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ー 2007年7月7日 .


誰かに祝われる事は未だに苦手である。それなのに、この男は毎年必ずやって来て最大に祝うのだ。


「十八歳おめでとーーー!」
「………どうも」
「もっと喜べよ!忙しいのに態々来てやったんだぞ?」
「頼んでない」
「きゃー、悟来てくれたの?ありがと〜!とかさ」
「私にそう言って欲しかったの?」
「んや?オマエが言うなんて思ってねーもん」


いつものように毒吐いて言っているつもりなのだろうが、五条は何処か苦しそうな哀しそうな眼をしている。


「大丈夫?」
「何が」
「いつもの五条じゃない気がするから」
「………」
「平気?」
「大丈夫じゃねーって言ったらオマエ帰ってくんの?」
「それは無理」
「即答かよ」
「ふふ、もう大丈夫そうね」
「そうでもねーよ?藍ちゃん不足だから」
「はいはい」
「信じてねーな?」
「どう信じろと?随分と癖が悪いようね」
「俺は何もしてない!」
「……俺 " は " ?」
「うぅ、藍ちゃんが怖い」
「最っ低」
「大丈夫!愛はねーから」
「愛なら私達の間にもないけどね」


愛が無ければ許せるなんていう事は無いが、私達の間にも " 愛 " は無いのだ。五条が誰と何をしていても私に文句なんて言う資格は無い。


「は?あるけど」
「………?」
「伝わってない?俺の愛」
「………?」
「え、マジ」
「誕生日だからってそういう冗談やめてよね」
「は?違いますー。本気と書いてマジですー」
『悟。それ逆効果だと思うぞ』
「うん、伝わってねーのはよーーく分かった!んじゃあ、今から嫌と言うほど伝えるわ」
「いや、いい。大丈夫」
「照れてんの?」
「照れてない!」
「藍ちゃん」
「なに」
「好きだよ」
「は?」
「だからさ、早く帰って来いよ。待ってる」


普段はずっとヘラヘラしているのに、急に真剣な顔して真っ直ぐ私を見て言うなんてズルい。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけドキッとしたなんて五条には絶対に言わないけど、不覚にもドキッとしてしまったのだった。


「はぁ〜〜〜」
「何」
「………ぶっちゃけさ、藍ちゃんは俺のことどう思ってるわけ」
「どうって?」
「1ミリもねーの?俺に情とか」
「五条に恋愛感情?ないよ?そもそも私たちの婚約って、お互いの利害が一致したからでしょ?」
「……デスネ」


1ミリも無いと答えたが、これだけ長い時間を共に過ごしてきたのだ無いわけがないし、五条の好意だって気付いてた。気付いてたけど、知らないフリをしてきたのだ。


『宜しいのですか?本当の事をお伝えしなくて』
「いいの。よっぽどの事がない限り私たちの結婚は決まってるんだし」
『そもそも何で隠す必要あるんだよ』
「今よりも深い仲になってしまえば、私が五条の弱味になっちゃうでしょ」
『ソレもう手遅れだろ。こうやって会いに来てるわけだし。当の本人はヨダレ垂らして寝てやがるし』
「とか言って五条に会えて嬉しいんでしょ。仲良いもんね、五条と大蛇」
『何処が』
「素直じゃないんだから」
『……どっちが』
「あ、逃げた」


この時の私は、気持ち良さそうにスヤスヤ眠る五条が実は起きていたなんて知らず話していたのだった。起きていたと分かったのはもう少し先のこと。