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ー2007.9月

卒業を待たず私が帰国する事になった事件が起きた。とても信じ難い事件が。


「…は?何、言って…」
「傑が呪詛師になった」
「呪詛師って、呪術師の敵の?」
「ああ」
「自分の欲望とか快楽の為に人を呪ったり、殺めたりする人の?」
「そう」
「待って……じゃあ、夏油くんは…」
「ある集落の人を皆殺しにした。おまけに自分の親も。アイツは非術師を殺して術師だけの世界を作ろうとしてる」
「……っ!」
「アイツ、藍ちゃんによろしくってさ」
『成る程。それで悟様は此方にいらしたんですね』
「そ。俺は最強だし、強い。でも、それだけじゃ駄目らしいし、今の俺にはこうでしか守れないから」


私はこの後すぐに五条と共に帰国し、常に結界が張られ術師が点在しているという呪術高専に身を置くことになった。


「悟。どういう事か説明してもらおうか」
「ん?ああ、藍ちゃん?俺の婚約者」
「………悟。真面目に答えろ」
「ヤダなー先生。大真面目だっつーの」
「悟」
「本当だって!」
「お前に婚約者が居ても何ら驚かん」
「"私について"説明してほしいってことですよね」
「だから俺の婚約者だって」
「そうじゃなくて!何故、呪力のない私が五条の婚約者なのかをですよね?」
「まあ…そういうことだ」
「んーーー、先生さ巫女神って知ってる?」
「知らん奴の方が少ないだろ。それがどうした」
「藍ちゃんがその力を継承してんの」


そして、五条は言った。夏油くんは " 五条の婚約者 " である私だからではなく、" 巫女神の霊力 " を狙っているのだと。


「君、名前は?」
「紫藤藍です」
「……紫藤…確かに末裔だったと聞いた事があるな」
「だった?過去形じゃないさ。目の前に居る」
「巫女神の継承者が何百年も誕生していない事は呪術界に関わっている者なら誰しもが知っている事だ。仮に彼女が継承者だとするなら、何故誰も知らんのだ。お前のその "眼" は節穴か?」
「そう!ソレだよ、先生!」
「は?」
「だ〜か〜ら〜、俺のこの眼だけが封じられた巫女神の霊力が視えてんの!それを利用して隠してきたんだけど傑に知られたんだってば!」
「待って!どうやって夏油くんは私が継承者だって分かったの?今の話しだと六眼を持つ五条にしか分からないのよね?」
「彼女の言う通りだ。傑はどうやって知った?申し訳ないが、彼女からは何にも感じんぞ?」
「…分かんねえよ。分かんねえけど、好きなヤツが傑に狙われてるって知って守らないわけにはいかねえだろ」
「彼女が継承者かどうかは俄かに信じ難いが、取り敢えず分かった。保護しよう」
「ありがとう、先生」
「宜しくお願いします」
『保護なんか要らないのにな』
『お嬢の護衛はずっと私達がやってるからな』
『お前達、無礼ですよ。仮にも藍様を御守り下さる方なのですから』
『否、お前が一番失礼だろ』
「……悟、コイツらは何なんだ!」
『私達は巫女神様にお仕えする者。左から大蛇たいじゃ高麗こま白狐はくこ。そして、私が琥珀こはくと申します。今は主に私達が姿を現し御守りしておりますので、以後お見知り置きを』
「おおー、すげー。俺以外にも視えるようになってんじゃん」


以前までならば六眼を持つ五条以外の人には彼等の姿は視えなかったが、少しずつ力が解放された今は、五条以外の人にも視えるようになったのだ。呪力の無い私に仕えるという術式でもない彼等が現れた事によって、嘘ではないと信じてくれたように感じた。この後、家入さんにも説明をしたのだが、彼女は話を聞くのが面倒になったのか「分かった。宜しく」とだけ言って何処かに行ってしまったのだった。