8-4


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 炭治郎達が泣き止んで、錆兎が戻ってきたあとはなぜだか分からないけれど、というかわかりたくないくらいに怒涛の展開が待っていました……

 まず、泣き疲れてほぼ死体なのかな?ってくらい動かなくなった三人を豪速球で戻ってきたなほちゃん達とアオイちゃんが締め出して(錆兎元々ドアの外にいた)、涙やらなんかいろんな液体で濡れた病着と包帯を剥ぎ取る急いで取り換えてくれた。
 その時はなんというか、ものすごく痛かった。包帯変えて、軽く体を拭かれた後に、患部のとこに薬塗るんだけど、それが、もう、染みてやばいの。傷口に塩塗るどころかザリザリした大粒の塩をすり込む勢いで痛いの。
 あまりの痛さに思わず「自分でやる!!自分でやるからぁ!!治すから!!」って叫んだら、「黙って下さい!!しのぶ様からのご指示です!少しは!反省してくださいっ!!!だ、そうです!!!」と怒鳴られ、じっくり丹念に薬を塗られた。これ絶対しのぶは痛い感じの薬選んだよね?てか調合したよね??私が起きた瞬間に塗りたくる気満々だったのがなんかわかるんですけどぉ!?
 なんとか薬を塗り終えてもらったけど、治療されたはずなのに満身創痍なのはなんでなんだろうね???


 薬のせいで痛む傷にグロッキーになっていれば、なにやら廊下側が騒がしくなっている。
 次は、次は誰?!起きた瞬間休む暇なさすぎない?!と、思っていれば聞き覚えのある大音量にあっ……とさとった。
 うわあなんか今会ったら確実に面倒くさい事にならない?任務のこと今は話したくないなー!!!と、そんな思い誰にも通じるわけがなく、汚れた衣類を女性陣が持って退散すると同時に彼等は中に入ってきますよね!知ってた!!!
 何故だか炭治郎達は居なくて、入ってきたのは錆兎と、案の定、煉獄だよ!しかも隊服を着てるので現場復帰も既にしてるんだね!元気はつらつしてるみたいでよかったね!!!
 体を起こしてる私を見た彼は、ベッド脇までずいずい近づいてきて、にっこりと笑いながら高らかに言う。


「おお!撃!目が覚めたと錆兎に聞いて飛んできたぞ!!」


 流れるように、ベッド脇の椅子を出して、座り始めた彼その言葉を聞いて思考が一瞬停止しかかった。
 ちょっとまって何してくれてるの錆兎さん!?、と、ばっと、彼の方を向けば案の定にっこりと意味深な笑みを浮かべられましたよ!分かっててやりやがったな!!ん?ということは、?……………………しのぶにも烏飛ばしやがったな?!
 しのぶは屋敷にもしいたら瞬時に駆け付けてくるだろうから、来ないってことは居ないだろうなーお説教はあとだなーと安心したら呼び戻されてるって?ええ?


「…………きょうが……めいにちか……」
「んん?安心しろ!あと少しすれば胡蝶も来るそうだからな!!」


 ちがう、そうじゃない!!それが問題なんだ!!!
 私の心情を察しているのだろう、錆兎はくくくくっと低い笑い声を漏らして、義勇は明日には来るそうだぞと言い出した。
なんで?まって?なんでそんなに早急に??報連相はや過ぎない?連絡網でもあんの??ねぇ???
 そう思いながら、頭を抱える私のことなど梅雨知らず、煉獄は急に、先程の陽気な雰囲気とは一変して、真剣な声音で私の名を呼ぶ。突然の急変に、ギクリと身構えれば、がっと、勢いよく頭を下だした。


「まず、謝らせて欲しい……上弦の参を逃がしてしまった。すまない!」


は、と息もでなかった。間髪入れずに、また、言葉は吐き出される。


「君が瀕死の重傷をおいながら、致命傷を与えたにも関わらず、最後に一太刀すら浴びせられなかった」


 また、そういって、すまない、と煉獄は重々しい声で言った。その謝罪に、私は、思わず、なんだそれ、と口に出そうになった。
 君も致命傷を負ってたのは変わらないのに何を言ってるんだとか、そういうのも念頭に入れていて、痛み分けだったんだからいいんじゃないかだとか、君が生きているからいいじゃないかとか、いろんな言いたいことが頭にぐるぐる回った。
 なんと、どうまとめて、煉獄に言葉をかければいいのか考える。あの場では、ああするしかなかっただとか、そんな事を言っても頭の硬いこの人は、きっと今回のことをずっと引き摺っていく。とりあえず、顔をなんとか上げてもらってから目を見て話さないと意味が無いような気がしてならない。
 どうすればいいか、考え、私は覚悟を決め、目の前にある、下げられている頭に、ぽすり、と間抜けな音をたててチョップを入れた。


「なっ、」


 そんな事をされるとは思っていなかったのだろう、突然のことに声を上げて驚き、思わずといったように、顔を上げた煉獄と目を合わせる。揺れる日輪に、なにやら、艱苦の色が混じっているを見つけて、ああ、この人は、本当に優しい人だな、と、改めて感心する。
 喉に波紋を巡らせ、私はハッキリとした発音で、なるべく聞き取りやすいようにと、声を発した。


「ゆるすもなにも、わたしも、君のことはいえない。のがしてしまった、結果はかわらない」
「……だが、君の覚悟を無駄にした」
「君や、たんじろうたちや、じょうきゃくがたすかった。しにんがでなかった、それがいちばん、たいせつなこと。ちゃんと、“守ることをやり遂げた”、なら、それでいい、それでよかった」
「だが、柱として、俺は役目を果たすことが出来なかった。か柱としての責務。例え死のうと、あの鬼を斬るべきだったというのに!!」

 そう、確かに柱としては、とても悔しい闘いだったに違いない。相手に致命傷を負わせることが出来た。殺すことが出来たかもしれないのに、彼は“私の命”を優先してしまった。
 柱である以上、他の隊士と違い、ある意味人柱として存在する私達は、死ぬのを覚悟して、強い鬼を相打ちになろうとも始末するべきだった。
 けれど、優しい彼は、私と鬼を天秤にかけ、私を助けてしまった。それが柱としてどれほどの失態であるのか、彼自身が一番わかっているだろう。

「私を助けたこと、後悔してる?」
「そんなことは無い!!ただ、俺は最後の一太刀を浴びせることが出来なかった自分を悔いている!!
 あの時、あの瞬間、確実に殺せる可能性があったにも関わらず、身体が動かなかったっ!!
 あの鬼に殺される数多の人を救えたかもしれないのにだ!!」

 強い後悔の念に、煉獄は、これでは柱失格だ……っと、声をこぼす。
 その姿に、私ははあ、と溜息をつく。

 「煉獄杏寿郎、君は確かに上弦の参を逃がした」
 「っ、」
 「けど、それは私も一緒。命を賭して鬼と心中をする覚悟であの泡牢の中に留まった。……まあ、わたしなら瀕死の重症を負うけど、生存の確率があったということもある」
「……」
 「でも、一番の理由はあの時、あの場所で君に死んで欲しくなかったからなんだ」
 「は、」

 言葉を失う煉獄に、私は剣だこで凸凹とした両手を握り、その生者としての温かさにほっとしつつ、ゆっくりと語りかける。

 「君はまだまだ強くなれる。まだ20歳の君には無限の伸びしろが存在し、そして、炭治郎くん達のような子を育て、より多くの人救う……そんな存在になれると思ってる」
 「撃……」
 「私はあの時、君に言われた言葉が嬉しかった。とっても、とってもね……
 君の言葉には力がある。それは、人の心を鼓舞して、沢山の人を救う優しい力……」

 噛み砕くように、ゆっくりと、言い聞かせる。彼は強い人だ。だからこそ、今回のことは応えてしまったのだろう。
 戸惑いの含んだ、いつもとは違い弱い光を持つ双眸に笑いかけ、彼の両手を私は自分の首筋に手を当てさせた。弱くも心臓からの鼓動が、手を伝って感じてくれてるだろう。
 同時に、震えるその手を自分の手を重ね、目を伏せる。

 「あの時、あの決断をしたから、私はこうして生きてる。
 あなたが救った命のひとつ。
 私が柱である以上、いずれ、あの鬼を捕らえた泡牢を割ったのが正しいことなのか、きっと迷う時があるかもしれない。
 でも、忘れないで──────私は、煉獄杏寿郎……貴方が生きていてくれることが嬉しい。柱を失わずにすんだということではなく、誰にとっても親しい友人であるように、陽の光のように燃ゆる柱……誰にだって優しく、真摯であり続ける貴方が生きているということに、それを見れていることに感謝してる」
 「撃……君は……」
 「だから、雅風でいいと、そういってる。君もぞんがい、すなおな心を持ちすぎてばかなところがあるけど、でも、私ほどおろかかな人ではないでしょ」
 「突然莫迦とは、酷い言われようだな……撃……いや、雅風……か」

 下唇を1度かみながら、弱々しい声で、彼はぽとりと、雫が落ちるかのように呟く。手を離せば、彼の手は、これの膝元に戻り、ギリギリと音が出るほど、手を握りしめ、緩む。下を向き、そして、こちらに視線を戻した煉獄は、迷子の子供みたいな顔をして、泣きそうな顔で、私に問うた。


「───────俺は……ちゃんと出来たのだろうか……」
「それは、君の心が1番わかっていること。でも、私にあえて言わせてもらえるのだとしたら……貴方はとても立派だったということだけだよ」


 一瞬の沈黙、その後に、は、と、煉獄さんは息を吐き出した。そして、そうか、と言葉を零した彼の表情は、どことなく、スッキリとしていて、どうにか納得してくれたらしい。その事に私もほっとし、緊張がほぐれ、一時的に強くしていた喉への波紋を身体全体にむける。
 そういえば、と、横目で、先程から静かな錆兎の様子を見れば、少しというか、大分何か言いたげな顔をしてこちらを見ていた。が、流石に空気を読んだのか、口を一文字に結んでいる。なんかごめん。


 そして、少し落ち着くと、ふと、思い出したかのように煉獄さんは話し出した。


「それはそうと、あの戦闘の事についてのことは、“全て”御館様にお伝えした。撃……雅風が目が覚めてから、また詳細を聞くと仰っていたぞ」
「……そう、つたえてくれてありがと……てまをかけたね、」


 ちゃんと事後処理についてはしてくれているらしい。
 その事に安堵しつつ、このあと会議に引っ張られる事を考えると、頭が痛くなりそうだ。どうせ今回の私の考えについては御館様に筒抜けだろうしなー。
 はあ、と溜息を思わずつきながら、ううん、とうなれば、何を勘違いしたのか、傷が痛むのか?と煉獄が心配そうに聞いてくる。いや、別にそういうわけでは……と思いつつも、、煉獄さんに傷といわれ、あの時、目玉を再生させた時の、シーンがぱっと頭に思い浮かび、はっ!とした。
 今更思い出したけど!煉獄!!目玉!!そういえば一度治したきりで見てなかった!!
 ぐるんと視線を煉獄に向け、んっ!?と肩を跳ねさせた彼の頭を両手でガシッと掴み、治療した目を覗き込む。んなっ!?とかなんか錆兎がキョドったような声したけど気にしない。
見たところ、ちゃんと視点はあってる……ね、うん。
 眼球に傷はないし濁りもない。よしよしよし。


「雅風、何を、してるんだ?」
「しんさつ、しりょく、どうなの」
「よ、よもや、あの時の眼の傷のことか!?胡蝶にも見てもらって前と変わらない程に回復はしているぞ」
「……ならいい」


 おおお、やっぱりしのぶ流石すぎる。それなら、今後の戦闘の時も問題ないねうん。一人頷き、ぱっと手を離し、いそいそと元の場所に戻れば、とてもなんか微妙な目線を向けられた。なんでだ。眼の様子見ただけじゃないか。なんでだ。


「雅風、あまり、そういう、急に顔を近づけるとか、そういうことはよくないと思うぞ」


 もごもごと、何か言いにくそうに錆兎は神妙な顔で私に言う。ええ……ああ、確かに急にやられたら驚くわな。うん、それは私が悪かったわ。


「わかった、次からは言う」
「ちがう、そうじゃない」


 きりっとキメ顔で言ってみれば否定されましたなんでだ。困惑する私に、煉獄が、無闇に顔をちかづけるなと言いたいのでは?と助け舟を出してくれた。成程、却下ですね。


「かおを近づけないと眼のしんさつはできない」


 今まで他の患者さんにも散々やってきたのだよ?
 今更何を言っているんだね君は。そんな私の考えが伝わったのか、彼等はいやまあ確かにそうだけどみたいな顔をしだした。なんだこいつら。


「一応、嫁入り前なのだから、少し慎んだらどうなんだ」
「よめにいく、よていない」
「?、そうなのか?甘露寺を見ていると、年頃の娘はそういうものに憧れるものだと思っていたのだが」
「するきない、あこがれてない」


 なんでそんな話になるの??ていうか、私実際この体の年齢二十二で、錆兎よりも一歳年上なうえに、精神年齢いれるとだいぶあれだからね??煉獄さんより上だよ??今の時代だと行き遅れの枠組みにはいるしこんな危ない職場で結婚とか普通ないからね?
それに、そもそもの話……


「こんな傷だらけのおんなもらう物好きなんていないでしょ」


 身体の傷凄いし、今回の火傷治すの遅れたから確実にケロイドになる部分ができるし、コレ見たら普通の男なら萎えるしはわわっ!って口元を覆うからな???舐めるなよ??
 私は今物凄く不機嫌な顔をしていることだろう。そんな私に、なにやらふむ、と思案する煉獄に、とてつもなく嫌な予感がするのは何故だろうか。


「ならば、この場合は俺が君を娶るのが筋というものか、」
「なぜそうなる!?」
「その背中の火傷は、俺の力不足のせいで出来たようなものだからな。傷物だと諦めているのなら、俺が責任を持つのが道理だろう」
「はやまるな、おちつけ、冷静になれ、まちがっている」
「女に傷をつければ娶ることになにか間違いがあるのか?」


 なんだろう、今更すごいジェネレーションギャップを受けている気がするっ!時代が時代なせいか、そういう考えがやっぱりあるんですね!!そうだよね、許嫁だとか見合い婚だとかそういうのが多い時代だものね!!そういう、私にとってはとても古い考えが主流なの忘れてましたよええ!!


「わたしは、それを、のぞんでいないし、それで、娶られてもこまる」
「そうだぞ、煉獄。こいつはじゃじゃ馬だから苦労する。辞めておけ」


 ナイスだよ錆兎!!でも少しちょっとむっとしちゃいそうな物言いはどうかと思うけど我慢するね!彼の援護射撃と共に畳み掛けるように、煉獄を説得する。


「さびとの、いうとうり、きみは、見目がいいし長男なんだから、いい所のおじょうさんを、娶ったほうがいい」
「もしもの時は俺が面倒をみればいい」
「いや、それはちょっとだいぶちがう。さびともかわいいこを捕まえな、まこもちゃんとか」


 ちょっとここで冗談挟むのは要らなかったかな!!!首を横にブンブン振って、いや、ないないないないと手をふる。錆兎はあれだ。めっちゃ好青年の美青年だ。男前だし口元の傷が本人たまーーに少し気にしてるけど、チャームポイントになってて女子の隊士の話題に度々上がってるって私知ってるからな!!
 若いんだしちゃんと可愛い同年代のことキャッキャウフフのラブラブデートでもなんでもしてこいや!!


「とにかく、するきはない」


 私がそう最後に締めくくれば、男二人は何故だか、すごい微妙な表情をしていた。何その納得いきませんって顔。ほっぺた抓ってやろうか???
 はああああと、思わず深いため息をはきつつ、布団のかかった膝を抱える。


「そもそも、そんなことで、責任を取ってのけっこんとか、嬉しくない、……………………もし、するなら恋愛婚のがいぃ……」


 過去に、“この時代”に来る前に、見合い婚をした親戚がいた。でも、結局すぐに破綻して、離婚して、数年を無駄にしただとかなんだとか言ってるのを見たことがあった。望まない結婚ほど、愛のない結婚程、虚しいものはないと耳がタコになるくらいによく言われたものだ。
 そういうことを知ってるから、やれ怪我の責任だの、行き遅れたからだの言われてそういう“事”を軽はずみに言ってしまうのははっきりいってどうかと思う。


 ぼそぼそと私が零すように言ったそれが意外だったのかなんなのか、なぜだかにこにこと、そうかそうか!と煉獄はわらう。


「ならば仕方ないな!まあ、俺も暫くは婚約もなにもする気もないのでな、もし気が変わればいえばいい」
「………………おまえも、その、意外と女らしいことを考えるんだな」


 うんうんそれがいいな!と頷く、全く話の聞いてなさそうな煉獄さんと、それとは対照的に、そうか、と顎に手を当てつつ、思案顔で首を傾ける錆兎。なんだか、すごく、変な勘違いをされてる気がするのは私だけでしょうか。
 そして、この微妙な空気は、しのぶが病室のドアをノックするまで続いたのだった。




とっぷ