10-4
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「獪岳、落ち着いて、彼は継子じゃない、そもそも、わたし、は、継子は、とらない……君が一番知ってる、でしょ」
そう私が言えば、どうだかな、という風に厳しい目を向けてくる。
なんというか、とてつもなく私がつけてる稽古で、ほかの子褒めた時に向けられる視線と同じように感じるな!!!
「それに、今、一緒にいる、のは、私の身体が本調子、でないので、機能回復のための鬼ごっこに、付き合ってもらおうとしただけ」
「……そもそも、なんでそんな怪我してるんですか。上弦相手でもあんたは十分一人で倒せるはずだろ」
君のその私に対する信頼は何なのかな?
確かに私のは鬼殺しに特化してるけど一人で充分倒せるなんて程万能な存在ではない。
「獪岳、君は私を買い被りすぎ」
「一人で下弦の鬼四体倒した人が言う言葉とは思えないな」
「下弦と上弦とは、大きな壁がある」
「えっちょっと待って!?下弦の鬼四体って?!」
動揺から冷めたらしい善逸くんは、聞き捨てなら無いとばかりに詰め寄ってくるが落ち着いてくれ。
そしてそれ間違ってるから!
下弦の鬼倒したと言っても一体は錆兎と一緒だった時だし!
もう一体はまあ確かに自分で倒したけれど下弦の肆で血鬼術は確かに強力だったが、主に水上戦だったこともあり私の独壇場に上手いこと水を伝う波紋で滅殺することが出来ただけ。
あと二体についてはなりたてみたいでそこまで苦戦しなかっただけだし……
どこで尾鰭と背鰭が着いた?
思わず頭を抱えそうになりながら、ほんとに一度落ち着いて……と、肩を落としながら声を出す。
「それは、少し違う所、あるから……獪岳……だから話、ちゃんと聞いて」
いや、ていうか待てよ……こんなに玄関で騒いでたらしのぶに鍛錬しようとすることバレないか……?
「とりあえず、場所、変えよう……、着いて、来て…二人とも…」
怒られて傷薬塗りたくられるのは勘弁!!!
いまだに睨む獪岳に、怯える善逸くんに、ああ、なんかこれ確実に大変なことになるだろうなぁと思いながら、こっそりと山の方へ抜け出すのだった。
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いつも鬼ごっこの鍛錬で使っている山の中腹まで来れば、やはり、体力が落ちている為に体を動かす時動作に違和感を感じた。
早々に体の感覚を取り戻さないとな……
まあ、でもその前に……
「いったぁ!!?ちょっと!?いきなり場所移動した瞬間殴ることなくない!?」
「チッ……うるせぇな……いいから黙ってお前は一人で山降りてればいいんだよ。」
「そ、そんなに言わなくてもいいだろ!?兄貴こそなんでいきなりいつもより不機嫌っぁぁぁあ!!」
「うるせえって言ってんだろカス!それにんな風に呼ぶなつってんだろ!!」
この兄弟をどうにかせねば……
鳩尾に的確に突きを入れた獪岳に、それのダメージで叫びながら蹲る善逸くん……ほんとなんで今日はこんな攻撃的なんだい君は!いや!何となく理由察してるけど!
「獪岳、やめなさい」
「……」
「善逸くんは……少し、ちょっと、ごめんね、」
手に波紋を込めて触れればすぐに痛みは穏和される。
うううと、目に涙を溜めながらなんなの?ほんと急になんなの??と、ずびずびと鼻を鳴らしながら言うものなので、ついいつもの様に泣き止ませるのに頭を撫でて落ち着かせようとしたら、後ろからもの凄い殺気を感じたのですっとて手を引いた。
「はぁ……取り敢えず、場所を変えた、から、話し……しようか」
私が、それで、獪岳は手紙の件でここに来たんだよね?と、訊けば彼は、そうですよと強い口調で言い、眉間に皺をぐっと寄せながら足音を大きく立てて近づいてくる。
おおおう……
「何でまだ継子にしてくれないんですか……他の柱とは別で、貴方は、貴方だけはずっと頑なに取ろうとしない」
「ある任務があって、それを遂行する為には継子を育てている暇がない」
「その任務はいつ終わるんですか」
「まだ未確定……何時までかかるかも分からない。だから、他の雷の呼吸の派生である、音を使う音柱の彼に、君は継子の申請を出した方がいい……そう、私は君に何度か言ったはず」
私より確実に獪岳の場合は鳴柱を目指すのならば宇髄の元で鍛錬を積むのが一番なのだ。
それに、彼は強い自尊心を満たすという理由でも継子になりたいのだろう。だから余計にダメなのだ。いくら自尊心を満たそうと今のままでは、きっと彼はずっと乾いたままでしかいれない。
周りが見えていないというのもあるが……出生について聞いた時に思ったことだが、恐らく、彼は心が大人にも青年にもなれなかった少年……ある意味子供のままなのだ。
焦りを取り払い、周りをちゃんと見れるようになれれば、今よりももっと一人でも強く、継子にならずとも柱になる実力はあると思うのだが……
「納得いきません」
今回はほんとに、引き下がってくれる気がないらしい。
「今日は、やたらと噛み付いてくるね……そんなに、君の弟弟子……と、いたのが嫌だった?」
「ーーーっ!」
ぎりっと歯を鳴らす獪岳は一度私を見た後に、顔を伏せ、ふるふると肩を震わせる。
あーうん、これはほんとにコンプレックスがなんかすごいことになってるなぁ。
善逸くんの方をちらりと見れば、肩を揺らしながら、でも、獪岳の“音”が酷いのか、怖がる仕草と裏腹に、心配そうに彼を見ていた。
……仕方ないか。
きっとバレたりしたらしのぶにはかなり、たくさん怒られてしまうだろうが……可愛い後輩たちのためだし、一肌でも二肌でも脱いでやろうじゃないか!
だいぶ荒治療になるが、まあいいだろう!
嫌われてしまう可能性もあるが、一か八かだ。
そうと決まれば─────
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雅風は、獪岳の様子を見て、善逸に目を移すと、直ぐにすっと目を細め前を見つつ、息を吐き、構えをとった。
それは戦闘時の“鬼を滅殺”する時の動作と酷似していて、さらに言えば、体から波紋がばちばちと激しく巡る音が善逸の耳に刺さる。
音を聞いたその時、善逸はひゅっと呼吸が止まりそうだった。
今までに聞いたことがない程の強い、雷が断続的に目の前に落ちているような、そんな感覚に襲われる程の猛烈な音だったからだ。
目の前で、その“気”を浴びる獪岳は身体をビクリと跳ねさせたあと、ごくり、と喉を動かす。
肌に刃を添えられたみたいに感じる殺気に煽られ、心音を大きくし、獪岳は手のひらに汗をかきながら、無意識に刀を握った。
「獪岳、継子になりたくば手負いの私に一本いれてご覧なさい」
「!!」
なんと言われたのか、飲み込むのに数秒かかったけれど、理解した瞬間、彼は目を見開いて驚きながら、それって、と、口をパクパクと動かす。
そんな中、善逸はかっと目を見開きながら、雅風の服の袖をがしりとつかみ、ブンブン頭を振り、すがりつく。
「雅風さん!!なんで、まだ激しい運動はダメって!それに丸腰じゃないですか!!それにこれ隊律違反になるんじゃ」
「善逸くん、君には開始の合図を、お願いします……継子になるための試験、と、すれば、問題ない」
「雅風さんッ!!」
傷がまた悪化したらどうするのさ!だめだよ!よしてよ!と目に涙を浮かべ訴えかける善逸に、雅風は今回だけだから、と聞く耳を持たず、彼を巻き込まないように、縋り付いてくる手のひらを簡単に解き、距離をとる。
「私はいつでもいいから……安心して、すぐに終わる……それと……最初に言っておく。私は今回君を殺すつもりでいく。」
「?!……それは、一体どういう意味ですか」
「その言葉の通り……殺すつもりで拳を振る。今までの鍛錬とはまた別と考えて……私の継子になるということはそういう事」
それくらい乗り越えなければ直ぐに死んでしまうだろうから。
「だから……あなたも、私を殺すつもりで、刀を振りなさい。でなければ、私があなたを殺しても、文句は言わせない。」
その覚悟がないなら今直ぐに継子になりたいなどということはやめなさい。そう、言外に語っているようだった。
雅風の今までにない修羅様なその雰囲気に圧倒されながら、獪岳は上等だ、と刀を構え、ぎろりと善逸をさっさと合図を出せとばかりに睨みつける。
「善逸くん、」
大丈夫だから、と、また雅風が呼びかけたことにより、唇を噛みながら、目に涙を貯め、震える善逸は、音で、これは本当にやるまで終わらないんだ、と理解するときゅっと目を瞑り、「わかりました!」と叫びながらすっと手を上げ─────
「始め!!!!」
そう合図をし、腕を振り落としたと同時に……
「ぐぁあっ!!!!」
善逸は自分の兄弟子が空高く舞う姿を見たのだった。