9-3.5
炭治郎と甘味を食べたその日、しのぶに会議でのことを少し絞られた私は、やっぱりあれダメだっかーと、また少ししょげつつも禰豆子ちゃんのことを探していた。
今は真夜中、月光だけが屋敷を照らし、少し冷たい夜風が、私のだいぶ短くなってしまった髪をあそばせた。炭治郎達が使っている部屋の前まで来て、空けられている襖をみてから、手に持っている包みを確認するように触り、よし、いくぞ!と、足を踏み出した。
室内を覗けば、中には誰もおらず、禰豆子ちゃんが入っているだろう箱がちょこりと隅に置かれていた。その前には布団が敷かれているが、そこには誰も寝ていないようだ。禰豆子ちゃん以外の3人はどこかに行ってしまっているらしい。箱からは彼女の気配がするので、寝ているのだろうか?
禰豆子ちゃんといえば、あの初めてハグをされた日以降、何故だか味をしめたのか、夜中に唐突にであって捕まることが多くなり、抱き枕よろしくされた時には炭治郎に謝り倒されたんだよな……そのおかげで今では自然と触れ合えるようにまでなったわけなのだけれども。
閑話休題。
お邪魔しますと断りを入れてから部屋の中に足を踏み入れれば、気配を感じたのか、きぃと小さい音を立てて、禰豆子ちゃんがひょっこりと顔を出した。どうやら起きていたらしい。
「うう?」
「私だよ、禰豆子ちゃん」
あれ?と首を傾げた彼女は、どうやら髪型が変わってしまった為に、匂いや気配で判別はしているが、少し戸惑っているようだった。おずおずと出てきた彼女は、うぅー?と喉を揺らしながら、私に大きな桜色の双眸を向ける。
そして、ぺたり、と、私の目の前まで来て座ると、本来の彼女の大きさに戻り、両手で確かめるように、私の顔に、髪に触れていく。髪の束に触れる彼女は、少し寂しそうな顔をしていた。
「む、むう、う?」
「変わって吃驚した?」
「むーー、」
「君のお兄さんに切ってもらったの。とっても上手でびっくりした」
「うう、」
「似合ってない?」
「うーうう!」
私がそう問えば、そんな事ないよ、と言うふうに頭を振る。ならよかった、結構頭が軽くなって気に入ってるんだ。と笑っていえば、ほっとしたような、柔らかい笑みを彼女は浮かべた。かわいい。
「禰豆子ちゃんに、贈り物」
「う?」
「似合うと思って、つい買っちゃった」
手に持っていた包みを解き、其れを渡す。
撫子色のシンプルだけれど、可愛らしい、リボンの髪飾りだ。
露店を炭治郎と回っている時にたまたま見つけたそれは一目で、あ、これは絶対似合うやつだ!と、思わず衝動買いをしてしまったモノである。炭治郎にはお団子を奢ったのに、その場にいた禰豆子ちゃんには何も上げられてないのがモヤモヤしてしまった、というのもあるけれど、年頃の女の子なのだし、やっぱり着飾って欲しいと思っての暴挙でした。
だって!!絶対!!似合うんだもん!!!かわいいは正義なんだよ!!
「うーー!!」
それを手に取った禰豆子ちゃんは、目をきらきらさせて喜んでくれた。鼻歌を歌うように、上機嫌に髪飾りを眺める姿にほっこりしつつ、ちらりと禰豆子ちゃんの髪を見る。
見るだけでもサラツヤだとわかるそれに、すこし、こう、うずうずとした気持ちが沸き上がる。
「ねぇ、髪、結いてもいい?」
「うう!」
つい出てしまった言葉にOKを貰ったので思う存分髪をいじることにしました。
包みの中から新しく、紙紐やつげ櫛をだし、禰豆子ちゃんの後ろに移動する。
手に椿油を数滴垂らし、指通りのいい髪に馴染ませ、櫛でとかしていく。あーー、本当にとっても綺麗な髪だなぁ。枝毛なんてないし、指通り毛先までスルスルしてる羨ましい。
使いにくい紙紐をつかい、何とかサイドに編み込みや、くるりんぱ、三つ編みなどをしていく。すこしふわっとさせつつ、結び終え、禰豆子ちゃんに渡した髪飾りを差し込む。
「これで、お花があればいいんだけど」
「う?あー、」
「?使っていいの?」
「むーー、むうむー、」
「ありがと」
お花と聞いた禰豆子ちゃんが指さしたのは、箱の後ろに置かれていた摘まれてそう時間が経っていないだろう花達だった。色も、白や黄色など、リボンと髪が映える色彩だ。きっと、善逸君が摘んできたのだろうな。ごめんよ……君を悩殺するぐらい可愛くするから許しておくれ。心の中で彼に対して謝りつつ、禰豆子ちゃんが使っていいと言った花たちを、私は、髪の毛に差し込んでいく。
そして、それはとうとう出来た。編み込まれた髪に挿されたリボンの髪飾りと、濡れ羽根色を流れる小さな花達がアクセントになり、彼女の可愛さを引き立てる。そう、俗に言う、兼髪長姫の髪型だ。ずっとこれを私はやりたくてうずうずしていた。だって似合うと思ったらやらせてみたくなるじゃぁないですか!
渾身の出来に思わず頷きながら、部屋にある鏡と、私の手鏡を合わせて彼女に髪型を見せる。
「!むむっ、むーーー!!」
「うん、とってもかわいい、似合ってる」
興奮したように手をぶんぶんと振る禰豆子ちゃんについつい可愛いを連呼する。いや、だってほんとに可愛いんだもん。可愛いがゲシュタルト崩壊するくらい可愛いんだもん。
そして、彼女は感極まったのか、
「むう!」
「わっ、」
私の頭を抱き抱えるようにして、ぎゅうっと抱きついて、少し尖った爪で私の髪を梳かすように、頭を撫で始める。
何度か今までもこう、抱き締められたり、(お願いされて)抱き締めたりしていたけれど、やっぱりこのされるっていうのは未だにその、気恥しい。
「禰豆子ちゃんはなしてー」
「う」
「む?」
ペちペちと肩をホールドしてくる腕を叩けば、はっ!というように、禰豆子ちゃんは何やらさっき髪に挿すのには余った花を見た。
「うーう」
「え?いや、わたしはいいよ」
「むー………………」
「あ、うん、わかった、そんな顔しないで……好きにやっていいよ」
「!!」
どうやら私の髪を弄りたいらしい。こんな髪が短くなったのだから、あまり楽しくないと思うんたけどなぁ。彼女のしょんぼり顔に白旗をあげた私は、大人しくそのまま頭を差し出したのだった。
〇〇〇
炭治郎は、何やら怨めしいと叫び、木刀を振り回す善逸から逃げ切り、置いてきてしまった禰豆子の元へ帰るべく、割り当てられた部屋の前まで来ていた。来ていたのだが……
「ふふ、くすぐったい」
「う?あー、」
「うん、そこ、禰豆子ちゃんは髪を梳かすの上手だね」
「うぅー」
何やらほわほわとした雰囲気で、その室内でなにやら手の込んだ可愛い髪型をした禰豆子と、その禰豆子に髪を梳かされている雅風をみつけ、そっと襖の陰に隠れた。
可愛い妹が上機嫌に、にこにこと笑顔をうかべている様子に、邪魔をしては行けない。今入っていけば、この空気は壊れてしまうのでは?と思った彼は、陰からそっと見守ることにしたのだ。
炭治郎の鼻についたのは、優しさの詰まったような果実のように甘い香りだった。それは、中にいる二人を中心に漂っている。
年頃の少女である禰豆子の楽しげに話す姿に胸の内が暖かくなる。
鬼になってしまってから、こういった女の子同士で楽しげに過ごす機会はなかなかに訪れることがなかった。事情を知って、受け入れて貰えても、やはり、壁というものを感じる時もある。その度に、人間に早く戻してやりたいと、友達を作って、遊べるようにしてやりたいと彼は、思っていた。が、目の前の光景を見て、そして、いつの日か過去の禰豆子の言った言葉を思い出して、それは杞憂であるのだろうな、と炭治郎は理解する。
彼は、慈しむ様な微笑みをうかべ、音を立てないように、そっとその場に胡座をかく。禰豆子と雅風の楽しげな声を聞きながら、まんまるのお月様を眩しそうに見上げるのだった。