻って数時間経った頃、頑丈な箱の中から小さな幼子の姿をした " 禰󠄀豆子ちゃん " が出てきた。


「…あら、随分小さくなってたのね。大きさ変えられるの?」
「む」


褒められたのが嬉しかったのだろう。嬉しそうな笑みを浮かべて、大きくなったり小さくなったりを繰り返していた。数え切れない程の鬼と遭遇してきたが、こんな独特な気配を持つ鬼は初めてだ。


「あなたを鬼にした人を覚えてる?」
「?」
「"鬼舞辻"という名前は?」
「?」
「鬼になった時の事は?」
「?」
「あなたのお兄さんは?」
「むー!」


大抵の鬼は自分を鬼にした鬼舞辻を知っていて、その名を口に出す事は禁じられているようだった。そして、恐らく鬼舞辻と繋がっているのだろう。鬼舞辻が人を鬼にするのだから自分の一部を細胞内に潜らせるのは容易いはずだ。けど、この子からは鬼舞辻の気配は全く感じない。もし自分自身で鬼舞辻との繋がりを断ち切っているのだとすれば自我が保てているのも、人を襲わないというのにも合点がいくような気がする。


「お兄さんのこと、好き?」
「むぅむー!」
「そっか、お兄さんも禰󠄀豆子ちゃんのこと大切みたいね」
「む!」
「ほら、そこにずっといるでしょう?」
「!」
「あ、ははは…」
「気付かないとでも思った?」
「禰󠄀豆子が心配なので」


この部屋に入ってから彼は一度も目を逸らす事なく、私を見ている。その目は幼い頃によく見ていた兄と同じで力強い目だった。


「妹思いの良いお兄さんね。でも、それだけでは禰󠄀豆子ちゃんを守る事は出来ない。それに、彼女の存在が明らかになれば、君たちじゃ到底敵わない上の階級の者に命を奪われる事になる」
「…それでもっ!俺は禰󠄀豆子を守り抜きます!」


小さな姿でいる禰󠄀豆子ちゃんを背後に隠して彼は、守り抜くと言い切った。お館様が彼らを私に任せたいと仰った理由が何となく分かった気がする。


「私は、紫藤一露葉。君たちは?」
「竈門炭治郎です」
「我妻善逸…です」
「あっちで寝てる子は?」
「嘴平伊之助です」
「陽が昇ったわね。竈門くん、私は禰󠄀豆子ちゃんが人を襲わないというのを信じるわ」
「え?」
「いつか必ず禰󠄀豆子ちゃんの存在が明らかになる時がくる。目の前で禰󠄀豆子ちゃんを傷付けられるかもしれない」
「!!」
「何があっても、禰󠄀豆子ちゃんを信じ続けるの。そして、絶対に襲わせてはダメよ」
「はい」
「もし君たちに何かあったら知らせてね、鴉くん。力になるから」


その " 何か " が近いうちに起こるとはつゆ知らず、私は療養している三人と共に此処に留まりながら任務を遂げていたのだった。