私はあまり緊張はしない方だ。だが、今とてつもなく緊張している。"帝丹高校2年B組"のドアの前で、ドックンドックンと心臓が鳴り響いていて今にも口から出そうなのだ。
「大丈夫ですか?」
「心臓が出そうです……」
「ふふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
なぜ、こんなに緊張しているのかと言うと。このクラスの担任が昨夜、事故に遭い入院したらしく、私は赴任早々このクラスの担任代理を任されることとなった。ただでさえ、"紫藤"の名で面識のある子たちがいるから名前を変えずに潜入するというのに…。
「席に着いてー」
「あれ?谷センはー?」
「風邪?」
「はい、静かにー!谷岡先生は昨日事故に遭って入院する事になったので、しばらくお休みです」
「じゃあ、うちらのクラス担任なし?」
「あだっち産休だもんね」
「大丈夫よー。新しく赴任された先生が代理としてこのクラスを担任することになったから。紫藤先生どうぞこちらへ」
「えっ!?!」
「紫藤藍です。至らない点は多々あると思いますが、よろしくお願いします」
「えええええーーー!?!!」
「静かにー!!では、私はこれで」
「あ、はい、ありがとうございました」
頼みの綱である斉藤先生が教室を出た途端、何も話していなかった二人を含めてありとあらゆる方向から質問が飛んでくる。
「ちょっと!なんで言ってくれなかったわけ!?」
「そうですよ!」
「ごめんね、私もまさか担任代理になるとは思わなくて」
「園子くんたち、知り合いなのかい?」
「そうなの!ほら、前に世良ちゃんにも話したでしょ?」
「先生彼氏いますかー?」
「あんた達じゃ到底敵わないイケメン彼氏がいるわよ」
「うわー、まじかー」
「安室さんと藍さんが並んで立つ姿なんて、正に美男美女と言う言葉がピッタリなんだから!」
「え!?安室さんって、あの?!」
「じゃあ、噂の美人な彼女って、先生のこと!?」
よくこんなにポンポンと話題が出てくるなあ、と感心していると例の子と目が合った。じーっと、こちらを観察しているように私を見ている。警戒されてる?と、思ったが違うようだ。
「安室ってポアロにいる探偵だろ?胡散臭いリップサービス言う割りには、面食いなんだな」
「世良ちゃん?!」
「ふ、あははは!!!確かに!彼のリップサービスは胡散臭いわよね」
「藍さん?」
「あ、ごめんなさい。さ、お喋りはこの辺にして皆んな体育館に向かってねー」
新しく赴任した教職員や退任する教職員の紹介と挨拶のため、全校集会が行われた。さっきまでの緊張はどこいった?と思うほど、緊張する事なく挨拶を済ませた集会はあっという間に終わったのだった。