家族ごっこ。
一人っ子の私にとっては、兄弟や姉妹がいる友達が羨ましかった。ご飯やおやつを分けることを知っていて、与えられるモノすべてが自分のモノだった一人っ子にはない価値観。
それを高橋くんや啓介くんにそれとなく話したことはあるけど『お兄ちゃんなんだから』や『兄弟で取り合いはしちゃだめ』と怒られたことがあるから、『兄弟がいるのも良いことばかりではない』と言っていた。それでも私からすれば、あの二人はすごく良い兄弟で羨ましかった。
その点、拓海くんは一人っ子で少しだけ私と似ているところがあった。何かを取り合ったりするようなタイプじゃなかった。分け与えることは気付かないとわからなくて、でも取り合うこともない。欲しいものは欲しいと言い、一人っ子特有の親に大切にされているだろうから大丈夫という謎の信頼もあった。でもどこか大切にされていないと感じるとどうしようもなく心が『独り』になってしまう。
私と似ているから『弟』という感覚と『可愛い』を混ぜて、好きだと思った。
去年の夏、拓海くんが先輩を殴った話をぽつりぽつりと話し出したことがあった。
同級生の女の子のとつきあっていた先輩が部室で女の子とのことを色々言っていたらしい。それに腹が立って殴ってしまったのだと。それを聞いたとき、その真っ直ぐさにどきっとした。
おっとりしていて、いつもぼんやりしている拓海くんが、そんな風に苛烈に怒ることがあるのかと驚いた。
そしてその時、私はちょっとその女の子のことを羨んだ。
拓海くんと同級生で、同じ部活のマネージャーで。拓海くんに近くて羨ましいと思った。夏だけしか会えない私とは違う。せめて年の差がもっと無ければ。せめて同じ学校だったら。せめてご近所さんだったら。
その時そう考えた。
それまで考えたことが無かったとは言わないけれど、その時は強く強く思ってしまった。
でも拓海くんと会わない時間の中で自分の感情をごまかした。
『私は拓海くんをかわいがるお姉さんだから』と。手を伸ばさずに、好きだと芽生えていた気持ちを恋愛ではないと言い聞かせた。
5歳差が私の中でとても大きなものに感じられていた。20歳の時、大学生の友達に25歳の彼氏がいたけれど、それとは話がちょっと違う。年の差は同じだけれど、違うのだ。未成年と成人した大人の5歳は全く意味合いが違うから。
どれが正解でもいい、私が拓海くんを恋愛対象として見なければすべて上手くいくはず。だって最初は本当に弟みたいで可愛かったのだから、もう一度弟みたいに思えると信じた。
「名前さんは夏休み働いて大変だね」
「そんなことないよ。拓海くんは毎日早起きして配達してるでしょ?私絶対起きれないよ」
「親父に叩き起こされてるだけだよ。強制的だし」
「ううん、えらいよ。拓海くん」
そう言って頭をなでた。ふわっと柔らかい髪のさわり心地が良かった。その時、私は初めて拓海くんに触れた。拓海くんが中学生の頃の話だ。まだちょっとやんちゃな顔をしていて、なでられたことに対してちょっぴり照れていて可愛かった。
これを思い出せば『可愛い弟』と思える。
好きの気持ちは隠せないけれど、好きの方向性を偽ることはできる。
好きだと思う度に、中学生の頃の拓海くんを思い出して『年下』だと言い聞かせて自分の心を律する。
それをしていたのに拓海くんに対して『カッコイイ』と言ってしまった自分に自己嫌悪した。拓海くんが『綺麗になった』とか言う所為にしたいけれど、自分が調子に乗ったのは自覚している。ただ純粋に嬉しかった。
高橋くんとのドライブに行って、近況をしゃべり合って、私の理想の兄弟像である高橋くんと啓介くんを久しぶりに揃って見ることができて安心した。『兄弟』ってこういうものだよ、と自分の中で再確認できた。だから恋愛感情の好きではないと信じなくては。
言い訳でもいい。
噓でもいい。
私は、私の心をだますのだ。