「2年対1年のミニゲーム!?」

降りしきる雨は、微かに残っていた花びらを地に落としている。今年の桜も見納めかなんて考えながら次のメニューの指示を聞きにリコさんと日向先輩の元に向かう。
この雨のおかげで、外部は練習場所を失い校舎内での練習メニューに切り替わっていてサッカー部や野球部のクラスメイトは中練は嫌だと嘆き悲しんでいた。そんな中、私たち中部のバスケ部は殆ど影響はないのだが予定していたロードワークが行えなくなったために余った時間をどうするかカントクと日向先輩が話し合ってミニゲームを行うと決めたようだ。

「たしか去年決勝リーグに先輩達だけで行ったって」
「そうだよ。はい、1年の分のビブス」

あざーすと綺麗にお辞儀してくる同級生の姿にこれはまだ私が先輩だと勘違いしてる人が居るなと確信する。
しかしまだゲームの準備は終えてないのでここで訂正している暇はなく、私は倉庫に足を進めた。

「咲良ちゃんはスコア付けよろしくね」
「はい、分かりました」

準備を終えて早々に始まったゲームは、序盤は火神くんのおかげで1年チームが押していた。しかし、やられたままでいられない先輩方も火神くんのマークに重点を置き火神くんにボールに触れさせもせずにゲームを進めている。

「やっぱり火神くんは凄いわー」
「そうですね、1年の点はほぼ火神くんが決めてますし」
「でも2年もマーク本気になってるし勝つのは無理かなー」
「いえ、まだ分かりませんよ?」

だって1年チームには黒子くんが居ますから。
しかし、肝心の黒子くんは1年メンバーの観察が終えてないのかパスをもらっては伊月先輩にスティールされて火神くんをイラつかせている。そんな中ダブルスコア程の点差が開いていき1年の口から諦めの言葉がこぼれ始める。

「やっぱり強い...」
「てゆーか勝てるわけなかったし...」
「もういいよ...」
「...もういいって、なんだよそれオイ!!」

降旗くんの胸ぐらを掴んで怒りをあらわにした火神くんにこれはまずい、止めなきゃと誰もがそう感じた瞬間、火神くんは膝カックンされていた。まさかの黒子くんに。
しかしおかげで険悪になりかけた空気がどこか柔らかくなった気がする。
だがそんな空気もゲームを再開してすぐに降旗くんがゴールを決めたことで一変する。

「入っ...ええ!?今どーやってパス通った!?」
「わかんねえ!見逃した!!」
「え、今、何が起きたの!?」
「カントク、ミスディレクションって知っますか?」

────ミスディレクション
手品などに使われる人の視線を誘導するテクニック。
黒子くんはミスディレクションによって自分でなくボールや他のプレイヤーなどに相手の意識を誘導させ自分以外を見るように仕向けている。そしてそれを利用して自分がパスの中継役となっている。これは元々影の薄い黒子くんにしか行うことの出来ないパス。あの帝光中のバスケ部でレギュラーを勝ち取るために試行錯誤して身につけた技術なのだ。

「そして黒子くんはキセキの世代の幻の6人目なんです」
「...今年の1年、やばいわね!」
「はい、これからが楽しみですね」

試合は火神くんの逆転ダンクにより1年チームの勝利で幕を閉じた。
実際は黒子くんがシュートを外してしまったため代わりに決めてくれたのだが、終わりよければすべてよしなので細かいことは気にしない。
リコさんが色々と練習メニュー考えたいから今日は誰も自主練はしないでと高々に宣言してくれたおかげで早々に体育館を戸締りさせてもらい着替え終わって校門で待っていてくれた黒子くんと合流する。私の家の方向と黒子くんが向かう駅の方向が一緒なので帰りは途中まで一緒するのが最近の定番である。

「皆に分かってもらえてよかったね」
「はい。どうしても僕のスタイルはゲームじゃないと分かってもらえないのでゲームをしてもらえて良かったです」

帝光中の時の一軍に昇格したときの試験も特別にゲーム方式でやってもらったと言っていたことを思い出す。昇格が決まったと電話をもらったときも二人で一緒に喜んで夜中まで語り明かしたのはいい思い出だ。

「そういえば、もう咲良さんは本入部届け出したって聞いたんですけど」
「うん、リコさんに言えば貰えると思うよ」
「じゃあ明日早速貰いに行ってきます」
「あ、でもちょっと提出するのに試練があるかもしれないから頑張ってね」
「わかり、ました?」

試練とはと頭を傾げる黒子くんにもう一度頑張ってねと伝えてから互いの帰路に着く。
試練と言っても黒子くんなら絶対に大丈夫、簡単に乗り越えられる。そんな確信を心に抱きながら私は翌週の朝会が楽しみで仕方なかった。


///


────翌週の火曜日
校内では校庭に石灰で誰かが書いたであろう文字の話題で持ち切りだった。

「これは豪快。さすがだね黒子くん」

"日本一にします"
名前が書かれてなくてもバスケ部にはどういうことか分かるだろう。
昨日の毎週月曜日行われる朝会でバスケ部をちょっとした事件を起こした。
誠凛高校バスケ部には入部するためにある条件がある。その条件というのが"全国を目指してガチでバスケをすること"。覚悟がなければ入部届けは受け取ってもられないのだ。その覚悟を証明するために、屋上から各々目標を叫ばなければならない。それも全校生徒が集まる月曜日の朝会の時に。だが、誠凛高校バスケ部の入部のための試練はそれだけで終わらない。その宣言が実現できなかった場合は全裸で好きな子に告白しなければならないのだ。これは日向先輩がついムキになって言ったとの事だがエラいことを言ってしまったと思う。去年兄さんがやった時の話を聞いていたし、怒られたと笑いながら言っていたから今年もやると思っていた。たが実行後に先生からのお説教は確実にあるだろう。
そんな中、火神くんの宣言を皮切りに降旗くん、河原くん、福田くんは無事に宣言を終えることが出来たのだが残念なことに黒子くんが宣言を終える前に先生が来てしまって中断させられたのだ。もちろんかなりお説教されていた。
そのため、黒子くんはどうするのかと思っていたのだがまさかの校庭に書くという行動に出るとは考えてもいなかった。
でも、先程会ったリコさんが嬉しそうに受け取った黒子くんの入部届けを見せてくれたので無事に黒子くんも入部できたということだ。
しかし黒子くんが校庭に書いた目標は名前を書き忘れてしまったせいで謎のミステリーサークルとして誠凛高校七不思議の一つとなるのはまた別のお話。



覚悟の証明
- 3 -
prev | next


戻る