11-1
私以外に訪れる私のための
無数の黒い倒れている人影が、赤色に染って、蒼白い肌を晒す。生気のない双眸が幾つも私を見つめてくる。ねぇ、なんで目の前にいるみんなは血塗れなの。
なんで、私は無傷でその場でいるの。
「なおって、おねがい、だから、死なないで、……っ!」
何度も何度も波紋を流して、傷を修復しようとしても、間に合わない。溢れ出てくる血が止まらなくて、傷を治すのが間に合わなくて、これ以上波紋を強くしてしまったら細胞の活性化のし過ぎで体力が尽きて逆に殺してしまう。
何のための私なの?
何のための陽柱なの?
呼吸をする度に息苦しくなって、血の味がして、そんなことを無視して息をする私は、死の直前の人間に対して、なんて無力なのだろうか。
視界が霞んで、それを振り払うように頭を振って、必死に目の前の怪我人を治療する。
半々羽織の宍色の髪の男を、炎の羽織を着た男を、蝶の髪飾りをつけた彼女を──────────
名前を叫んでも声は出ない。応えてもくれない。
そして、目を閉じるとふっと視界が黒く染り、血塗れの私の手だけを残して彼らは消え、長い黒髪を結った蝶の髪飾り付けた彼女の倒れる姿を見る。
私のせいで死んだ、見捨ててしまった、これからのためだと理由をつけて、けれど醜くも足掻いて失敗した……そのせいで命を落とした彼女の姿。
いつもいつも、慈愛の籠った瞳をして、私を見てくれた。そして悲しい顔をして、なんで、と、自分と仲良くしてくれない理由を問うた。
血にまみれた蝶が私の頬に手を伸ばし、涙をこぼすその瞬間、はっと、現実に意識が戻る。
─────幾度も繰り返すその夢を、私はもう、何百回見たのだろうか。
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獪岳とあんな会話をしたせいか、いつもよりも長く見たそれに、病人服を汗でぐっしょりと濡らしてしまった。それが気持ち悪くて、仕方ない。
夕方に眠って、夜が開ける前に目が覚めたらしい。
そっと病室をぬけ、廊下を歩けば、夜だというのに美しい蝶が屋敷の池の上で舞うように飛んでいた。
それに目を背けるよう風呂場に向かい、手早く病人服を脱ぎ、包帯を解き、汗を流す。本当は良くないけど、でも、そうせずにはいられなかった。
冷たい水を浴びて、綺麗に清掃されている湯船に、水をため、背中から倒れ込むようにして、沈む。自然と浮かび上がる身体。月光が反射して水面の波をうつす天井を見て、深く、深く、呼吸をする。
伝導して水が自分を中心に幾何学模様を描き、じくじくと背をゆっくり癒すそれに、目が覚めると同時に、思い出す。
決して忘れることの出来ない、あの死闘を、そして、私のせいで死なせてしまった、大切な、とても大切な、友人にもちゃんとなれなかった彼女────────私が殺してしまった胡蝶カナエのことを……