8-2
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なぜだか私が目が覚めた時、最初に見たものは真っ白なシーツだった。ぼーっとそれを見つつ、ばふん、と枕に顔を埋める。そして、すんと鼻を鳴らし、枕を嗅ぐ。うん、蝶屋敷の病室の匂いだ。
風邪の時よりひどい、じりじりと痛む喉に、うううんと声を上げ、ええっと、何があったんだっけ?と、まだモヤのかかる頭で考え、思い出す。そうだ、猗窩座との戦いで、私が泡牢を使って一緒に焼けたんだっけ?その後、煉獄が泡牢を弾いて、炭治郎と伊之助が大泣きしてて煉獄さんは生きてて、という、諸々の映像が脳内で再生されていく。それで最後には気絶しちゃったんだっけーって……
おいおいおいおい。待て待て待て待て。
私は、それを思い出した瞬間に、あ、これあかんやつだわ、と枕に押し付けていた顔を上げた。
色々やりきってうっはー終わったー!って思ってたけど……これ確実にしのぶのお説教コースじゃない?
いや、でも上弦……猗窩座相手には、実際あれ位はしないと煉獄が死んでたから私褒められて良くない?って思うけれども……
でもそんなことよく良く考えればみんな知らないのよね。戦闘でなんかもうハイになっててわかんなくなってたけど、煉獄生かすぞー!って殺る気満々で青い彼岸花作ってて、怪我なら波紋で治る治るー手足の1、2本ぐらい落としてもめっちゃ痛いけど、煉獄が死ぬより安いし原型あればくっつけたりとかどうにかなるし、火傷なんてすぐ治るからバッチコーイ!!て思ってたけど……
冷静になるととんでもない事もしかしてやらかしてない??
いや、これやばいわ。一周まわって冷静になると色々な考えって浮かぶよね!!
てか、特にこんなこと錆兎が知った日にはわたし1回殺されない?すんごい前に錆兎のこと私叱ったけど、人のこと言えなさすぎてぷぎゃーっ!!て感じ通り越して、あの人刀持って追い回したりしない??ねぇ?殺されない?というか、炭治郎達に人燃えてるとこ見させちゃった?大丈夫だよーって伝わらなかった??トラウマもしかして植え付けた????そんな、様々な思考が巡り巡って……一つの結論に達し、うん、と心の中で頷く。
………………よし、逃げるか!!!!
そう、こういう時は三十六計逃げるに如かず!!傷は幸い自分でも治せるだろうから、自宅に逃げようそうしよう。ある程度ほとぼりが冷めてから戻ろう。うん、いい考えだと一人こくこくと頷く。
幸い、個室だった病室前にも、中にも気配が何もないのを確認し、ゆっくりと起き上がる。背中と腕が剃刀で削ったような疼痛が走ったが、うぐっと唸るだけでなんとかすんだ。結ってない長い髪が邪魔くさいが、この際仕方ないので放っておこう。身体は暫く寝てたからなのか筋力が衰えてるけど何とかなるな。てか呼吸するの痛いな、早めに呼吸器治さないと。
あ、水さしあったよかった、少し飲んどこ。
近くにあった伏せられたコップに水を注ぎ、それをゆっくり少しずつ飲み込む。カラカラだった喉が潤い、先程より痛みが楽になる。よしよし。
そして、波紋の呼吸を行う。呼吸器の調子がわるくて少し乱れて微弱だけれど、それを自分の呼吸器に向けて痛みをやわらげつつ、治すように作用させる。時々激しくむせそうになるのを我慢し、ひどい風邪の時位痛いなーと思うところで終わらせ、次に自分の格好を確認する。
真っ白な長袖の病衣は着てて、その下に包帯がぐるぐるとまいてある感じですね分かります。取り敢えずは外に出て走っても平気そうですね!!よかった!!!上だけ包帯巻いてあるだけで何も着てないとかそういうのはなかった!
腕に貼ってあった点滴をゆくり外して処理をし、準備は出来た、よぉし無限の彼方へさぁ行くぞぉ!と窓をそおっと開け、足をかけた時だった。
ガラッと音を立てて、慌てたような足音が病室内に響き渡った。えっとそちらを向けば、丁度、は??と口を開け、パクパクと金魚のように口を開閉させ、指さして来る錆兎と目が合った。
………………………………時が、止まったようでした……。
だらだらと冷や汗を流し、顔面蒼白だろう私と、すん、と真顔になり、こちらを恐ろしいまでの、その、無表情で見つめてくる錆兎さん。目の瞳孔が開ききってなんか凄く黒いオーラをずももももっと出しているのがわかるなー!!やだこわーい!!目の錯覚かなーー!!?
じわじわと手のひらが汗をかいていくのを感じながら、錆兎の視線に耐えきれず、ぎぎぎぎぎ、と音が鳴るんじゃないか、って位にゆっくり顔を背けた。
その瞬間、おい、という恐ろしい程にドスの効いた声が重々しく響き、ビクリと肩を揺らす。どうしようか、と視線だけ宙を舞わせながら、いやもうこのまま逃げる?と体を窓に近づけた時、私の左側の丁度、顔の横あたりから何故だか物凄い、何かが飛んできて突き刺さる音と、それと一緒にびいいんと軋む音が聞こえた。
な、何かなーー?と思って、恐る恐る横を見ると…………わーー!綺麗な青い刀身だなー!!あれ?これ見た事あるな??錆兎の刀じゃーーん!!
て、待って?待って?刀?!あの人刀投げたの?!ま!?マ?!?!
その事実に、恐怖で戦慄していれば、態と大きく足音を立て、彼は近づいてくる。そして、真後ろに来て、私の頬に一筋の汗が垂れた瞬間、ぽん、と優しく肩に手を置いた。ひいいいいっ!!と、叫びたい気持ちを抑えつつ、泣きそうになりながら、震えながら後ろを向く。
すると、輝かしいイケメンフェイスで、ドス黒い何かを隠しきれてない笑みで錆兎が語りかけてきた。
「大人しく寝床に戻るのと、俺に足を切り落とされて戻るの、どっちがいい?」
待って??後半待って??ねえ??それ本気の声音だよね??善逸くんでなくても分かるくらいの本気の声音なんだけど??
ゆっくりと区切りながら言われたそれに、半泣きになりながら、私は、戻りますう゛!と叫ぶように声を上げた。
いそいそとベッドに戻った私は、上半身を起こしたまま、錆兎と向かい合っていた。無言で睨みつけるように見ている彼が、五臓六腑が煮えくり返る位に怒っているのは明白で、この気不味い空気をどうすればいいか、いっその事厠に行きたいと言って逃げてみるかだなんて考え始める。
鼓膜を圧迫する様な長い沈黙の中、視線を泳がせる私に、それを破るかのように彼はおい、と声をかけてきた。
「背中は……平気、なのか?」
一言そうぽつりと呟くみたいに言って、錆兎は黙る。そんな彼をじっと見つつ、次いで、服の下で、包帯で肌が見えないほどに巻かれているだろう腕に視線を落とす。うん、まあこのぐらいならうん。
「あとで、じ、ぶんでな゛おす、から゛もんだいない」
ガラガラのダミ声でなんとか言葉に出す。うん、その方が早く治るしね!と、自分の手をぐーぱーと動かしていれば、突然、黙り、俯き、錆兎が震え出した。
ええっ?!なに?!と、困惑しながら、さ、さびとさーん?と声をかければ、次の瞬間、勢い良く顔を上げた。
そして、額に青筋を張らせ、藤色の怒り染まった目は釣り上がり、ぎりぎりと音がなりそうな程に歯を食いしばってこちらを見ていられました。
げ、激おこじゃないですかーー!!!やだーー!!なんで?!なんでそんなに怒ることある!?いや、あるだろうけど!?そんなに?!と困惑し、心の中で叫び、思わずその怒気に背中を引いた私に、堰を切ったみたいに錆兎は怒鳴りつける。
「お前は……お前はどれほど周りの奴らに心配をかけたと思っているんだ!!!!この期に及んで、自分で治すから大丈夫、だと?ああ、確かにお前のその呼吸法ならそんな火傷くらい簡単に治せるだろうよ!!でもそれは、使えたらの話だろうが!!」
錆兎は、だん!!と私が軽く浮くほどに、ベッドが壊れない?と不安になるくらいに強く拳を叩きつける。びりびりと空気が痺れるほどの怒声に、頭が揺れる。度々怒ることはあったけれど、ここまで憤怒する彼は初めてで、ひええっとカタカタと肩が震えた。いやでも、でもさ!!
「で、でも、あ゛れは、ああするしか、なくて、じょうげんの、さん、あいてだったから゛、それが、いちばん、ひがいない゛し…………」
何とか弁明しようと、尻込みしながら説明する。嫌だってそのね?実際そうだったし、相手にも痛手負わせて、まあ逃げられちゃったけどあれだったし……帰ったあと確実に鬼舞辻に酷いことされるの明白なくらいにはやってやったからほんとに痛み分けだし……
「ほほう?それで自分自身を焼いてもいい理由になるとでも?」
アッ!これだめだ!!何言ってもダメなやつだ!!と、思った瞬間にがしっ!っと頭を片手で捕まれた。あ、アイアンクロー?!あーーーっ!!!やめてぇ!!頭ぐりぐりしないでぇ!!
「お前は分かるか?ある日突然、任務帰りに、“上弦の鬼と戦い、その末に鬼ごと自分を焼いた”と、友の自爆特攻の報せの入ってきた時の気持ちがッ!!」
「わ、わたしなら、へいきかなーー、……ってはしらでもある、し」
「まだ言うか!!!」
「ご、ごめんなさい」
「……何が悪いのか分かっているんだろうな??」
「え、えーーっと、」
心当たりがありすぎてどうしようかな!!
言葉を詰まらせ、目をまた泳がせさじめたわたしに、ぐぐぐっと唇を歪め、、さらに何か言いたげな錆兎は、はああああと、重たいため息を吐き、頭を掴んでいた手を解き、己の目元を覆った。
「いや、お前がそういう奴だとは、会った時から知っていたが……なぜ、こうなるまで放って置いたんだ…………」
「さ、さびと?」
それから、何やら思考する彼は、暫くすると、よし、となにやら呟くと、すたっと立ち上がり、扉に向かった。少し呼んでくる奴がいると、私に話しかけた。そして、最後に……
「もし、ここから逃げようとすれば……分かるな?」
そういって彼が鯉口を切るのを見て、私はひたすら首を縦に降った。
▼ 逃 げ ら れ な い っ ! ! !
錆兎が一体誰を連れてくるのかと震えながら、せめてこのカスカスの喉どうにかしとこーっと、と思いぱちぱち波紋の音を立てる。波紋を流した水も飲み、内側と外側から治療すれば、だいぶ楽になってきた。
「あーーーー」
うん、試しに声を出してもガラガラにならないな。よしよし。ああ、それとなんかもう出られなそうだから髪の毛どうにかしよう。チクチクしていたい。てかこれ少し焼けてない?髪の毛って波紋通らないから焼けたとこ戻せないんだよね。後で勿体無いけど切ろうかなーー。折角腰より長い位までまで育てたのになーー…………
それにしても、錆兎のあんな顔久々に見たな。めっちゃわたし泣きそうなくらい怖い感じに怒ってたけど…………
病室に入ってきた瞬間のあの顔はなぁーーーあーー、と、そんなふうにぐるぐる考えつつ髪の毛をいじいじしていたら、急速にこちらに向かってくる気配を察知した。しかも、地鳴りみたいな音がする。
なんだぁ?!と扉の方を見ていれば、戸が外れそうな勢いで開かれ、若干、破壊してない!?大丈夫?!?と思うくらいな音を立てる。そして、私の名前を呼びながら、鉄砲玉の様に炭治郎と伊之助、善逸くんが室内に飛び込んできた。わあお。