10-2
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初めて獪岳が雅風に出会ったのは他の隊士との3人での合同任務の事。
通常の隊士と比べ、怪我の少なさや初期からの鬼の討伐数が平均より多かった事で、彼は自分が他より優れているという自信があった。
けれど、彼は口や態度が悪く、悪たれ口をよくつくしその自尊心の高さから他人を見下しがちで同じ隊の人間からは陰口を吐かれるのはよくある事だ。
だからだろう、一人を囮にし鬼を誘き寄せるという方法を取られたのは。
元々、獪岳が連隊を進んでとるつもりがなかったということもあるが、それにしても酷いものだ。
結果、彼は戦闘の最中、鬼による攻撃で手傷を負う結果となり、更には、自分を囮にした隊士を殺した鬼に追われる事になる。
─────そんな時だ
「大丈夫?」
雅風が彼の目の前に現れたのは───────
雅風は獪岳の目の前で瞬く間にその鬼を滅殺すると、傷、すぐ治すから……、遅れてごめんね、他の子は?と聞いてくる。目の前で起きた戦闘を、鬼を殺した光を見て放心し座り込んでいた獪岳は、その声にはっとし、じっと、自分よりも小さい彼女を見つめた。
傷口に当てられた手から漏れる、治療の為の波紋による暖かな光は陽射しに包まれているようで、痛みはすぐに引いていった。
────────何だ、これは?と、その初めて体験する感覚に困惑しながら口を開こうとした時……月明かりに照らされる柱の階級を表す釦が見え、口を噤んだ。
こんな子供が、自分よりも上なのか?と、彼女の年齢を勘違いしながら、自分より小さな女に守られるのは例え柱であっても、彼にとっては屈辱的な事だ。
悔しさに唇を噛みながら、死んだ、と一言いえば、表情を変えず、そう、わかったと、平坦な声でいい、彼の治療が終わると、隠が到着すると共に雅風は次の任務のためにその場を後にした。
兎のように跳ねて、駆けて、消えていく背をただ見ることしか出来ず、亡骸の回収のために場所を聞かれたりなどし、その後、獪岳は藤の家で、撃雅風という風変わりな柱について知る事になる。
ある隠れが言うには珍妙な彼女にしか使えない呼吸を使用する柱であるだとか、年齢は二十歳だが、入隊してから外見が一切変わっておらず、不老なのではないか。
何時も戦闘より治療班に属し、瀕死の重傷をも治し、彼女ならいつか死んでしまったものも生き返らせれるのではないか、など他の隊士に聞いてもその様な“噂”がたっていた。
特に、上級の彼女に助けてもらった者達が話していたものに段々と尾鰭背鰭がつき、話が壮大になっている所もある。
きっとこの噂を聞いたら雅風はなんだそれ!?と心の中で絶叫し、生き返らすとかできない、不老じゃなくて呼吸の影響だから……と訂正を入れるだろうが……閑話休題。
まあ、その様にして獪岳は彼女の情報を手に入れ、更には、月に一度彼女が直々に稽古をつける日があるという事を知り、滅多にない継子でもないのに、現柱から直々に受ることが出来るそれに、これも早く強くなる為だと、プライドを嫌々捻じ曲げて参加することにしたのだ。
そして、稽古を受けに来たのだが……それは獪岳の予想に反し、想定以上に厳しいものだった。
悲鳴や絶叫が耐えず、短期間で鍛える為だとしてもいつか死人が出るだろ確実に、と鬼ごっこで鉞担いだ金太郎よろしく大型の熊に乗り、背後から追ってくる彼女を見た時は「クソガァァッ!!!!!」と全力で獪岳は絶叫し、最後には使っていいと言われた刀を抜いたが、拳銃の弾丸と変わらない水鉄砲が刀を振るおうとした瞬間に飛んできて、避ける事で精一杯。
「がんばれ、いけるいける」と熊に乗った雅風に応援されるが多くの体験者たちと同じで「何が!?」と思わず叫んだのは仕方ない事だろう。
勿論初日はその後捕まり、熊によって最初の地点に戻されるという事になった。(ちなみにこの熊はクマ子という名前でヘルシーな林檎がが好きらしい)
さらに言うと、この時他の子よりも脚が早い彼に嬉しくなり、ついいつもの倍の強さで水鉄砲を撃っていたのは雅風に連絡の為についてる隠しか知らない事である。
そんな鍛錬を受け、最後の関門まで行けなかった獪岳は奥歯を噛みながら絶対にものにして、早く、強くなってやる。と、プライドを数度折られながら闘争心に火をつけられ、女だからと見ることをやめ、認識を正して彼女の鍛錬を毎月受けに来たのだ。
いつもお試しだが二、三回である程度の隊士はやはり、怖い!きつい!と、辞めることが多かったが、その中で、獪岳は毎月必ず通い、それが八回になった時には雅風は感心し、彼への認識を少し改めた。
口は悪いが、ひたすらに努力し頑張る子を無下にする事なんて出来ない。
「よく、頑張ってる、いい子ね、獪岳」
だから、雅風は、幼子にするように、獪岳の頭を撫でながらそう言ったのだ。
鍛錬でぼろぼろになり、身体を汗や土で汚し、ぜえはぁと肩を揺らして呼吸をしていいた彼は、そのはじめて出会ってから触れることが二度目になる小さな手のひらにぴしりと固まる。
「口、悪いのはだめ、だけど、でも、頑張ってる」
いつも受けに来てくれてありがとう。そう、慈愛のこもった笑みを浮かべ、頭に触れる温もりに、獪岳はぽかりと口を空け、そして……
「ありがとう、ございます」
そう、ぼそりと、小さく呟いた。
現柱に……特別な柱に褒められたことに、空になりかけた自尊心が少しだが充たされたように感じた。一人一人に言葉を送るところは見た事はあるが、こんな風に、撫でられ、褒められる隊士は獪岳の知る所では、誰もいない。
自分だけが彼女に認められたような気がした。
それからだ。自分だけを特別な教え子として見て欲しい。自分の育手のように、出来損ないの弟弟子とも呼びたくない、善逸と平等に扱わず、己の自尊心を満たして欲しい……そんな欲求に目覚めてしまったのは。
煩わしい他の教え子である隊士がウザったくて仕方がないし、たまに一緒になり鍛錬をつける元水柱が隣に立つのが嫌だった。
だから……獪岳は何度も彼女に自分を継子にしろと会う度にいっていのだ。
けれど、彼女は“やる事があるからダメ”と頑なに首を縦に振らず、幾度とな断り、そして段々と善逸が鬼殺隊に入ろうとする時が近づいていく程に、突っかかる回数が多くなっていく。
雅風はほんのりと、なんとなく事情を察し、“青い彼岸花”などの開発の為……この件に首を突っ込まないよう、死人を増やさない様に、継子は作らないとそう決めていた。それが余計に獪岳を焦らせ、苛立たせた。
そして今回、雅風が上弦の鬼との戦闘で大怪我を負ったと知り……その時善逸がその場にいて、戦闘に関わったと知った時には腸が煮えくり返る思いで、弟弟子からの手紙と共に、鍛錬が中止になるという知らせの手紙を破り捨てた。
なんでまたお前なんだと、なんでそこにお前がいるんだと……先生のことを取ったお前が次はあの人を取るのかと……
強い焦燥感に身体が支配されそうだった。だから、目が覚めたと知った時は殴り書くように筆で一言継子にしろと綴り、鴉を飛ばしたのだ。
そして今──────
「獪岳?」
最後に見た姿とうって変わり、病人着を着て、長く綺麗だった髪が短して、首元から包帯を覗かせる彼女には言葉を失ったし、その横にでれでれとした笑みを浮かべる弟弟子には嫉妬という殺意が向いた。
俺はダメなくせにそいつはいいのかと、そいつは継子にするつもりなのかと。
獪岳は手をギリリと音が出るほどに握り締めると、近づいてきた、一瞬後ろに手を引かれ動きをとめた彼女が善逸の方に振り返る瞬間、それを止めるように声をかけた。