ころしてよ
悲鳴が沢山聞える。子供たちの脅えた声。可哀想に、ローが私を早く殺さないからいけないのよ。早く済ませれば、こんな怖い思いしなくてよかったのにね。私の心臓を取り除いて、握り潰せば良かったのに、なんでしなかったのかな。
お人好しのお馬鹿さん。助けられたと思ったのならそれは間違いよ。私は私のエゴで動いてる。
だから早くその刀で心臓を突き刺して。なんで躊躇する必要があるの。
見えてるの、貴方の動き。弾丸をはじき飛ばしているだけで私に切りかかろうとも思ってない。
百発以上撃ち込んで、止めれば、傷を負ったローは帽子を落としてその場にたっていた。
血のにじむジーンズに、頬に、体に、ああ、嫌だと思いながら、あと少しの辛抱だからと私は手の武装を解き、十字架に触れ、口元に持ってくる。少しは表情が分からなくなるだろう。
「血だらけね。とっても無様この上ないわ」
「……」
「そろそろ殺す気になれた?あなたから全く殺気を感じられない」
「テメェこそ、殺気を出さずに撃ちまくってるじゃねぇか。そっちこそ、俺を殺す気がないんじゃないか」
「あら、そんなの当たり前じゃない。これはお遊びの殺しなんだもの」
「お遊びか」
「ええ、だって、殺そうとしてくれないローが悪いのよ?
私はただあなたと殺し合いたいだけ。なのに、一向に反撃らしい反撃をしてくれない。
今私たちお遊戯を見てる、麦わらの一味にはみ出しものの海軍……まあ、腐った奴らよりましな部類。それにあの畜生の部下だった奴ら。
貴方が本気になってくれる為に皆殺しをしてもいいけど、私、あの一味に勝てる未来が見えないの。不思議よね。情に厚い彼らはきっとあの二人を人質にすれば直ぐに殺せるけど、私、あの人たちを殺す気は出ないの」
ゆっくりと私は麦わらのルフィの顔を見る。真剣な顔をして、私たちの戦いを見ている貴方に、あなた達の瞳に私はどんな風にうつっているのかな。ローをこの先導いてくれる、ローとはまた違う、眩しいお日様みたいな人。こっそりと彼に笑いかけ、私はまたローを見て、十字架に口付ける。
「ねぇ、白い悪魔の最後の相手が、死の外科医ならちょうどいいとおもわない?
どちらにしろ、私はもう死ぬしかない。全てにもう飽き飽きしちゃって疲れてきたのよ。殺したかったものは拷問して、殺し尽くして、あとは貴方だけになった。
海軍が、世界政府が私は大っ嫌い。私たちの国を見捨てて、助け舟ひとつ出さなかった。海賊は嘘ばかり吐く、酷い人達が沢山居たわ。私は、私たちの国を見捨てた全てが嫌い。
海軍に捕まるくらいなら、私は自害する。この島に残ってもどの道死ぬ道しかないんだもの。なら、最後は遊んで死にたい。
それに、ドフラミンゴ、きっと今こっちに向かってきているから貴方に時間は無いはずよ。私に割く時間はなるべく控えた方がいいんじゃないかな」
「…………」
考え込んでるのか、なんなのか、黙り込むローを見て、私はやっぱりダメなのかなぁと空を見上げた。露出したままの腕には無数の切り傷に火傷の跡や、爛れた跡が残ってる。薬品の実験をしたせいもあるけど、大体は人を殺した時に残った傷だ。
シスター服の下にはもっとたくさんの傷がある。きっと見た人みんな吐き気を催すぐらい酷いもの。でも、別に私にとってその傷は気にする程度のものじゃなかった。
女としての自分を捨てて、ただの悪魔になった私にはとても似合の姿だと思ってるから。
空から雪がふりそそぐ。その結晶を冷えきった指先に乗せて、ローに向ける。
「ねぇ、ロー。フレバンスとはまた違うけど、この真っ白な雪の中、白い悪魔が死んだなら、それこそロマンチックって思わない?」
鮮血がきっと雪を穢すでしょう。でも、この場所は私は好きだ。珀鉛は大嫌いだけど、でも、白い町に生まれた私にとっては、故郷を思わせる、真っ白い景色は心地のいいもの。
ふっと笑って、ああ、話しすぎたなぁと1人思う。感情的になりすぎた。きっと、最期だから口が軽くなってしまったんだろうな。
吐息を零せば白くなって、私の足元は、出血した血のせいで赤く染まってきて、ああ、まだ身体が持つかなぁと、ふと思う。
「おまえは、本当に嘘つきだ」
俯いていたローが、沈黙を破るように言い放つ。目と目が合えば、その言葉が本気で言ったことなのだとすぐに分かる。
「メアリー、お前は致命的な嘘をついた。本当は俺を殺すつもりは無いし、麦わら屋達一味を殺すつもりもない。
ただ、俺に殺されに、殺されたいからここに来た。そうだろ」
「ローってば、何言ってるの?」
「お前が俺の事を調べておいて、俺がお前のことを調べていなかった、なんてことあるはずねぇ事ぐらい気がつくだろ」
「そうね、貴方にとって憎むべきモノだもの」
「……お前は本当のことも言っていた。俺に会いたかったこと、そして生きるのに疲れてしまったこと。ずっと孤独だったこと……
メアリー、お前はもう、生きたくないと思うほど、辛かった
だからわざわざ要らねぇ演技をしてまで、自分の心の傷を抉って、俺に殺されるようにここに来た!」
世界がぐらついて、私は1歩ローに近づく、空を仰ぎみて、手で顔を覆って、ああ、ああ、と、声が出る。
全て図星。全て彼の言うとり。でも、それでも今更止めることが出来ない。
「あっははははは!!!なにそれ、ほんとに脳内お花畑になったの?
会ってない期間が長すぎてそんな妄想を抱く程、本当は私の事が大好きだったのかなぁ……?
───────ねぇ……ふざけないでって、私は言ったよねぇロー!!
嘘をついた!?私が!?生きるのが辛かった!?勝手に決めつけないで!!
私は私の意思で動いてあんなことまでしてきたの!!辛くなんてなかった!!
逆に爽快だったよ!!あいつらを殺すこと自体が全て!!泣き叫んでた!!薄汚い血潮を浴びた!!命乞いをしてる奴をいたぶり殺した!!
独りが楽だった!!何も考えずに殺し続けられた!!信用?!信頼?!そんなのドブに捨て去った!!みんなみんなぶち壊した!!!」
本当は怖かったし悲しかった。なんでと嘆く人を殺していくのは、赤ちゃんを抱いた近所のお母さんを殺すのは、とてもとても悲しくて、それを私は壊したの。
「貴方を殺さなかったのはあなたが本当は嫌いだったからよ!!
ずっと名医の息子で贔屓されて!!私は所詮隣りの薬師の娘でしかない!!
比べられて生きてきた!!私がみんなの珀鉛病を治せるのに治さなかったのだって本当はみんなのことが嫌いだったから!!」
苦しいなんて思ったことない。貴方は私の自慢だった。とってもとっても大好きで、比べられたことなんてない。あなたに生きて欲しいから、私はこの力を手に入れた。
「みんな、みんな嫌いよ!!大っ嫌い!!楽に殺したのも無様な声が聞こえるのが嫌だったから!!!顔を見るが嫌だったから!!大勢殺したかったから!!だから一撃で仕留めていったの!!
私はフレバンスのためって言ったけど本当は私のために殺した!!
殺したいから殺したの!!」
助けて欲しかった。心がパキパキ音を立てて壊れてくみたい。痛いも苦しいもなくなって、砂みたいにさらさらに解けて、何も感じなくなりたかった。
他の人の手で殺されて苦しむなら、痛みのないようにって、私のために殺したの。縋る手を払って殺したの。
「貴方を追わなかったのだってその方が苦しむと分かっていたからよ!!
珀鉛病患者がこれからどうなるかなんて簡単に予想がつくわ!!
見つけられたら世界政府に、海軍に殺される!!ずっとずっと人目を気にして命が尽きるのに脅えながらいきていく!!
人に見つかれば化け物と罵られフレバンスのあの悪夢から逃れられることが出来ない!!
その証拠に苦しかったでしょ!?悲しい思いを沢山したでしょ!?
運良くあなたはオペオペの実を手に入れられた!!それで助かったんだろうけどただそれだけ!!
私と一緒でフレバンスの化け物であることに、変わりはないのよ!!!!」
肩で息をして、私は言いきった。なんて惨めで滑稽な、嘘まみれの言葉だろう。酷いことを沢山言った。本当はだいすき。愛してる。でもそんなの今更言えないよ。私が言っていい言葉じゃない。
助けても、何もかも遅いの。
生きてるのが辛い。本当に辛かった。孤独がいちばん辛かった。本当はすぐにローの元に行きたかった。でも、そんなこと出来なかった。
それが一番の罰だと思ったから。
血塗れの手で今更貴方の手を掴めやしないの。握れやしないの。抱き締められたら、いけないの。
涙はとうの昔に涸れて、出てこない。目に見える悲鳴さえ、私の身体は上手くあげられなくなった。
「貴方が、そんなふうに私を見ていると言うなら遊びはこれで、もうお終い……」
本気の殺気を込めて、私は彼のことを、愛おしい双眸を睨みつける。私のことを悲しそうに見る彼を無視して、私は、自分の体で出来る最悪の銃を作り出す。
「これから本気で貴方を殺すわ!!!!」
ヴェルゴに傷を負わせたライフルを三丁、毒薬を仕込んだ散弾の撃てる銃を二丁。武装色の覇気を纏い、見聞色の覇気を全開。
「“FIRE”!!」
殺すつもりで私は初めてその銃弾を放つ。銃弾は鋭く、そして、“珀鉛”を使っているそれは、白銀ひとつの閃光となってロー目掛けて飛んでいく。今までと違う本気のさっきをまとったそれは、彼の足を容赦なく抉った。激痛に声を上げたローに私は笑って、次の弾を込める。
「“ルーム”」
音を立て、サークルが私とローを包み込む。でもそんなものどうだっていい。見聞色の覇気を極めた私は、一時的な未来予想ができる。いずれ極め続けた才能のあるものだけがたどり着く領域。私の見聞色は独りでいたからこそ、そこまで到達することが出来た。
「“シャンブルズ”!!」
「“FIRE”」
「ぐッ!!?」
私のすぐ側に立ち位置が入れ替わる寸前を狙い、私はまた銃弾を放ち左肩を抉る。肉を抉るのは止血を困難にさせるため。一瞬で抉り、貫通するほどに速い弾でなければローの“room”の中で簡単に立回ることは出来ない。
それに、この中で長い銃は不利かもしれないけどそれの逆もある。
速度をいっしたこのライフルはこの世界にまだ無いもの。だからこそ、精密度や瞬発性が高く、狙ったものを遠くからも、近くからも即座に撃てる。
「“POISON”」
膝を着くすぐ近くにいるローに猛毒の散弾を放つ。
これはヴェルゴの竹を溶かしたものだ。危険と判断されたのか、すぐさま“タクト”と“シャンブル”を使い、躱される。着弾した場所は溶け、腐食し、穴を開けた。
瞬時に場所を移動したローの位置を予知し、カチャカチャと音を立て、髪でできたライフルは蠢き、私はもう、目を瞑りただ十字架を握る。
「“FIRE” “FIRE” “FIRE” “FIRE”!!」
連撃はローを捕える。何とか武装色の覇気もつかい受け流したようだが、無事では済まなかったみたいだ。着弾したのは3つ。腹と足の2箇所。彼の刀は余程の業物らしい。
ゼェハァと息をしてるのが聞こえる。血の匂いが濃くなって、早鳴りになる心音が私の耳に届く。
痛いよね、当たり前だよね、だって私の撃ったものだもの。
全銃に銃弾をめいいっぱい詰めた。瞬間、彼は刀を振るって私を切ろうとした。でも、それも無駄な話だ。
それをするのは“見えていた”。
武装色硬化。ひとつの位置にライフルを瞬時に固め、強い硬化を施す。そうすれば、疲弊しきってヴェルゴとの戦いで覇気をだいぶ使ってしまったローは私のことを切り刻むことは出来ない。
驚く彼に、私は無慈悲に銃口を向ける。
「 、」
言葉は出なかった。ただ悲しくて、ただ、辛くて、私は何をしているんだと疑問を上げながらも、引き金は止まらない。
「“FIRE”」
眼前に迫った銃口。それは確かにローの額を捉えていたはずだった。
けど、何故か彼は倒れなかった。直撃したはずだ。私のライフルが1つ避けられたとしても他のものがある。なのに、何故かそれを拒むように、私の銃は弾を放たなかった。いや、違う。放ってはいたのだ。でも狙いを大きくずらして彼の顔をかすめる程度にしか撃ててなかったのだ。
「な、んで?」
困惑する私は、もう一度放つが、なぜだか彼に当てられない。“確実に致命傷になる場所”が分かってるのに、そこに鉛玉を打ち込むことが出来ないのだ。
ローが能力を使った痕跡は無い。ならば、なぜ私の銃口がズレるのか。覇気の使いすぎで重たいライフルを維持できなくなったのか?
違う。そんなはずは無い。満身創痍の身体をしているが、私の身体がそんなヤワじゃないことは自分自身がわかってる。
“ルーム”が解かれ、私は瞬時にライフルか拳銃へと形状を変え、何度も打ち込むも、何故か弾はかするだけ。なんで?さっきまで当たっていたはずなのに!!
目を開け、彼の姿を見れば、目を瞑っていた時と同じ姿がそこにある。十字架から手を離し、片手を支えにサイレンサーの拳銃で、私の手自ら彼を狙う。
でも、撃てなかった。身体の震えが止まらない。なんで、どうして、と、疑問で頭がいっぱいになって、焦る。
1歩、後ろに下がって、私はもう一度震える体を押さえ込んで無理矢理彼に銃弾を打ち込んだ。
ライフルよりも遅いそれは、十分にローに避けられてしまうもの。それでも私は彼に放った。
そして、私はその弾がローの肩を撃ち抜くのを見て、唖然とした。だって、今まで普通に避けてたじゃない。必死に、能力まで使って、なのに、なんで今のはよけなかったのよ。
刀で相殺することも出来たのに、なんで、なんで!!
動揺で指先が震えて、片手の武器化を誤ってといてしまう。
撃たれた部位は白く肌が変質し、痛みにローが呻く。その姿に、私は髪の毛を両手でぐしゃぐしゃにして、その場で座り込んだ。
「あ、ぁ、」
「メアリー、っ、」
その動揺を利用してか、すぐに距離を詰められる。刀をその場に落として、座り込む私にゆっくりとした歩調で手を伸ばして近づいてくる。後ろに逃げようと下がれば、それを許さないとばかりに手を握られ、引っ張られ、片腕を背中に回された。
「ほら、撃ってみろ。これなら確実に俺を仕留められる」
「っ、」
真剣な表情で、ローは私の手の指先を己の額に当てた。意地になって、私は手を銃の形にし、何とか撃ってみようと、弾を込めるが、体が震えて、それはいけないと、本能が拒絶する。
彼は撃ってはいけないと、そう言って聞かないのだ。逃げようと身体を動かそうとするが、力強く私を拘束する彼がそれを許してくれない。ローが私のことを包み込むように抱き締めて、力の弱い私は、彼の服を引っ張ったり、無駄なあがきをするしかなくて、叩いても、何をしても、彼は離してくれない。
それは、私をもう離さないとそう言ってるようで、どうしようとなく、髪の毛を銃にして、脅しにはなっても、彼をかすめるだけで直撃することがなかった。
「やっぱりな……メアリー、お前は俺を撃てねぇ。何があっても、俺の事を死なすことはねぇ。フレバンスのあの夜、本当は俺“だけ”を助けるために、わざとああしたんだろ。
不自然だった。昔から考えてた。なんで俺だけ生きてるのか。死体の山の中で埋もれながら考えた。
肉親を殺された恨みは今でもある。シスター達を殺された恨みも勿論ある。けど、それ以上に、時間が経つ度、強く記憶に残ってるのは、お前が俺の両親を殺した時に泣いていたことだ」
「わたしが、泣いてた……?」
瞬く私は不思議で仕方なかった。あの時に涙を流したのはシスターを殺した時だけだ。それ以外は泣いてないはずだ。実の両親を殺した時でさえ、泣いてないはずだ。なのに、私がローの両親を殺した時に泣いていた?
「お前は昔から自分が涙を流してる自覚がない時があった。どんなに辛い時も泣きやしないのに、独りになった時にやっと声を出さず泣く癖がな。
俺があの時突き放した瞬間、お前は独りになった。俺が、お前を孤独にしちまった……」
混乱する私に、ローは深く噛み締めるように私に言う。抱きしめられる力が強くなって、私はいつの間にか抵抗をやめていた。頭から体全体を包むみたいに、ローの手が回って、どうしたらいいか分からずただ攻めてもの抵抗に彼と私の体の間に手を刷り込ませて、押すが、無意味に終わる。
「お前を恨む気持ちは変わらねぇし、許すことも出来ない。だが、それでもお前が何よりも大切だったことも本当は変わらなかった。
俺はお前を殺すつもりはない。俺は医者だ。あの時約束したように、遅くなっちまったが、お前を止めるために俺はお前を探してた。
間違いをおかしたらお前を止める。その約束を果たすために」
あの時の夕日の中で交した約束。指切りげんまん。どんな病気も治せる医者になる約束と、私が間違った時に止めてくれる約束。
忘れているのだと思ってた。ずっとずっと、叶えられないものだと思ってた。なのに、そんなことのためにこの人は、私を探してた?探して、くれていたの?
「そ、んな…馬鹿じゃないの?
私はもう間違いだらけ。沢山の人を殺した。フレバンスの仇のために、女も子供も関係なくみんなみんな殺したの!!!
賄賂を受け取って加担した国々も!!腐った海軍も!!!世界政府の人間も!!!
見て見ぬふりをしろと言った重鎮さえも殺した!!
殺して、殺して、殺し尽くして、私の身体は穢れてる!!
間違いを犯したら止めるなんて、そんなのもう、手遅れなのよ!!」
震える声で、私は叫ぶ。そうだ、私は穢れてる。汚れきってる。血で真っ赤に染まりきって、もはや真っ黒。白い悪魔のメアリーなんてものじゃない。血に汚れきったそんな穢らしい悪魔でしかない。
自己満足のために故郷の仇をうって、殺し尽くして……もう、戻れない。
「止めると言うなら、もう、殺してよ!…そうよ、貴方が言った通り、わたし、…、生きてるのがもう嫌なの、辛いの、苦しいの!!
呼吸する自分が嫌!!
何をしても、私は貴方に大切にしてもらう資格なんてないの!愛してもらえる資格もないのよ!!
私は、私がずっと許せない!!何も出来なかった、殺すしか方法を見いだせなかった自分が!!
本当は、…私がローを残したのは、ローに貴方に殺してもらうためなの、あなたの手で、身勝手だってわかってる、
でも、お願いだから、もう、こんな私を終わらせて……っ、」
身体の力を抜いた私はもうローのことを見ることが出来なかった。
ああ、言うつもりなんてなかったのに、こんなふうに懇願して死を願うつもりはなかったのに、なんて嫌な女なんだろうか。
しんっと静まり、雪の落ちる音しか聞こえない。体の芯が段々痛くなってきて、暴れた反動できっと怪我が悪化したのだろうと予想をつける
でも、そんなことどうでもいい。
沈黙の中、私は待った。彼の選択を、殺してと願う私を、殺してくれることを願った。
「ずっと、独りにして悪かった」
ぶっきらぼうに言われた言葉。でも、それはあたたかみがあり、優しい声。
「独りで戦わせて、お前の苦しみを、孤独を埋めてやれずにいて悪かった」
私の求めている本当の願いでは無いのに、その言葉は不思議と雪のようにふってはとけるように心に染みて、苦しくて、
「俺と一緒にいろ。メアリー。今度こそ、ずっとだ。俺と一緒に生きてくれ。
大切にされる資格も、愛される資格もないなんてそんなこと勝手に決めるな。穢れてるなんてお前はきっと、一生気にすると思うが、そんなの俺は構わねぇ。血に汚れちまってるのは俺も一緒だ。お前だけがフレバンスのことを背負うことはないんだ。
それにな、何があっても、お前が何よりも大切なのも、昔から愛してるのも何一つ変わりはしねぇよ」
「ーーーっ、」
愛情なんて消え去ってるって勝手に思ってた。生きることなんて、到底許されないことだと思ってた。なのに、そんなことないと彼は否定して、一緒にいようと言ってくれる。優しい音は、温もりは、どうしようもない私を包んで、離さない。
壊れた、砂になった心が歪に、だけど戻っていくのを感じる。枯れたはずの涙が溢れて、止まらなくて、私は涙を乱暴に拭って、でも止まらなくて、彼の膝の上でただこぼれるそれを止めることが出来ない。
「ごめん、なさい」
「ああ、」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、!」
「お前の泣き虫だな。ほら、乱暴にするな」
涙を拭うその指は少年と違う男性のそれで、でも、その優しさは変わらない。
わあわあと、私はこの時、フレバンスでの出来事以来、初めて声を出して泣いた。色々な感情が混ざって、私の心の空白を塗りつぶすように、ローは涙の止まらない私を優しく受け止めて、離さずにいてくれた。
ずっと手を掴んでくれないと思ってたのは、私だけだったんだ。