午後八時。怪盗キッドの予告時刻まであと三十分余りあるが、特別変わった事は今のところ起きていない。
「その予告状っていうのは本物だったんですか?」
「うん。本物だったよ」
「それじゃあ…もう誰かに変装してこの会場の中に居たりして」
「おーし!探そうぜー!」
「アンタ達ねえ、そんなすぐ見つかるわけないでしょ?キッド様よ?」
「そんなの分かんねーじゃん!」
「そうですよ!」
いや、園子ちゃんの言う通りだ。子ども達が探して見つかるようなら、今この会場を警護している者達は皆、顔向けできない。
「……止めなくていいの?」
「見つからないさ」
「そうね」
張り切っている子ども達に目をやりながら小声で降谷に問うと、冷め切った言葉が帰ってきた。横目でチラッと顔を見る。ああ、もう今この瞬間の会場内にいる他の招待客の中に紛れていないか探る事しか頭にないな。
「怪しい人居た?」
「いや」
「ならもう紛れてるかな」
「どうだい?怪しい人は見つかったかい?コナンくん」
「ううん。居なかったよ」
降谷の雰囲気が突然変わったと思ったら、キッドキラーと言われているコナンくんが戻ってきたみたいだ。お目当ての宝石の周りには赤外線センサーが張り巡らされていて、誰も近付く事が出来ないようになっているらしい。
「既に下見は済ませているだろうね」
「キッドの事だから、その時に何か仕掛けてるはずだよ」
「……」
「なぁに?」
「君、本当に小学生?」
「え?!」
「僕も "詳しく" 知りたいですね」
「や、やだなぁ〜、ボクは小学一年だよ?」
急にしどろもどろになる所が益々怪しい。時折感じる彼を纏う空気感は他の子達とは違う。まるで、見た目は子どもなのに中身は大人のようなそんな雰囲気になる時がある。目の前のコナンくんを見つめ真偽を確かめようとした瞬間、暗闇に包まれた。
「停電?!」
「藍は蘭さん達と一緒に」
「コナンくんも……あれ?」
「あの子なら走っていったさ」
「…みたいね」
「じゃ、行ってくる」
「うん」
先ほどまでいたテーブルまで戻ると、パニックになっているかもと思った子ども達も蘭ちゃんや園子ちゃんは驚くほど落ち着いていた。
「藍さーん!こっちこっちー!」
「みんな大丈夫?」
「平気だぞ!安室の兄ちゃんも居るしな」
「安室さん、すーーっごい心配してたわよ〜?」
「園子さんそれは言わない約束ですよ」
「……藍さん?」
「藍?」
この停電を利用して安室透に変装したのね。あの二人と対峙する事を避けたか。其れとも見破られないと確信しているんだろうか。
「ねえ」
「ん?」
「それで私を騙せると思ってるの?」
「藍さん?」
「あなたは彼じゃない」
「何言ってんだ?安室の兄ちゃんだぞ?」
「例え怪盗が相手だとしても、彼は今起こっている事件を放っておく人じゃない」
「…確かに」
「相手が悪かったわね。私の目の前で彼に変装するなんて」
「人選を誤ったようですね」
「ヒャーーー!!!キッド様ー!」
「では皆さん、次は月光の下でお会いしましょう」
煙幕と共にキッドは姿を消した。たぶん何処かに隠れているのだろう。その後コナンくんと一緒に戻ってきた降谷に尋問を受けたのは言うまでもない。