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 煉獄と雅風が、上弦の参、猗窩座と戦ったことは直ぐに鎹鴉によって産屋敷と柱達に知らされていた。そして、二人が重傷を負った事も。
 煉獄は肋骨が肺に刺さり、内蔵が傷ついて後少しで破裂していた。幸い、雅風が事前に呼びかけていた隠達が早急に来てくれたおかげで大事には至らなかったが、彼女はそうもいかない。背中の全面と、首、両肩から肘までが、真皮にまで火傷は達していた。あと少し遅ければ、彼女が自分の身を“治しながら焼かれていなかったら”神経系にまで達していただろう。
 身体が焼け爛れ、喉も焼けているせいで浅い呼吸しか出来ていないその姿は、誰が見ても瀕死の重体だった。
 それを治療したのは雅風の友であり、蟲柱である胡蝶だった。最初、その雅風が搬送された際は目眩が起こる程に狼狽え、そして、直ぐに彼女に対して激しい怒りを抱いた。

────────私に死なないでと言っておきながら!なんなんですか!!その体たらくは!!!


 他所から医者を呼んでまでの治療を行い、なんとか彼女の命をつなぎ止めるも、焼けた呼吸器のせいで全集中“常中”の呼吸さえ使えない始末。
 通常、柱であれば、常軌を逸している者であれば常中の呼吸も波紋法も使い、5日でその傷を癒したろう。けれど、今回は呼吸器を焼いてしまいそうもいかない。常人と同じ方法でしか傷が癒せない、癒すことが出来ないのだ。
 なんと歯痒いことか、そう、彼女を知っているものは思ったことだろう。さっさと目を覚まして、傷を治してくれ、起き上がってくれ、と。


 けれど、雅風は三日経っても、一週間、十日を経っても目が覚めない。背中の火傷のせいでうつ伏せに寝かされる雅風の顔色は土気色で、目を離した隙にぽっくりと、気がつけば死んでしまうのではないか、と看病を手伝ったアオイにそう思われる程、微動だにせず唯々眠り続けていた。


 その為、一週間と少し、治療の為に彼女の病室は一時面会謝絶となっていた。そして、それが解かれ、我先にとばかりに見舞いに来た炭治郎達は、その病室のベッドに伏して点滴を繋がれるその姿を見て、言葉を失った。
 あの、稽古をつけて、時々呆れながらも、優しく微笑んで背中を押してくれた、彼女のあられもない姿に、炭治郎は、自分の拳を痛いほどに握る。


────強くなりたい、


 あの日、あの時、自分がどれ程無力な事だったか。不甲斐なかったか。立ち塞がる分厚い壁をただただ見上げることしか出来なかった。


──────────強くなりたい!!


 心の底から、激流の如く、溢れ出る、渇望する。そんな、炭治郎の思いを“聴いた”善逸と感じた伊之助は、ぐっと、唇を噛み締めた。そして、伊之助はぶんぶんと宙を殴りながら声を上げる。


「このぼよぼよ女が起きるまでに、もっと、もっと強くなってやる!!」


 修行だ!修行をするぞお前ら!!とやる気に充ち、興奮して鼻息を荒くする伊之助。そんな彼に鼓舞され、二人は大きく頷いた。


「ああ、勿論だ。もう、もう二度と、雅風さんがあんな方法を取らない位に強くなろう」
「お、おれだって!!」


 三人は強くなろう、そう、改たにまた決意を固める。
そして、その日から、彼らの傷を癒しながら行っていた機能回復訓練、鍛錬は激しさを増す。目覚めた彼女に、笑ってよく頑張ったね、と笑ってもらえるように。何時か、彼女と共に戦う時に、肩を並べて戦えるように。



 先の戦闘で重傷を負った煉獄は、4日、目のことを合わせれば6日で完治させ、現場に復帰していた。
 そして、今回の戦闘の細かな報告などを産屋敷や柱達に行っていた。勿論、雅風の考察と共に青い彼岸花についても。産屋敷は、煉獄の報告を聞き、“それは、なんとも……雅風らしいやり方だね、”と一言言ったきり、彼女については追求がなかった。
 それに不満げなものもいたが、黙殺され、後は彼女が起きてから話すということになった。
 その事を、報告する様に、眠る雅風に数日に一度、時間の空いた時に話をしに訪れる。
 義勇は、時折、花を持ち雅風の病室に足を運んだ。表情が余り変わらず分かりずらいが、雅風の事を酷く気にかけているのだ。鬼との戦闘で負った怪我をすぐに回復してくれるだろうと彼は思っていたのだが、それが出来ないと知り内心酷く動揺した。眠る彼女に、どう声をかけていいかわからず、義勇は顔を見て安心すると、すぐにその場を去ってしまう。そして、その時に弟弟子に稽古をつけてください!と、捕まることはよくあることである。
 それと、どこから聞きつけたのか、行くのは迷惑が掛かるだろうからと、雅風の治療に命を救われたという隊士達が、鎹鴉に花を持たせるという事があったりなど、雅風の見舞客は度々訪れていた。

 そして、錆兎はというと、その一報が入った時は西に飛ばされており、距離が遠かったため、訪問にはどうしても物理的時間がかかる。なので、見舞いに行けない間は弟弟子で、毎日のように見舞いに行っている炭治郎に、文で近状を書いてもらっていた。その文にはもっと強くなりたい、と、決意を新たにしたことなども書かれていた。
 だが、兄弟子にだから見せる弱音なのだろう、一度だけ、“禰豆子のように眠り続けてしまったら、起きなかったらどうしよう”と書かれていたことがある。
 彼は、炭治郎を慰めるように、“あいつはそんなやわな奴じゃない。何時かけろっと起きて間抜けな顔で、お前におはようといってくるさ。”と、励ました。が、彼の内心もそう穏やかなものではなかった。
 鬼に自爆特攻をしたと、鬼ごと自分を焼いたと知った時、“何を馬鹿なことをしているんだ!!俺に言ったことをお前は忘れたのか!!!”と激しい怒りを覚え、そして、過去の己が片腕を失った際に、慌てて、今にも泣きそうな顔で駆け込んできた雅風の顔が思い浮かんだ。


───────あいつもあの時こんな気持ちだったのだろうか


 胸が酷く疼くような不安に狩られる。彼女が目を覚まさなくて一ヶ月と一週間ちょっとが経った頃、ようやく、任務に区切りがつき、錆兎は雅風の元へ訪れることが出来た。速歩になりつつも彼女の病室へ一直線に向かい、その不安をどうにか晴らそうと扉を少し強めに空け放てば……………………


「えっ」


 昏睡しているとされていた、雅風がそんな間抜けな声を零しつつ、長い髪を風に揺らし、何故だか窓の縁に足を掛けているところだった。





──────────そして時は少し溯る




とっぷ