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ー 2000年 7月7日 .

あの年以来、誕生日を祝われる事が苦手になっていた私も十一歳になった。一番祝って欲しい両親はどんなに願っても戻ってこないからだ。


「あの子を舞の代わりにしようとしてるんですか!?」
「そうじゃなかったら、引き取らんわ」
「何でアイツが出て行ったのか分からないんですか?!」
「知らん!あの親不孝者はな、御三家との縁談を破談にしたんじゃ!そのお陰で我が紫藤家は呪術界から除け者扱いされとる!何のために呪力も巫女の霊力もない娘を御三家と縁談させたと思うとるんじゃ!大人しく嫁いで跡継ぎを産めば良かったんに」
「……舞を、実の娘を何だと思ってるんですか!」


日付が変わる少し前。騒々しい声が聞こえ目が覚めた。部屋を出て、声のする方へ向かうと祖父と尊さんの言い争っていた。


「役に立たん娘だったが唯一、役に立ったんだ!呪力も霊力も無いのは同じじゃが、あの子は女じゃろ?六眼を持つ五条家の坊主に嫁がせれば、紫藤家も安泰じゃ!」


……ああ、そうか。だから母はこの家を出たんだ。自分を道具のように扱う祖父から逃げ、自分の人生を歩む為に。呪術界とか呪力とか御三家とか意味が分からないけど、祖父は私を母の代わりにする為に引き取ったのだけは分かる。


『藍様、戻りましょう』
「……琥珀。私、どうしたらいい?」
『然るべき時にこの家を出ましょう』
「然るべき時?」
『先ずは、力を、霊力を解放するのです』
「……どうやって?」
『それは私にも分かりません。藍様にしか分からないのです』


そして、琥珀はこう続けた。" 六眼と無下限呪術を相伝した五条悟を味方にお付け下さい " と。五条悟って、あの時の子だよね?味方になんて到底なってくれ無さそうだけど…。


「お嬢様、おはようございます」
「…?」
「若様がお呼びです」


翌朝。いつもより早い時間に、初めて見る使用人の人が起こしにきた。昨日の今日なのもあって警戒してしまう。


「お連れ致しました」
「ああ、ありがとう。ごめんね、朝早く。おはよう、よく眠れたかい?」
「おはようございます」
「藍ちゃん。ごめんね。叔父さんは君を守ってやれなさそうだ」
「え?」
「昨日、聞いていたんだろ?」
「……」
「気配で分かった。君の気配は他の人とは少し違うからね」
「……」
「残念ながら僕には君を守り抜く力がない」
「守る?おじいちゃんから?」
「いや、当主だけじゃない。…いいかい?中学は全寮制の学校を受験しなさい」


この日の尊さんの提案通り、私は祖父の反対を押し切って全寮制の学校へ入学した。