あいしているのはかわらない



 涙がおさまる頃、ローは私が脱ぎ捨てたコートを手にし、私にかけ、抱き上げた。子供のようにひゃっくりを繰り返す私を、麦わらの航海士と船医の元に連れてきた。

 「麦わら屋、身内がすまねぇことをした」
 「全くだ!!」
 「おい!早くナミとチョッパーを助けてくれよ!!解毒剤出せ!!」

 ご立腹な麦わらに、私は申し訳ない思いをしつつ、私は先程見せた弾丸を身体からふたつ取りだし、麦わらに渡した。
 そして、それを傷口の上で割るように言えば、迷いなく中の“粉薬”が降りかかる。すると、小さく弾ける音がし、弾薬が溶ける。体内に染み込んでいくそれを見て、声を上げそうな麦わらに、私は頭を下げた。
 
 「……ごめんなさい、実は、さっき言ったような毒薬は使ってないの」
 「…………はぁ!?」

 素っ頓狂な声を上げられ、私に集まる視線に耐えきれず、俯きながら、私は彼らに打ち込んだ薬弾を見せた。
 
 「一目見て、彼女の体が凍えきってて疲労もだいぶ蓄積されてたのが分かったから、直接体の中に痛みのないように麻酔薬を纏ったそれを撃ち込んだの
 本当は彼女だけでも良かったけど、鼻のいい貴方の船医に気が付かれるかもしれないから、彼にも活性剤を打ち込んだの。体があまり動かないほどの疲労が溜まってたみたいだけど、目を覚ませばすぐに動き回れるくらい元気になるわ」

 薬師の技術で作りだした直接打ち込む薬剤アンプルみたいなものだ。カプセルになっていて、身体に何も負担はなく、毒も一切はいっていない。ロー以外の動きを止めるため、命を本当にとるつもりはなかった。しばらく気絶をしていてくれれば、それっぽく見えるので、そのうちに殺されようと思っていたのだ。
 けれど、私が殺そうとしているのが嘘だとローにはバレバレだったらしい。

 「こいつはピースメインの海賊は殺さねぇ主義だけからな。今回のガキ共のことや、麦わら屋のクルーであるなら最悪な危害を加えることはねぇ」
 「傷も、残らないぐらいに小さいものにしたから、もうすぐ目を覚ますよ」

 そう話してる間に、ううっと声を上げ、航海士と船医はロビンに背中を支えられつつ上半身を起こし、ゆっくりと目をひらき、ワタワタと自分の体を触る。

 「なんだ!?体が軽っ、??!オレの体どうしたんだ!?」
 「あれ?私撃たれて……って、トラ男くんがあの子倒したの!?って、なんで目の前にいるのよ!?」
 「ギャーーー!!!撃たないでくれえぇぇ!!!」

 叫ばれ、被害者二人の前にゆっくりと座らされる。そんなふたりにごめんなさいと頭を下げれば、すぐに慌てる声は無くなり、落ち着きを取り戻してくれた。

 「ごめんなさい。お腹を撃って…でも傷は残らないし、打ち込んだ弾は本当は毒じゃなくて栄養剤……活性剤みたいなので、体力の回復を促してくれるものなの」
 「栄養剤?」

 怪訝そうな声を出す彼女の手をチョッパーがとり、自分の体もぺたぺたお触れる。
 そして、驚いたような表情をしながら、頷いた。

 「うん、確かにナミの血行がかなり良くなってる。手もあったけぇし、俺も体が動かせるぐらい疲労感が無くなってる。ナミはどうだ?」
 「確かに、かなり楽にはなってるけど…て!!だとしても撃ち込まないでよね!!!本当に死んだかと思ったんだから!!!」
 「ごめんなさい…ローに殺してもらおうとして、あなたが1番困る相手だと思ったの。悪いことをしたのはわかってるし、巻き込んでごめんなさい。でも、どうしても彼に息の根を止めて欲しくて……」
 「死にたがりのイカレ女が暴走した結果ってことか。トラ男、テメェ、ほんとにこいつ始末しなくてよかったのか」
 「灸は後でしっかりすえる。色々他にも話さなくちゃならねぇこともるしな。
 それに、俺は医者だ」

 堂々と目を見て言い放たれれば、もう殺してなんていえなくなる。医者であるということは命を助けること。私の命を奪うことはないと、そう宣言されているのと同義だ。

 「トラ男がそういうんならいいけどよぉ…オレこいつのこと嫌いだぞ」
 「麦わら……」
 「こいつのせいでぜんっぜん宴が始まらねぇじゃねぇか!!
 腹減って仕方ねぇのに!!!!」
 「いやそこかお前ーーーー!!!!!」

 ウソップの鋭いツッコミが光り、私は宴という言葉に目を瞬く。そういえば、薄れた記憶の中に、何かが終わると必ず彼らは宴を開くというシーンがあった気がする。

 「ナミやチョッパーについても許せねぇとこあるけどよ。トラ男とお前の問題なんだろ。なら、オレァ口出しもできねえ。でも話が終わったんなら宴を始めんぞ!!
 早くサンジの飯食いてぇからな!!
 それに大勢で食う飯は何よりも美味い!!だからお前も参加しろよな!」

 にっしっしっ!と笑う麦わらに呆気に取られ、次には私は笑ってしまった。笑う度に身体がズキズキと痛いけど、それでも、止まらない。

 「そんなに、麦わらが我慢できないくらいに美味しい料理なの?」
 「あったりまえだ!!サンジの料理はぜんぶうんめぇんだからな!!
 お前食ったら絶対びっくりすんぞ!!」
 「ふふふっ!なら、私の分も食べちゃうのかしら?」
 「んーー!宴ってのはみんなで食って騒ぐもんだ!!
 どうしても要らねぇってんなら食っちまうけどよ、そうじゃなきゃ一緒に食おう!
 独りで食う飯ほど寂しいものはねぇからな」

 そう言って、麦わらは私の頭に手を置いた。

 「ありがとう、麦わら。でも、私はローが食べるなら、食べたいかな」
 「安心しろ!トラ男は必ず参加する!!」
 「勝手に決めるな!!ドフラミンゴがいつ現れるのかもわかんねぇんだぞ!!直ぐに島を出るべきだ!!」
 「そういうなって〜!サンジたちが急いでかまどの準備もしてくれてるしよ!それに、話をするってんなら飯くいながらのがいいじゃねーか!」

 笑う麦わらに、翻弄されるロー。その姿がまるで振り回される兄と、振り回す弟みたいで、おかしくて、ついつい笑いがこぼれ、そして、すぐ、段々と安心したせいか、疲れのせいか、身体に蓄積されたダメージが今頃出てきたのか、私は強い眠気に誘われた。

 「ん、ごめんなさい、ロー、むぎわら……わたし、少し、眠くなって、来て……」
 「……おい、寝るならお前の中の珀鉛を摘出した後にしろ」
 「で、も、もう……」

 くらくらとして、私は重たい瞼を何とか開けようとするけど、眠気が勝ってしまう。ローに手を伸ばして、服を緩く掴めば、ため息をついて、仕方ないとばかりに彼は、後で起こすからなと、そう言ってくれた。
 頷いて、私は瞼を閉じる。本当は、夢なんじゃないかと思う時間。不安で眠るのが嫌だったけど、耐えることができない。
 先程まで起きたことが夢でありませんように、そう願って、私は深い深い眠りに落ちた。

 ☩☩☩

 すやすやと、泣いたあとを残した身体中に傷を負ったまま己と戦ったメアリーを見て、仕方ないとばかりにローはメアリーを抱え直し、コートをかけ直してやっていれば、ルフィは満面の笑みを浮かべる。

 「良かったなトラ男、そいつと仲直り出来て」
 「そうだな」
 「初めはどうなるかと思ったけどよ、もう独りにするのはやめてやれよ。独りで居るってのは、どんなことよりも辛いからな」

 真剣な表情で言うルフィに、ローは飛んでいっていた帽子を手に戻し、深く被るとふっと笑って、メアリーを見下ろす。

 「言われなくてもわかってる」

 もう独りにはしない。何があろうと。
 そんな決意が込められた言葉に、ルフィは満足気に笑う。

 その後、ローはルフィの元を去り、子供たちに声をかける。身体にあるドラックを少しでも摘出するためだ。
 それから人殺しーー!!とチョッパーがローの能力をみて騒いだり、錦えもんが砕けて復活したりなど、騒がしいことが起きたが、眠っていたメアリーはその事を知らず、自分の大好きな人の香りに包まれていた。

 メアリーがやっと目を覚ましたのは、ローに揺さぶられ、声をかけられた時だった。
 全身の痛みに呻きつつ、ウトウトしながら目を開く。

 「お前の分だ」

 そう言って渡されたのは、美味しそうなスープの入った器で、受け取ろうにも、全身の疲労からか、そんな元気はなくモゾモゾと動き、ローの胸元に耳を当て、また目を瞑ろうとする。

 「おい」
 「……おなか、へってるけど、ろーのおときいてたいの」
 「……メアリー」
 「ゆびのさきが、うごかないんだもの。たくさんぶそうしょくをつかったから、なれないはきは、だめね、からだがついてこない」

 またそう言ってまぶたを閉じようとしてる彼女に、深いため息をついて、ローは匙をとると、ほら、とメアリーの口元に運ぶ。
 きょとんとしたメアリーは、ぼうっとした頭でそれを口にした。旨みの凝縮されたスープは、ひとくち食べただけでも身体が芯から温まるようだった。
 目が覚めたのか、もう一口を食べさせてもらえれば、少し体力が回復したのか、両手を出してそれを受け取った。

 「おいしい……」
 「もう自分で食えるだろ」
 「うん、ありがとう」

 体勢はそのまま、スープに口をつけるメアリーはとても幸せな気持ちでいっぱいだった。美味しい暖かい、食べたことの無いご飯に、ローが一緒にいてくれる。
 また、こうして一緒に入れると思わなかったメアリーは、その幸せを噛み締めるように、ゆっくりゆっくり、スープを飲み込んだ。
 そうしてる時、ふと隣にスモーカーがいることに気がついた。自分と同じおわんを持ってるので、きっと彼もこれを食べるだろう。
 その時、ふとメアリーはあることを思い出した。

 「スモーカー、今思い出したけど、入口付近で逃げ遅れた貴方の部下、生きてるよ」
 「……なんだと?!」

 驚くスモーカーに、メアリーは施設の細い地図ってある?と、ローに問いかける。そうすれば、シーザーの部下だった者が慌てたように3枚の紙をペンと一緒に持ってきた。

 「寝てる時、無意識に見聞色の覇気が働いてる時があって、その時にフロアずつに固まってる人影を見たの」

 すらすらと丸をつけていくメアリーは、それがシノクニの被害者なのだと直ぐに理解した。

 「気配が消えてなかったから、あの侍みたいにまだ生きてると思う、早く助けに行くといいかもね」
 「何が目的でそんなことを教える」
 「シーザーの鼻をあかしてやりたいから。私、アイツ大っ嫌いだもの!!」

 ふんっと鼻で笑い、スープにまた口を付け出したメアリーに、スモーカーはなんとも言えない顔をし、彼女の話を聞いていたG-5の面々は喜んだ。仲間が助けられるかもしれない。その希望がもてたからだ。
 そして、シーザーに毒ガスの弱点を聞きに行くという彼らに、メアリーは満面の笑みでスっとひとつの弾薬を取り出した。深い茶色をしたしたそれを渡す。

 「何も話さないようなら是非シーザーの目の前で破裂させてくださいね!色んな刺激物の凝縮エキスが入ってるので催涙効果はとてつもなく期待できるの!!」
 「おい、シーザーに死なれたら困る!!」
 「大丈夫よロー!死ぬような劇物は入れてないし、数時間痛みに苦しむだけだよ!」
 「……ならいいか」

 自信満々に親指を立てるメアリーに、少し黙ると頷くロー。許しが出た瞬間、工具を持って男どもは騒ぎだす。

 「よっしゃあ!!やったるで!!」
 「間違いない悪魔の所領!!!」
 「だがシーザーにするんならどんどんやったれぇ!!!」
 「イエアアアアアア!!!」

 テンションが吹っ切れ駆け出す彼らを見て、笑顔で手を振るメアリー。数秒後、早くもシーザーの汚い悲鳴が聞こえ、メアリーはとても満足気なかおをして、ローの腕の中でスープを飲みきっていた。
 体は温まり、先程よりも若干血色の良くなった頬を撫でるようにローは手を当てる。きょとりとしたメアリーは少し、耳を赤くしながら、器を持つ手に少しだけ力を入れた。

 「ロー?どうかしたの?」
 「お前を抱えてからずっと思ってたが、……また飯を抜いたりしてたのか?
 お前ぐらいの女なら、もっと体重があってもいいぐらいだが、軽すぎる」
 「うっ……えっと、必要な栄養素はとってるわよ。ただ、固形物を食べる暇が無いし、調達するのにも面倒だから、栄養剤で済ませてただけよ」
 「……これからお前の食事についても考えなきゃならねぇな。黒足屋のスープでまず良かったが、重湯からのが本来良かったか」
 「ローが、食育をしようとしてるっ!?」
 「ひとまずもう一杯ぐらいおかわりしてこい」
 「ええっ!?でも、結構お腹いっぱいよ!私、食べ切れるか分からないし、食べきれなかったら申し訳ないわ」
 「食い切らねぇ分は俺が後で食べてやるから、いいから行ってこい。体も動くようになってきてるだろ。無理なら連れてってやる」
 「う、うう〜、」

 唸るメアリーは、突然急上昇する視界にあわててローの胸元に抱きつく。そして、早足に、サンジの元に向かう。

 「黒足屋、こいつの分をもう1杯頼む」
 「ああ?トラ男、テメェおかわりするやつは並べって……君は真っ白い天使のような可愛い子ちゃん!!!!!」

 目をハートにしたサンジは、メアリーを視線に入れた瞬間にメアリーに近づき、手早くローが彼女の手から器を奪いサンジに渡す。

 「こんな美女なら仕方ない!!ちょっとまっててね!」
 「まともに飯をずっと食わずにいるらしい。具は少なめでスープの方を多めにしてくれ」
 「なんっだと!?くうっ!!なら今すぐにでも胃にいいものを別で用意すべきか!」
 「そ、そんな事しなくてもいいわよ!このスープ食べたことないぐらい絶品で、美味しくて、だからそんな手間のかかるようなことをしないで私より早くほかの並んでる人によそってあげて!
 それに並ぶならちゃんと並ぶし、」
 「並ぶ時間が惜しい」
 「ロー!みんなちゃんと並んでるんだから本当は並ばないのいけないのよ!!横入りなんて子供みたいなことしないの!」

 腕の中で叱り付けるメアリーにムッすりとしながら、そっぽを向く。並んでる子供たちにも恥ずかしいと思いながらごめんなさい!と並んでる子に言えば、ふるふると子供たちは気にしてないよと頭をふる。

 「おねーちゃん怖い人だって思ったけど全然怖くないね!」 
 「もうこれで4杯目だからおねーちゃん先に食べなよ!ぼくたち沢山食べたから!」
 「ねえおねーちゃんってあのロボみたいに変形できるの!?ビーム出せる?!」
 「あ、ありがとう……
 えっとね、その気になればビームは出せないけど大砲ぐらいはいけるけど……」
 「大砲!?すげーーー!!!」

 無垢な子供たちの善意に、戸惑いがちにメアリーは答えては視線を助けてと言わんばかりにローに向ける。それが面白いのか、口の端を上げて、ポイッといつの間にか敷いた布の上にメアリーを座らせる。

 「えっ、えっ、?」
 「釜の近くならあったけぇだろ。俺はやることがある。暫くそこにいろ。黒足屋。こいつは重症だ。逃げねぇように見とけ」
 「てめぇの指示に従うつもりはねぇか……天使がすぐそばに居てくれるなら喜んで〜!!」
 「ロー!まって、置いてかないで!!」
 「直ぐ戻るから心配するな」

 仕方ねぇなとローは自分の被ってた帽子をメアリーに被せた。きょとりと瞬く彼女を帽子越しに撫で付け、背を向ける。
 歩いていくローを見て、メアリーは手を伸ばそうとするも、ローが着させてくれた彼のコートを握って、きゅっと唇を噛む。

 「早く戻ってこないと泣いてやるんだから!」

 震える声に、その前に戻ると返され、メアリーはその場に座り込んでいることしか出来なかった。そして、目線を合わせるようにしてスープをよそったサンジが器をメアリーに渡す。大人しくそれを受け取ったメアリーは、ありがとうとお礼を言い縮こまる。
 そんな彼女を見て、先程の戦いを思い出して、流れた涙を思い出して、サンジはかなりの訳ありだということを理解しながら、こんな可愛いレディを泣かすなんてなんて罪な野郎だとローに嫉妬し、気遣うように メアリーに声をかける。

 「安心てメアリーちゃん、トラ男はすぐに戻ってくるさ。アイツの目を見りゃァそれぐらい俺でもわかるよ」
 「……うん、えっと、黒足さん、ありがとう」
 「可愛らしいレディーにはサンジって呼んでもらえると嬉しいかな」
 「可愛、らしい……えへへ、そんなふうに言われるの慣れてないから照れちゃうわ。
 ……じゃあ、次からサンジと呼ばせてもらうね」

 帽子に隠れて見えないが、口の端が緩むのをみて、サンジは彼女が笑っていることがすぐ分かった。それに満足して、次々に来るオカワリを要求する声に答える。
 メアリーはスープにゆっくりと口をつけて、飲み込む。わらわらと集まる男の子達に髪の毛をかっこいい銃にして見せたり、形を変えてあげたりして、可愛いクマの形にしてみれば女の子達ははしゃいで喜んだ。

 「少しいいかしら?」
 「ニコ・ロビン……」

 子供達の合い間をぬって現れたロビン。メアリーは、彼女から話しかけるなんてどんなようなのかと少し身構えるが、差し出された物に目を見開く。それは、メアリーが持ってきていた荷物と、チョッパーがシーザーからくすねた子供たちに使われたドラックの資料だったのだ。チョッパーの調合した薬もある。

 「トラ男くんから預かったの。貴方に渡して欲しいって。メアリーって呼んでも?」
 「ええ、好きに呼んでもらって構わないわ。荷物ありがとう。さすがにこの身体で探しに行くのは難しかったから」
 「お礼はトラ男君に言って。彼が能力を使って取ってきてくれたの。それと、私のことはロビンで構わないから」
 「そうなのね、分かったわ。それにしてもこの資料……ねぇ、この子達の鎮静剤をもしかしてロビン達の船医が作ったりした?」
 「ええ、チョッパーが作って彼らに処方したわ。一時的に発作を治すものらしいけど」
 「そう、あんなことをしといて言うのも烏滸がましいけど、貴方たちの船医にあわせてもらえるかしら?
 短時間でこの子達の症状を緩和するものを作るなんて凄い腕よ!!
 私はこれでも薬師をしてるの!だからこの子達の発作の他に、何かあった時用の薬を一緒に作りたい。
 私の荷物の中に漢方の材料や他の薬品類も入ってるからきっと役に立つと思うの」

 まずは船旅になれてないからそれ用のものと、風邪をひいた時の即効薬。体の大きさからして注射でもいいけど朝昼晩に飲める薬を用意して、もしもの時のためにすぐ使える麻酔薬に、ああ、それと筋肉の力を緩める薬でも良さそうよね。怪我をさせるわけにもいかないし……って、そういえばこの子達怪我をしてるし足の裏も酷い状態だったはずだから痛み止めと化膿止めも作らないといけないわね……そう、ブツブツと資料を見ながら意識をそれらに向け、集中し始めたメアリーに、最早周りの音は聞こえてない。

 「あらあら、すごい集中力ね」
 「おーい!お前宴楽しんでるかー!!」
 「この薬にはこれを使って、原料についてはまだあるはずだから次にこっちはこの漢方の元で、でもこどもたちが飲むにはまずいからなにかに包み込んであげた方が?でもそうするとあのクソ野郎と同じ思考になる気がしてムカつくから飲むのはやめてやっぱり注射の形にするかカプセルにした方がいいかな。でもカプセルにするにしても時間がないからそこは海軍の医療班たちに任せるとして、でも彼らにそこまで器用なことが出来るかな。でもあくまでも医療班だしカプセル薬をつくることだってきっとしたことがあるはずだからそこは問題ないとしむぐっ」
 「うるせぇ!!無視すんな!!!」

 永遠と続く言葉に業を煮やし、ルフィはぱしんとメアリーの口を閉じさせた。目を白黒させてハッとしたメアリーはえ!?麦わらいつの間に!?と、驚きいや気づけよ!!!と周りからの鋭いツッコミが炸裂する。

 「えっと、ごめんなさい……私薬のことになるとつい……」
 「宴のときなんだから独り言ブツブツ言ってんな!!こういう時は歌ったり騒いだりするもんなんだぞ!!それにそれぇ!!せっかくうめぇサンジの飯もさめちまうだろうが!!冷めてもうめぇけど!!」
 「宴初めてで騒ぐのが苦手な人間に無茶振りはやめて欲しいかな!?
 でも、せっかくのスープが冷めそうだったのは本当だから、ごめんなさい」
 「分かればいいんだ!それよりもお前他のもの食ったりしねぇのか?トラ男はどこいんだよ」
 「あまり私ご飯食べたりしなくて、久々に固形物を食べたから胃に優しいものじゃないとダメって言われてるの。それと、ローなら用事があるってどこかに行っちゃった」
 「ええええ!?お前飯食わねぇのか!?」
 「ご飯については、いつも2日に1回でも十分だったりしたし、ここ一週間は栄養剤だけだったかな」
 「お、お前っ!!35回も飯を抜いてたのか!?」
 「どう計算したらそんな数字になるの!?」
 「ルフィは一日5回ご飯を食べるから」
 「それって逆に食べ過ぎなんじゃ……」
 「お前すんげぇ損してる!!船に乗ったらサンジの飯沢山食えよな!!今食ってるのもうめぇけどほかの飯も全部うめぇ!!飯抜きなんて考えられなくなるからよ!」

 船に乗ったら、その言葉にきゅっと、メアリーは自分の心臓が縮まるような心地だった。グラッと視線が揺れて、不安で俯く。

 「……私、あなたの船に乗ってもいいの?」
 「そりゃあトラ男の仲間になったんだろ?なら同盟仲間だし当たり前じゃねぇか!」
 「貴方の仲間に酷いことしたわ……それでもいいの?」

 声は震えて、祈るように手を組んだメアリーは体を縮こませた。そんな彼女に視線を合わせるよう、ルフィは、んー、と、考え、しゃがみこむ。合わさった双眸に怯えの影が見えた。頬杖をつき、そうだなぁと、小首を傾げた彼は、言い放つ。

 「でもあれってナミ達の為の薬だったんだろ?なら別に酷いことじゃねぇよ。最初は驚いたし、殴ろうと思ったけどよ、でも、トラ男と一緒ならお前もう大丈夫なんだろ?ならいいじゃねぇか!」

 太陽みたいに笑って、な!問題なし!なんならオレの仲間になってもいいしよ!と、言うルフィに、あんなに不安がってたのが馬鹿みたいだと、メアリーは笑った。

 「そうね、ローと一緒にいれるなら、私はもう大丈夫。麦わらさんの仲間になるのはとても魅力的だけど、私、ローとずっとずっと一緒にいたいからお誘いは断るね」

 恋をすると言うよりも、何よりも愛おしいものを思い浮かべ、微笑むメアリーに、そっかーなら仕方ねーな!とルフィは笑い、そんじゃあな!と、騒がしい男達の飲み場に飛んでいく。

 「ロビン、あなたの船長さんとってもいい人ね。お日様みたいで、とっても眩しいし、あったかい」
 「ええ、だからうちのクルーは全員ルフィにはかなわないの」
 「その光景が目に浮かぶわ」

 メアリーとロビンは2人で笑い合う。そして、ロビンが去った後、手早く飲める分のスープを飲みながら、メアリーはひとまず作れる薬を作ろうと鞄の中の薬草などを取りだし、調合する。
 本来なら外でなく室内でやりたいが、仕方ない。
 ビタミン不足についても考えられたので、自分の飲んでる栄養剤をすり潰し、子供用に分けてリなどしていれば、頭の上の温かさが消え、反射的に上を向けば、ローがメアリが先程まで被っていた帽子を被り、見下ろしていた。

 「相変わらずお前の薬作りの腕は早いな」
 「時間が無いんでしょ?なら、出来るだけのことはしないと」
 「スープは飲みきれたのか」
 「半分飲んだわ」
 「ならいい。残りをよこせ」

 はい、と手渡せば、数口でローは残りのスープを飲み干してしまう。殆ど具が残ったままだったのにまあ、ここまで飲めたのならいい方かと頷く。

 「薬は他に何種類作るつもりだ」
 「船医の人が大きな女の子に付きっきりみたいだから、先に私の作れる鎮静剤を量産して、麻酔とそれからアレをつくったから……あとは4種類くらいかな
 でもすぐに作れるし、材料とレシピを彼らが乗る船の医療班に渡すつもりだから、見本品として数個作るだけにしようかなって」
 「出来たら女海兵に渡しとけ」
 「分かった。多分この後またすぐ作り終わったら寝ると思う」
 「……少し触るぞ」

 そう言って彼女の額に手のひらで触れれば、すぐに熱が上がってるのがわかった。熱い額に、次に首もとに触れ脈を測るが、異常値。

 「…………メアリー、ドクターストップだ」
 「えっ」
 「いいから続きは俺がやる。寝ろ」
 「あと少し!あと少しだから!!」
 「俺がお前にカバンを返すのがはやかったのが間違いだった…
 いいから大人しく寝ておけ。ひと段落は本当は着いてるんだろ。薬の生産は後で海兵共にやらせればいい」
 「けど、途中だし……」
 「はぁ……あとは俺がやっておく。レシピ通りにすりゃあお前に劣るがそれなりのもんが出来んだろ」
 「きゃっ」

 メアリーの両脇に手を入れ、持ち上げると、ひょいっと簡単に抱きかかえ、ローは先程メアリーがいた場所に座る。そして、膝の上に乗せるよう安定させ、ぐっと自分の胸元に耳が行くようにしてやれば、赤い顔をしたメアリーは、拗ねた顔をしながら、大人しくローの胸元に擦り寄り、ぎゅっとローの服を握り、すぐに寝息を立てた。
 本人が思っている以上に限界だったのだろう。

 その後、子供たちのために出来た薬は海軍にわたり、子供たちはたしぎ達に連れられ、パンクハザードから出航した。その間、海軍たちの男泣きなど色々あったがメアリーが起きる気配はなく、ローは眠り続ける彼女とそのまま麦わらの船に乗り、シーザーを人質にドフラミンゴにでんでん虫をかけるのだった。
title you