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 波紋法を一日に何十回も使って治療に専念しています私です。
 はっきりいっていい?めっちゃやばい疲れる!波紋のコントロールの修行にはもってこいなんだけど、それにしてもこの連発しての微妙な加減の調整は辛いんだよね……例えるなら、砂糖とか塩の調味料を0.00mg単位で延々と1度も間違えないで重さを測り続けるような疲労感。そしてそれにジョギングが加わる感じね!
ああ、因みに善逸くんは、ちゃんと2ヶ月間やったから!
 ただ、まだ手足の痺れはあるみたいだからしのぶのお薬がもう少し続くみたいだけどね。私の治療の最終日は、なんというか……うん、善逸くんだなって感じに終わりました。何があったかって?それは…………最後まで面倒見てだのあの苦い薬を飲みたくないだのめちゃめちゃ泣き叫ばれたよ。あまりに泣かれたから
、とりあえずキャラメルをあげて頑張って!と応援しといた。
 それに、基本的には波紋に頼るのってあまり良くないしね。今回みたいに蜘蛛化しちゃうだとか、あとは骨の複雑骨折や内臓のへのダメージだとかなら惜しみなく使うけど、後遺症がない感じに治るものなら自分で頑張って治してもらわないと困るのだ。波紋に頼りすぎれば自然治癒力が落ちる可能性があるし、何よりも怪我を治す期間は身体が少し訛ってしまうけど、体の疲れそのものをとる期間でもある。
 鬼は増えるばかりで馬車馬のように働かされても、人間なのだから休息と治癒は必要不可欠。そんなわけで、私は波紋をセーブしているのだ。……とは言っても、自分には常に波紋が巡っている状態なので、直ぐに傷治るんだけどね。
 
 ああ、他の蜘蛛化しちゃった人はどうなったのって?みんな順調に回復中だよ。本来なら後遺症も残っちゃうようなものだけど、長期間蜘蛛になってしまった人以外は残らずに治るみたい。というか治すから大丈夫。ていうか、皆人型に治ってるからあとは手足の末端だけなんだよね。だから、個人個人のペースに合わせるから私の労働が倍々になっているというわけさ。
誰か私を褒めていいんだよ!!

 まあそれでですね?流石に疲れすぎて頭がパーになりそうな1歩前でカナヲちゃんがみたらし団子の差し入れをくれた。しのぶに頼まれていたらしい。さすができる上司!タイミングバッチリだよさすが我が友!!そして、カナヲちゃんかわいい!!
 唯一の休憩時間であるおやつ時に、縁側で日向ぼっこをしながらお茶と一緒に頂くことにするよ!ひーはーおやつたいむだぜふぅぅぅぅっ!!!
 ウキウキ気分で縁側につき、さあお団子を食べよう!という所であのっ!と声をかけられた。だ、誰だ?!私のおやつタイムを邪魔するものは?!と思い、声のした方を向けば、炭治郎がいた。

「雅風さん、少しお聞きしたいことがあって、お時間いいですか?」

 おおう、そういえば、今機能回復訓練をしているんだっけな?そのことについての質問かな?まあ、話す分には別にいいし、うん。
 隣におすわりーと手招きをして、膝に乗せていたお皿から1本お団子を渡す。ありがとうございます!と言いながら炭治郎は受け取ってくれた。にっこにっこ笑ってくれるもんだからなんか心が浄化されてくのを感じる。あーー心がわぼわぼするんじゃぁーー。心が穏やかになっていくのを感じつつ、大粒のみたらし団子を齧り、話を切り出す。

「それで、話って?」
「はい!あの、全集中“常中”の呼吸について、教えていただければなと。俺、今その呼吸を習得しようとしているんですけど、なほちゃん達に、雅風さんならいい修行法を知っているんじゃないかと」

 あーうん、やっぱりそれの事かぁ。みたらし団子の甘さに脳が刺激されるのを感じながら、わたしはううんとうなる。しのぶは今出払っているから、私に今聞きに来るのは当たり前か。
 全集中“常中”の呼吸についてはやっぱり肺を鍛えて、肺活量を増やし、呼吸を安定させる。これがほぼ全てと言っていい。肺を鍛えること自体は、波紋法と同じ方法でもまあ、別にいいとは思うんだけど……

「あるにはある」
「あるんですか!?」
「最悪死ぬけど」
「死ぬんですかっ!!?」

 絶句する彼に、私は袖の中に手を突っ込んで、あるものを取り出し炭治郎に手渡した。恐る恐る受け取った彼が興味深げに眺めるそれは、そう、呼吸法矯正マスクという、私が修行時代、一時お師匠に無理矢理、日常的に付けられていたものだ。正しい呼吸を使っていれば普通に息が吸えるけど、乱れれば途端に呼吸が出来なくなるという鬼畜仕様。
 しかも、波紋で接着する仕様で、自分では剥がせないというね。それでもって、これとっても呼吸がしにくいんだ。
 なので、呼吸をできなくなっても無理やりに死ぬ気で自力で整えて、極限の状態で伸ばすって感じの方法になる。
 けど、これを耐えきれるのならば、1ヶ月やっただけでも急速に肺が鍛えられ、常中の呼吸ならば完璧に習得できるようになるだろう。
そう、マスクの性能を端的に説明すれば、成程、と炭治郎は頷いた。

「ちなみに、呼吸が乱れ続けた場合はどうなりますか」
「特殊な装着法で私しか外せないから、私のいない所で呼吸が続かなくなったら、呼吸困難で死ぬ…………それでも使う?」

 私が問えば、じっと、そのマスクを見つめて、少し考え、直ぐに、はいっ!という返事が来た。

「それでも、俺は速く強くならなきゃいけないんです。死ぬような思いは、今まで何度もしてきました!絶対、耐えてみせます!ものにします!!」

 両膝に乗せた拳をぐっと震えるほどに握りしめ、力強い思いを込めた双眸で、貫かれる。彼の意思は本物だ。なら、応えるのが道理だろう。
 私は残りの団子を食べ、今から直ぐに仕事を再開しすれば、どういうスケジュールになるか頭の中で計算する。そして、最速で夕方の6時頃には治療を終えられて、それ以降は炭治郎に当てられることを確認する。よし、

「なら、今日の夕方、私が君に修行をつける。この面の性能を私がいる時に正しく君に叩き込む。流石に突然つけて、私の知らないところで呼吸困難で死なれたら堪らないからね。」
「え、いいんですか!?でも、治療のほうとかお忙しいんじゃ」
「たまには私も体を動かさないと身体が鈍るから、ちょうどいい機会。気分転換次いでに修行をつけるのもいいでしょ。」

 それに、どうせなら私の知ってる炭治郎より、強くしてあげたいじゃん!よぉしやったるぞぉ!
そう、やる気を出し、燃える私に炭治郎はありがとうございます!と笑顔でハキハキと言ったのだった。可愛い!


 それから、今までにない速さで私は治療を終わらせた。もちろん一切手は抜いてないし、完璧にこなしたよ!これも炭治郎との鍛錬のため!夕暮れ時になり、借りた鍛錬場に向かった。ちなみに、鍛錬場を借りる趣旨をアオイちゃんに伝えた時、壊したりしたいでくださいね?と念を押された。私一度も何か破損したことないと思うんだけどな??
着けば、既に炭治郎が一人、瞑想をして待っていた。集中しているらしく、すぐ近くによって、やっと彼は閉じていた目を開けた。

「炭治郎、お待たせ」
「雅風さん!」

 ぴょんっとたちあがった彼は、今日はよろしくお願いします!!と元気よく挨拶をしてくれた。うん、いい子だな。少し和みつつ、それじゃあ始めようか、と炭治郎に木刀を渡し、マスクの用意をする。

「今から付けるけど、呼吸をけっして乱さないように」

 つける前に一言いい、波紋を流して装着させる。ぱちぱちと音を鳴らしたそれは、ピッタリと炭治郎にくっついた。
 そして、付けた途端に、彼は息苦しさからか、ぐっと眉を顰める。その息苦しさは、酸素の薄い高い標高の山に昇っている時と似たようなもの。きっと彼ならたえられる。
くるくると準備運動がてら、手首を回しながら、私は笑って言った。

「それじゃあ修行を始めようか」

君を強くするために。



〇〇〇

 炭治郎はひたすらに息苦しさに耐えていた。木刀を構え、過去に狭霧山で行った修行の数々が走馬灯のようになって流れていくのを感じながら。
 炭治郎は全集中“常中”の呼吸をものにすべく、雅風の鍛錬を受けていた。
 けれどそれは、炭治郎の想像していたものよりも遥かに厳しいものだった。山の中でないというのに、山頂と同じくらいに酸素が薄いのでは、と思うほどの息苦しさ。
 だが、一番の問題は、呼吸が少しでも乱れれば息が出来なくなるということ。それを何とか自力で戻し、肺に酸素をいき渡らせるが、そう簡単にも行かない。なにせ、雅風との組み手をしながら呼吸を整えようとするのだから。

 雅風は一切の容赦がなかった。
 炭治郎をただ強くしたい。そう思い甘さを捨て、木刀を振り下ろす彼を赤子の手を捻るかのようにいなし、呼吸が乱れそうになれば、容赦なく蹴り技を入れ転ばされる。ハンデとして足技だけしか使えないにしても、雅風は異常に速く、鋭い蹴りを連続で叩き込んでくる。鬼と言われても仕方ない所業である。
 けれど、炭治郎の体力の限界を見極め、追い詰め、伸ばして行くこの修行法は、的確でもあり、彼は着実に常中へ近づいていた。

 雅風との鍛錬はすでに三日目になっていた。炭治郎は雅風の都合上、マスクをつけられるのは彼女の休憩時間から夕食の前まで、ということになった。その短くも苦しい時間を耐え抜き、時に呼吸困難になりかけつつも肺を鍛え続けている。その成果もあってか、段々とマスクに慣れ始めていた。

「そこっ!遅い!」
「ぐっ!!」

 雅風の鋭い蹴りが炭治郎に放たれた。炭治郎はそれをギリギリ木刀で受け止めるが、ビリビリとした衝撃が木刀を通して炭治郎の両掌に伝わる。木刀を離さぬように、握りしめる力を強くする。交えた脚を押し返し、すかさず面を打つ!が、そうも簡単に一太刀が入るわけもない。押し返されても体の軸を微動だにせず、迫り来るそれを流れるように受け流し、雅風は炭治郎の右足を払った。足が払われ、体制を崩しそうになった炭治郎は、咄嗟に姿勢を低くすることでそれを阻止するが、間髪入れずに飛んできた横蹴りに飛ばされた。

「うっ、げほっ!」

 強い衝撃を受け、床に転がりながらもすぐに立ち上がり、乱れそうになった呼吸も噎せながらもすぐに安定させる。木刀は、目は、決して雅風から逸らさずに。

「うん、いいね、」

 雅風はその姿勢ににっこりとわらい、蹴りを入れたのであろう脚の足首を回す。

「その面にもだいぶ慣れてきたみたいだし、まだ3日だけどもう少し速くいっても良さそうだね」
「えっ」

 悪魔のような囁きに、炭治郎は顔を青くする。今彼女がなんと言ったのか。
 もう少し速くする?鬼と連続で戦った時並にかなりきつかったというのに?というか、もっと速くするって何??今までのは全然全力じゃなかったってこと??疑問が頭の中をぐるぐると回る。そんな事も梅雨知らず、雅風はふわふわとした声でいった。

「大丈夫、死ななきゃ安いから」

 幼い少女のような笑みを浮かべる彼女に、炭治郎は戦慄した。そして、これも、これも強くなるためだ!俺ならできる!長男なんだからっ!!!と自分を鼓舞し、雅風が出した開始の合図と同時に木刀を振り上げたのだった。


 後日、その事を文に綴って錆兎に送った際、雅風に鍛錬を頼むなんてなんて命知らずなことをしたんだと呆れられることになるのだが……其れはまた別の話で。




とっぷ