「……何か?」
「別に?」
「気が散るんですけど」
「こんな事で散るなら公安なんて務まらないんじゃないか?」
「そうですねー」
先日の鈴木財閥でのパーティー以来、降谷は無言で私を見る事が増えた。穴開くっての。何か言えば憎たらしい一言が返ってくるのだ。もう、何なのよ。
「ちょっと、アイツ何とかして」
「何とかして頂きたいのは、我々の方です」
「……うわ、コッチ見てるんだけど」
書類をチェックしている隙に風見の隣に移動し、聞こえないように小声で話していると此方を凝視している降谷と目が合った。そして、聞いた事のないような冷たい声で降谷は私を呼んだ。
「藍」
「…な、何?」
「目を通しておけ」
「はぃい?!」
手渡された書類に目を移すと、そこには信じられない文字が記載してあり思わず声を荒げてしまう。思ったよりも大きな声が出たようで、皆驚いた顔をして此方を見ている。
「あ、ごめん」
「…フッ」
「笑うな!そもそも、誰のせいよ!」
「誰だろうな?」
「正気なの?コレ」
「ああ」
「何のために帝丹高校に?」
「コイツだ」
「……女、の子?」
「接触するかもしれない」
「誰が」
「赤井」
「ああ、諸伏の」
「…見たのか」
「見た」
ほんの一瞬だが、"諸伏"の名前に降谷は眉をひそめた。諸伏も私達の同期だ。降谷とは長い付き合いでお互いを "ヒロ" "ゼロ" と呼び合う仲だった。恐らく降谷の中で唯一、親友と言える人。そして、これから先も彼だけだろう。
「降谷に関するものは全部見た。でも、何処にも " 赤井は生きてる " なんてなかったわよ」
「確証はない」
「…目星は付けてるのね」
「沖矢昴」
「……沖矢昴…。あれ?どっかで聞いた事あるような」
「何!?接触したのか?!いつだ!」
「ちょ、待って!名前を聞いた事あるだけ」
いつ、何処で聞いたのか思い出せ!と言わんばかりの圧に気圧されそうになるが、降谷にはゆっくり話している時間は無いのだ。
「絶対思い出せ」
「は?」
「どこで誰に聞いたのか思い出せ」
「……分かった」
険しい顔のまま、暫く戻らないとだけ告げ出て行った。諸伏の死に赤井が関わっていると報告書に記されていたのだ、降谷がこうなるのも頷ける。そして、この数日後。帝丹高校への潜入の前日、赤井秀一かもしれない人物と接触する事になったのだった。