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やあやあどうも!炭治郎に修行をつけてた撃雅風だよ!
夕方からご飯前までしか修行は付けれなかったけど炭治郎はちゃんと全集中“常中”の呼吸を会得したよ!
しかも驚きの十五日もしないうちに!カナヲちゃんにもちゃんと勝てたみたいだからよかったよかった!
え?その十五日間一体何やったんだって?それは勿論愛の鞭でビシバシと鍛えましたとも。
そういえば、足技の縛りを解いて素手も加えての修行になった時は炭治郎半泣きだったな!そんな顔も可愛いかったよ!
まあ後は、基礎の走り込みや池の中に潜っての息止めとか、私が波紋法で固めた水を“弾く波紋”の応用で水鉄砲みたいに飛ばすのをひたすらに避ける訓練とかね。
大丈夫安心して!当たっても箪笥の角に小指をぶつける程度の痛さだから。
まあ、最初一発試し打ちの時に加減できなくて道場の壁貫通して、炭治郎が凄い顔してたけど…………まあそれも瑣末な事だよね!
一応言っとくと、その間もちゃんとマスクは着けてたよ。外すとか生ぬるいことするわけない。なにより、十分間息を吐き続け十分間息を吸い続けるだとかするよりかは全然余裕余裕。
ああそうだ、カナヲちゃんに勝った炭治郎を見て危機感を抱いた伊之助と善逸くんが呼吸を会得したいーって来てくれたんだけど、善逸くんは二日で逃げて、伊之助はそもそもマスクをつけるの嫌がって、鍛錬だけつけることになった。
伊之助は自分より身長の低いお前に負けるなんてだとか何とか言ってたから、君よりも私は歳上だし階級も上だからそう簡単に勝てないの当たり前だからね?山の主とか言うけど、それで私に一太刀も浴びせられないって悔しくなぁい?てわざと煽ったらとてもやる気を出してくれた。体力も炭治郎よりあったみたいだからキツめのメニュー組んだら死ぬ!!死ぬっ!!!って時々叫んでた気がするけどきっと気のせいかな!全然!身長について言われたことなんて気にしてないものね!!
それと、私の呼吸法に興味を持ってくれて、あのぼよんぼよんしたやつ(泡牢)どうやってやるんだとかなんとか食いついてもくれて、結構修行するの楽しかった。また機会があったらどんなメニューのやつ作るか楽しみだ。
因みに、二日で逃げ出した善逸くんは暫くして後から屋敷に帰ってきたしのぶが鼓舞してくれて、やる気を出してくれたんだけど、マスクをつけた瞬間に呼吸困難になっちゃって、俺ここで死ぬの!!?しんじゃうのっ!?!って毎日叫んでて凄かったな。
仕方ないからマスクを付けないでやっても鍛錬には悲鳴が常に木霊してたね!まだ手足の痺れがあるから手加減はしてるんだけどな。
時々しのぶがアドバイスしに来てくれて炭治郎よりも早くそれぞれ大体九日で全集中“常中”の呼吸を会得したよ!流石しのぶ!教え上手なだけあるわ!!
そんな感じで大体一月くらい短い時間の中で三人の修行をしたわけです。
そして、その一ヶ月の間に蜘蛛化した人達は、後は手足の痺れを薬を使って治すのみになったので、実質わたしの“蜘蛛化した人達を治療する”という任務は終りになったわけで…………
次の任務に駆り出されるわけですね、はい。
まだ通達はきてないけどきっと翌日あたりに来るの私知ってる。一日もないけと休みがあるのは有難いことだ。
発想がブラック企業の社畜のそれとか考えたらダメだからね。
そんな休みの夜なので、自分を労わろうと私はお酒を片手に屋根に登ったわけです。なんで屋根の上なのか?月見酒をするためです!
周りの灯りがほとんどないおかげで、ここ、とっても月が綺麗なんだよ。星も綺麗に見えるし、しかも今日は満月という絶好のシュチュエーション!
朧月も好きだけど、満天の星空に浮かぶ蒼い月っていうのはやっぱりなかなか乙なものだ。
早速大きめの容量の徳利からぐい呑みに酒を注ぐ。なになに?そんなに飲んで平気なのかって?大丈夫大丈夫、私普段発泡酒は2本空けて更にはワインをコップで3杯は飲んでも頭ほわっとなるぐらいでケロッとしてるから!このぐらいジュースと同じノリよ!二日酔いになるとしてもウィスキーのロックを並々コップで2杯飲めばのなるぐらいだから、今回は問題なし!
久々に飲むお酒の味はやっぱり身体に染みました。めっちゃ美味しい。
しかも、しかも!私が大事にとっていた純米大吟醸酒(めっちゃいいお酒)!お高めのお酒なだけあって口当たりもいいし香りもいい。この1杯に幸せが詰まってるのよねーー!!
そう、幸せを噛み締めつつ、摘みの枝豆を食べつつ飲んでいれば、ふと何やら気配がした。
「月見酒ですか?」
聞き覚えのありすぎる声に顔を向ければ、美しい蝶が羽を休めるみたいに、しのぶは屋根に降り立つ所だった。瓦の上を音を立てずに歩き、にっこり微笑みながら彼女は私の横に腰を下ろした。
「しのぶ、どうした?」
「ええ、貴方が明日には出発するだろうから、少し話しておこうかと」
「そう」
ああ、やっぱりしのぶもそう思うか。
まあ、柱であり、救護を任されている私達は他の隊員より忙しいのは、避けては通れない事なんだけどさ。
けれど彼女は、その一言を言ったきり、ただ私の隣に座って、時々思い出したかのように吹く風に漆黒の髪を揺らしていた。なにか、言い難いことなのだろうか?何時もなら言うことは言うし、笑顔で毒を吐いたりとか普通にするのに。
そんなことを悶々と考えていると、突然、突拍子もなく、しのぶは呟いた。
「炭治郎くんに、私の夢を託しました」
「!」
しのぶの夢、鬼と仲良くする夢のこと。それの事だと理解するのに時間はかからなかった。
だって、それは
───────しのぶの唯一の愛する姉の願いなのだから。
胡蝶カナエ。彼女は女性として、剣士として、そして人としても立派な人間だった。
しのぶが最も敬愛し、慈しみ、彼女の願いを元に深く、深く……彼女の死後にあの気難しくも、年頃の少女らしい感情を押し殺し、常に笑顔を貼り付ける程、カナエは、しのぶにとって、大切と言う言葉で表せないほどの存在だ。
だから、しのぶがカナエの死後、蝶屋敷に居るアオイちゃんたちを含めた継子だった子達に、表面上、苦しい、辛い、恨めしい……という負の感情を見せたことは無い。
そんな感情があるだろう事は、カナエの振る舞いをしだした当初、私の瞳に映る、しのぶの濃い藤色の双眸が、静かにも、酸素を待ち続け、今にも烈火の如き激情を秘めていたのを見てしまったからだ。
彼女の怒りは正当だ。唯一無二の姉を奪われて、私は責務を果たすことが出来なかった。決断の遅かった、当初、迷っていたばかりいた愚かな私の罪。
それを断罪する権利を、しのぶは持っている。
けれど、不器用で、優しい彼女はその怒りを燃やして、言うのだ。恨んでないと。
私のことが大切だと。だから死なずにまた会いましょうね……と。
だから、そして、せめてもの償いとして、私は彼女の暗い感情を露頭させ、それを受け止める器になったのだ。
困った笑みしか浮かばせ無くなった彼女の痛みを、苦しみを、どんなに小さなものでも、大きなものでも、どんな事でも渦巻く感情を包み込んで、あの人の願いを叶えるため、私はしのぶと指切りげんまんをした。
彼女の暗い感情を、どんなものであっても口外しない。
抱え込んだ想いで壊れてしまわないように、約束を結んだのだ。
しのぶは、後ろに手を付き、藍色に浮かぶ淡く光る星々を見上げながら、吐息を零す。その星を見上げる双眸を暗く色付けながら。
「ねぇ、雅風、貴方はわかっていたんですか?禰豆子さんのような鬼が現れるって…………」
「……………………」
「最初、あの柱合会議で禰豆子さんの存在について話を聞いた時、正直、巫山戯てると思いましたよ。そんなものいないって、言葉には出しませんでしたが。それに、私の想いを、夢を知っている貴方がそんなことを言うだなんて信じられなかった。
でも、貴方の黒刀で一度に三つの致命傷を受け、不死川さんの血液を耐え抜いた彼女に、納得してしまった。そういう鬼がいるという“事実“を…………」
捲し立てるように言葉を綴り、心を落ち着かせるように大きく深呼吸をした。
「御館様公認での斬らなくてもいい、“友達”になれるかもしれない鬼。
でも、私の中に燻る嫌悪感は禰豆子さんにもやはり、向けられてしまう。いつしか、裏切られるのではと、我々を騙し人を喰らってしまうのではと……けれど、炭治郎くんと禰豆子さん二人が一緒に笑っているのを見て、手を繋いでいる姿を見て、どうしようもない想いが胸のうちに湧いてくる……」
吐き出されるそれらは、しのぶの本音であり、溢れ出して、行き場のなくなった想いなのだろう。膝を抱えて、小さく丸まった彼女は、ドロドロと溢れ出たものを私にぶつける。私はただ、何も言わず彼女のそれを受け止める。
「話して分かりましたが、彼は、私の姉のように優しい人です。きっと、私の夢を繋いでくれる。
信じたいのです………そうすれば、私は安心して、頑張れるから………………」
そういい、俯き、静かになってしまった彼女を、私は包み込むように抱き締めた。優しく背をとんとん、と叩き、自分の胸に彼女を抱く。なされるがままに、身を委ねてくれた彼女に回した腕に緩く力を入れ、頬を擦り寄せる。
「しのぶ、私ね、しのぶのこと大好きだよ」
彼女の肩がぴくりとゆれた。
「君がまた、苦しくなったり、どうしようもなくなったら、私にまたいつもみたいにぶつけてほしい
鬼に嫌悪感を抱いてしまう事は、悪いことではないの。だって、そういう、“感情”は誰の心にもあって、私達みたいな鬼狩りにとっては“当たり前になってしまったモノ”だから。
だから、押し潰す必要はないの。禰豆子ちゃんを無理に好きになれなくてもいいの。嫌いなら嫌いのままでもいいの。
確かに、それらを消してしまえば楽になって、手を差し伸べられるかもしれない。でもね、無理矢理消してしまったものは、上辺だけのものになってしまう。偽りのモノになっしまう。」
私が、時々くぎりつつ、ぽんぽんと背中を叩くリズムを崩さずに、そう話す。何も言わない彼女に、また、伽ごとを話すように口を開く。
「好きも、嫌いも、何もかもの複雑な感情をもって、叫んで、苦しんで、愛おしめるのが人だから。想いを誰かに託すことは、繋げられるのは、人だからできることなんだ」
私がそう言い切り、口を噤むと、しのぶはもぞりと、腕の中で身じろいだ。そして、長い睫毛縁取られ、伏せられていた瞳をこちらに向ける。
「………………嫌ったままでもいいんでしょうか」
「うん、いいよ、それでいいの……
ゆっくりでも、いいの。それにね、私はしのぶのこと好き、でも、仕事で無茶をして、何日も寝ないで無理をする君は嫌い。それときっと同じことだから。」
「ふふ、何ですかそれ…………でも、そうですね……」
くすくすと笑いだした彼女に、私はほっとした。腕を緩めて、解き、彼女と向き合う。すっきりした様な表情に、ああ、良かった。と私は思う。
そんな私に、しのぶはふむ、と何か考えると世間話でもするかのように話し出す。
「私は、貴方の何を考えているかわならないところが正直言って嫌いです」
「うっ」
突然の心のダメージ!
「無理をして怪我をして、だというのに周りの隊員を先に治して死にそうになるところが嫌いです」
いや、そんなこと過去に…………沢山ありすぎるな!
でもそれ周りの子達のが大怪我だったから仕方ないと言いますか……あの程度なら私は死なないだろうなと思っていたし褒めてもらってもいいのでは!?とあの時は思っていたわけで……
「鍛錬場の壁に穴を開けたりするところも嫌いですね」
「ご、ごめんなさい」
ま、前も謝ったよね!?掘り返された?!そんなに根に持たれてたの!?ちゃんと直したのに?!
そのあともじくじくとあれが嫌いですこれが嫌いですとしのぶによる精神攻撃が続いた。ひええとそれをうけ、ハートがブロークンしそうになる。
「けど、私は、そんなあなたが好ましいと思うのです」
「!」
「それときっと、同じなんですね……
禰豆子さんの、鬼の部分は嫌い、でも…………彼女がなほ達に見せる優しさは、好ましい……」
ゆっくりと目を閉じて、開いて、瞼の裏で何かを思い出したのか、切なさそうな表情を浮かべ、でも、直ぐにそれを柔らかな微笑みに変えた彼女は、ふう、と方の力を抜いた。
「貴方は、やはりどこか、他の方と違う目線で物事をみますね。姉さんの言った通り……普通、そんなこと考えませんよ?」
「…………よく、いわれる…………すっきり、した?」
「、ええ、とっても」
そして、先程の饒舌さはどうしたんですか?とくすくすと笑いつつ、彼女はそれでは、と立ち上がる。そして、背を向けたまま、月を見上げる。
「お見送りは出来ませんが、明日はお気をつけて」
そして、ちらりと見えた、月光に照らされた横顔に、私は何故だか一抹の不安を覚え、改めて言葉を繋ぐ。
「しのぶ、私はしのぶの事が、大好き。だから、夢を託したからといって、どうか、自暴自棄にはならないで。どうせなら、彼らを、夢と一緒に、ちゃんと最後まで見届けて……」
「………………ええ、勿論です」
一瞬の沈黙の後、しのぶはそういうと、ふんわりと羽ばたくように屋根から飛び降りた。私は、盆に置いていた酒を注いでいたそれに月が映り込むのを眺めながら、ああ、なんて、度し難い事のだろう。と残った酒を映り込む月ごと飲み込んだ。