せいじゃ


 生きている限り、人というものは過ちを繰り返す。それがどんな些細なことであれ、私たちは過ちを、間違いを犯し続けることを、辞めることは出来ない。
 それはどんな普通に暮らしている人であろうと、善人であろうと変わらないのだ。
 そう、変わらない。
 私のやった事は傍から見たら誤ちだったろう。私もそう思い、けれど心の底では救いであると信じて火薬に塗れた。血に塗れ、懺悔の日々を過ごし、ローという救いと罰を持って今ここにいる。
 だからこそ私はやらなくてはならない。飾りだけの、けれど大切な十字架を身につけ、お侍さんに着せてもらった深い緑色のワンピースに白いレースのストール、帽子を身にまとい、ドレスローザの街並みを歩く。
 目指すはグリーンビット、そしてそこにくるドフラミンゴだ。

 ☩❉☩❉

 私たちは上陸後、すぐにそれぞれの役割通りに行動を起こした。予想通り、栄えるように見えるドフラミンゴの“おもちゃ箱”は正常に機能し、唯々楽しそうな人々の声が響き渡っていた。
 そして、道すがら見かける人であった“おもちゃ”を見て、反吐が出るような気分で、私の機嫌は最高潮に悪く、人々の多い場所、それも“誰かの無数の苦悩の声”を探すのには予想以上に五月蝿すぎた。

 「ろー、ごめんなさい……結構きついかもしれないわ」

 最終的におもちゃの家が見つかるのはわかっているが、せめて見聞色でドフラミンゴファミリーの幹部の位置だけでも掴んでおこうと思ったのだけれども、予想より大きな気配が複数存在するために難しい。
 コロシアム以外のものを探ろうとすれば、城に3つほど見え、ここからに詳しくみようとすれば、これ以上は見聞色の覇気を持った人間に気が付かれる可能性が高いだろう。

 「お前の覇気の精度も上がってる分、キツイところもあるんだろ。工場は破壊は本来見つけることも、視野に入れてのものだ。探れたら棚ぼただったが、出来ねぇならこれからのために体力を温存しておけ」

 ぽすん、と柔らかく帽子をかぶされる。まだ体温の残るそれに、まるで頭を撫でたままで居られるような感覚がしてむず痒くなり、ええ、ありがとうそうするわ…と、制御できるようになった覇気を強制停止して一息つく。
 それにしても、付け髭にメガネとフードで変装が成り立つって、やはりこの世界の人達はいささか鈍感なのか、そう出ないのか。
 まあ、そんなローが可愛くて眼福なのには変わりない。自分のサングラスをかけ直してグリーンビットへ続く鉄橋を見る。
 幾つものドクロマークの看板と張り紙。それはこの先を住処にしている闘魚の危険性を表しているようだ。
 さてはて、私は最終援護をするつもりだがどうしようかと考え込めば、ぽんっと優しく肩に手を置かれる。

 「大丈夫?メアリー」
 「ロビン……問題ありません」
 「そう……ならいいけど、それにしても、あなた達が言ってたようにこの街の人たち、混乱も何もしていないわね」
 「最悪な予想が最悪な形でやってきそうだ」

 周囲の人々の様子に、深い溜息をつき眉間に皺を寄せたローは、頭を振る。きっと、ここまで来れたのなら引き返すことは出来ないから仕方ないとか考えているのがもろわかりだよ、ロー。

 「まあまあ、暗くなっても仕方ないし、少しだけ腹ごしらえをしておきましょう?
 マスター!スコーンのティーセットを5つお願いします!」
 「はいよー!」

 元気よく返事をしてくれたマスターについでにグリーンビットのこと、そして、今日はすごい活気づいてるけどなにがあるのかと聞いてみれば、案の定、メラメラの実の件がでてきたので、お礼としてチップを支払えば、ほくほくとした顔で彼は奥に引っ込んでいった。

 「どうやら麦わらさんの件も予想通りになりそうですね」
 「ここまで当たると、預言者かなにかか疑いたくなるレベルだな」
 「私はあなたのメアリーです。それ以外の何物でもないわ」
 「おい!それよりさっきの店主の話!!本当なら引き返すべきだ!!オレぁ大事な人質だぞ!?今すぐほかの場所に変えろ!!」
 「そうだぞトラ男!!こいつの言う通りそんなにあぶねぇところわざわざ行く必要ねぇだろ!?」
 「計画に変更はねぇ」
 「ならせめて俺だけでもサニーに返してくれよぉ!!別にいいだろう狙撃手2人いなくたって!!」

 今にも涙を流しそうな程震えるそ狙撃手さんにふふっと笑う。

 「残念ながら、それは無理な話よ。貴方には諜報中のロビンを守ってもらう役もあるし、私達の狙撃はお米とパンくらい全く別物、種類が違うんだもの。遠距離で攻撃、サポートができる人ほど今回は重要なのよ」
 「そりゃあオレは重要だろうが!例え方があるだろ!!」

 ご立腹な彼にハイハイと流しつつ、私はたっぷりのマンゴーのコンフィチュールにクロテッドクリームを合わせれば1口、口に放り込む。特産であるこのマンゴーはなかなかに濃厚で下に残る甘さだ。
 美味しいなぁと舌鼓を打ちつつ、ローの分にもきちんとぬって。口元に運べば大きな口でパクッと食べてくれた。

 「…まあまあだな」
 「あら?そう?私結構好きよ。ねっとり甘くて」
 「相変わらず甘味好きだな」
 「私に残ってる唯一の女の子らしさだもの」
 「何隙みてイチャイチャしてんだ!!」
 「してねぇ」
 「狙撃手さんもはい」
 「もごふっ!?、もごご…うめぇ……」
 「…………」
 「無言でこっち真顔で見るのやめろトラ男!!!」
 「あらあら、メアリーったら悪い子ね」
 「私はただ美味しいものをおすそ分けしただけですよ」

 はい、ロビンにも、とスコーンを渡せば笑顔で受け取ってくれた。
 これからひと働きしてもらうシーザー・クラウンにも一応無言で口に放り込めばギョッとした目で見られ、付け髭にクリームをつけながら少し後ろに下がっていた。失礼しちゃうわ。働く前の料金の前払いなだけなのに。
 そうしていると、ふとロビンが深く帽子をかぶった。
 CP-0、彼らの姿を見たからだ。
 歩いていく姿を私も眼鏡越しに見つつ、なんとなしに次はスコーンを噛じるように口に含む。
 変わらずマンゴー味のそれは口の中に残る甘さで、ねっとりと、じっくりとじゅくじゅくに煮込みきったコンフィチュール。殺してやろうと未来の殺害対象に思わせる。

 「彼らが現れた土地にはいいことは決して起こらない」
 「……天竜人直属の機関……こりゃあ確定と考えておいた方が良さそうだ」

 大きく舌打ちをしたそうなローを横目に、さてはて、シーザー・クラウンの受け渡しは不当になることはほぼ確定したと言っていい。けれど、工場破壊のために囮になってもらう必要がある。
 CP-0が去っていったあと、私たちは程なくして鉄橋を渡ることとなった。

 ☩❉

 鉄橋に足を踏み入れ、中腹に差しかかる手前、海の向こうから気配を感じる。急速に向かってくるそれに、数に、ああ、全く面倒だなと溜息が出る。

 「ロー、急速接近する闘魚の群れがいるわ。縄張りに入ってしまったみたい」
 「そうか…出来れば穏便に通りたかったところだったが……」
 「そうもいかないみたいよトラ男くん。波の動きが異常だわ。早く行った方が良さそう」
 「そんなの遭遇する前に早くここ渡っちまおう!!」

 そうして、私たちは走り出す。私は見聞色の覇気を軽く使いつつ、闘魚の動きを見て、次の行動を予測する。
 眉間に一撃か、鰭がひとつでも外れれば戦闘不能になるだろう。
 対戦車ライフル。威力の高いそれを3つつくりあげ、じゃなストールを脱ぎ捨てる。帽子をローに返して遠距離攻撃を開始した。

 「“FIRE”」

 3つの弾丸が三体の闘魚を撃墜する。続けてもう三体、出来れば群れのボスのような大きなものを狙ってやれば、陣形が崩れだした。

 「メアリー!」
 「了解」

 急接近し、飛び上がってきた闘魚を毒入りの散弾銃で、撃ち捨てれば、体の外側から溶けた闘魚は海に落ち、ぶくぶくと沈んでいく。
 海を汚すのは良くないが、この毒は自然消滅するが、数分間は伝染する仕様になっている。しばらく本能的にこちらに、左側から向かってくる闘魚は現れないだろう。

 「ぐええ!グッロイ!!」
 「しゅ、しゅろろろ…おまえ…まさかあの時あれを俺様に撃とうとしたんじゃねぇよな?なぁ?」
 「…………えへ!」
 「えへ!じゃねぇわ!!!」
 「悪魔だァァァ!!」

 叫び声を挙げる2人は末恐ろしいとばかりに私を見るけど、そうしなければあなたたちがやらないといけない仕事だったんだから…と少し思いちょっとした意地悪で手をリボルバーにしてカチカチすればひいいいと悲鳴が挙げられた。なかなかに楽しい反応である。

 「何を遊んでるんだ…いくぞ」

 そうして私達は鉄橋の向こう側をめざしていたんだけれど、途中で途切れているそれを見てシーザー・クラウンを使うことになった。
 心臓を人質に取られ、命令に従わざるおえないシーザー・クラウン。だいぶ不機嫌そうに気球のようになろうとした瞬間、巨大な闘魚が大口を開けて橋の入口から飛び出す。

 「ぎえええええ!!?くわれるううう!!」
 「ぎゃぁああああ!!!」

 叫び声が上がると同時に、何かがその闘魚を網で捕まえる。
 その何か──────────小人族は、ロー達が声をかければ、急いで逃げるようにその場を去っていってしまった。

 「おい、メアリー」
 「追撃する気はあったけど、その必要が無い未来が見えたんだもの」

 それに、あれに変に手を加えて小人族の邪魔をしてしまったら悪い。彼らは今回の作戦で必要因子なのだから。

 「それより早く行きましょう?」

 そう急かして私はローの手を握り、シーザー・クラウンの気球に乗って引渡し45分前にグリーンビットについたのだった。

 グリーンビットを見ての印象はむき出しの野生と言うより、巨大化した植物たちだ。
 驚く声を後ろで聞きつつ、私は意識を集中してあたりの気配を探る。
 無数にある気配の中、人のそれと、地下にある活気ある小人族のものをみつけ、口元が吊り上がる。

 「気配は複数。既に上陸している海兵たちがなにかに襲われてたみたい。それと地下、この島の下だと思うけど、コロニーがあるみたいね。活気のある声だし、工場とはまた別でしょう」
 「コロニー?」
 「この島は無人島のはずだが……」
 「とても小さいものたちが集まってる。見聞色を温存するから見るのはここまで。あとはロビンたちの仕事よ」

 まあ、頭のいいロビンならその正体について既に予想出来ているだろうが。

 「時間がねぇ。予定通りメアリーと鼻屋は別で狙撃する場所を探せ。ニコ屋は鼻屋と一緒に諜報でサポート。何かあれば連絡をしろ」
 「それじゃあローも気をつけてね。シーザー・クラウン、何かしたら容赦なく眉間を撃ち込みますからそのつもりで……ね?」
 「この悪魔女ァ!!何をするもこっちがされてる側だっつうの!!」

 しっしっと手を振られ、思いっきりその手をつねればいででででで!!と声が上がる。やだなぁ少し皮膚を引っ張っただけなのに。

 「じゃあまた後で、ロー」

 私はその言葉を最後にローに背を向けてグリーンビット内で高所であり、自分の身を隠すことが出来る場所を探す。
 それにはやはり巨大化した薔薇が丁度よく、グリーンビット中腹の辺りに陣取ることを決めた。もちろん小人に遭遇しないよう、気配を避けてだ。

 薔薇の大きな花びらの中で、大型の対戦車ライフルを作り上げ、寝そべりながらローのいる海岸に向ける。
 シーザー・クラウン囮作戦まであと15分……
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