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たった十三歳で、将来を約束する相手が出来るとは思わなかった。" 五条悟の婚約者 " になってからは時は目まぐるしく過ぎていく。休日は決まって五条家に連れて行かれるのだ。


「あー、面倒くせ」
「それは私のセリフなんですけど」
「知らね」
「アナタがあの時 " 俺が教えてやる " って、豪語したからこうなったんじゃない」
「言ってねー」
『仰ってました』
「ほーら」
「…おし、琥珀。お前がやれ」
「琥珀に押し付けないでよ」
「あん?何、お前は俺に教えて欲しいわけ?」
「いや。どっちかって言うと琥珀がいい」
『お二人共、お止め下さい』


婚約が正式に決まってから数か月。私達は結納の儀を行った。そこで私に呪術についての知識が一切無いという事を色々と言及され、自分が教えると両家の前で豪語したのだ。


「じゃあ、琥珀!宜しくお願いします」
『では先ず、"呪い"についてお教え致しましょう』


学校の先生のような空気を醸し出しながら、日本国内での怪死者や行方不明者のほとんどが呪いによる被害だと琥珀は断言した。


「…え、?」
『呪いとは、人間の肉体から抜け出した負の感情の事を言います』
「ま、それだけじゃねーけどな」
「他にもあるの?」
『中には、呪詛師と呼ばれる者たちの事案もあるようですね』
「呪詛師?」
「呪詛師っつーのは、呪術師の敵」
『自身の欲望や快楽の為に人々を呪い、殺める者のことを呪詛師と呼ぶのです」
「じゃあ、呪術師は呪われた人達を助ける為にいるってこと?」
『いえ。全ての人々を守る為、遥か昔から呪術師は呪霊や呪詛師と闘い、暗躍しております』
「そーゆーこと」


私達が知らないだけで、ずっと昔から呪術師たちが未来を守り続けてきてくれたのだ。


『呪霊とは、呪いが蓄積され形成されたものです。人に害を及ぼす危険な呪霊を祓うのが呪術師の役割となります』
「害がない呪霊もいるってことね」
「ちっこいヤツな」
『呪霊には其々階級があり、4級以下の呪霊は悟様の仰る通り手の平程度の大きさで御座います』
「ま、その呪霊も呪力がなきゃ見えねーけど」
「確かに今まで見たことないかも…」
『呪力とは呪いの力。自分自身の負の感情を火種にし、捻出した力の事です。呪力を持たない者は呪霊を目視する事も触れる事も出来ません』
「成る程。それで、呪術って?」
「……つか、お前帰らんなくていーのかよ」
「あ!門限!」
『では、次回は呪術について学びましょう。悟様の術式についても知っておいた方が良いでしょうし』
「怖。お前知ってんのかよ」
『私は千年以上前から巫女神様にお仕えしておりますので。菅原道真様も存じておりますよ』
「へえ」


私の後ろでそんな会話をしているとは知らず、私は広げたノートや文房具を拾い集め帰宅する支度をしていた。琥珀の話を聞きながら感じたのは、封印しているとはいえ私にも巫女神の力があるというのに、何も知らずに過ごしていた今日までの自分に嫌気が差す。此れが負の感情というやつなのだろう。このまま感情が大きくなってしまうのはダメだ、と押さえ込もうとした瞬間。何かが私に巻き付いた。