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「…なにが俺は最強よ…」
『近くには居ないようですね。ですが、高麗こまは念の為に結界を』
『とっくにやってる』
『お嬢は其奴から離れてて下さいよ。血で汚れるから。大丈夫ですよ。其奴"まだ"生きてますから』
『お前は昔から口を開けば皮肉しか言わんな』
『無口な奴には言われなくないね』


こんな量の血が流れているのに生きてるなんて有り得ない。そう、通常なら有り得ないのだ。でも今、間違いなく五条の周りを"何か"が取り巻いているのがハッキリ視えている。


「…五条?」
「……」
「ねえ、見た!?今の!」
『恐らく悟様は反転術式を行なっているのでしょう』
「反転?」
『正の力を生み、傷を再生しているのです』
「じゃあ…この五条の周りのやつが生まれた正の力?」
『お嬢!視えるんですかい?ソレ』
「うん」
『巫女神様のお力は正の力で御座います。今、視えておられるのは正の気流だと思われます。お力が解放されつつ在るのですよ』
『おい、悟に触れろ』
「え?」
『反転術式は正の力が無ければ成功しない。悟が上手く正の力を生み出す事が出来なければ確実に死ぬ。多少なりとも巫女様の力が戻ったんなら触れればお前の力が役に立つ』
大蛇たいじゃー、お前お嬢に無礼ですよ』
「やってみる」


目を瞑り、深く深呼吸をした。そして、そっと五条に触れる。本当に巫女神様の力が少し戻ったのならば、お願いです。五条に力を。


「…っ」
「五条?!」
「……藍?」
「良かった」
「…ハッ、マジか」
「ねえ、大丈夫?」
「ヘーキヘーキ」
「……行くんだよね?」
「お返ししねーとな。オマエはコイツらと此処に居ろよ」


目が覚めた五条は信じられないくらいピンピンしていた。だけど、何だか様子がおかしいのだ。まるで気分が高揚している状態だ。本当に大丈夫なのだろうか。


『心配なら見に行きます?』
『悟の術に巻き込まれるぞ』
「あの状態で大丈夫なのかな」
『悟様ですから。要らぬ心配でしょう』


あっという間に見えなくなった五条の向かった先を見ていると、地響きと共に途轍もなく大きな衝撃音が聞こえてきた。暫くして戻って来たのは様子がおかしい五条と同じような制服を着た女の子だった。


「……五条?」
「よぉ」
「…平気?」
「ヘーキヘーキ」
「夏油くんは?大丈夫?」
「ん」
「あの…何か」
「ああ、気にしないで。ちょっと診てるだけだから」
「え?」
「大丈夫。血塗れだけど傷一つない」
「あー、ソレ俺の血」
「はぁ?」
「大丈夫ならいーや、どーも」
「そもそも誰この子。アンタの彼女?」
「んーー。ま、そのうち話す」


これが彼女、家入硝子との出会いだった。