02.噂の幽霊さん

「「「幽霊???」」」
「哉太寝ぼけてるの??」
「確かにさっき見たんだよ!!!髪の長い真っ白な幽霊!!!」

賑やかな学食での昼食時、顔面蒼白の哉太がそう叫ぶと近くに座っていた粟田くんが俺も昨日同じ幽霊を見たかもと泣きそうな声で呟いた。
詳しい事情を聞くと、それは結構噂になってる存在だったらしい。
聞くところによるとその幽霊は星詠み科の教室付近で目撃されるらしく、その姿は私と同じ星月学園の女子用の制服を身にまとった小さな女の子のようだ。肌も髪の毛も真っ白で、長い前髪の隙間から覗く赤く光る瞳と目が合うとすぐに姿を消してしまうとのことらしい。

「目が合った時に俺はもう死んだと思ったよ」
「ほら!嘘じゃねーだろ!!」
「でも、おかしくない?女子生徒の制服を着た幽霊なんて…この学校には月子しか女の子はいないのに」
「確かに言われてみればそうだよな」

実の所、私はその噂の正体に心当たりがある。というより、確実に私の知っている子だと思うのだが先生たちにその子の存在は口止めされているため、未だに泣きそうな哉太を錫也や羊くんと一緒に宥めながら昼食を口にした。


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「...ていうことがお昼にあったんですけど大丈夫なんですか?」
「大丈夫なわけあるか。そのせいでこいつはずっとベットの布団にくるまって出てこない」

放課後、保健室に向かいお昼にあった出来事を星月先生に説明すると先生は呆れたように溜息を零した。そして先生は徐ろにベットを仕切るカーテンを開くとそこには布団にくるまり微かに震えている小さな塊に優しく語りかける。

「もう怖いものは何もないから、真白でてこい」
「ごめんね、真白ちゃん。哉太怖がりだから真白ちゃんのこと脅かしちゃったよね」
「ほら、お前の大好きな夜久が来てくれたぞ」

先生のその言葉の直後、布団は宙を舞い、私のお腹には小さな女の子が飛び込んできた。私のお腹に抱きつくその子は、皆が噂をする幽霊の正体で、本当は優しくてとっても可愛い女の子。

「たく、やっと出てきたか」
「ふふ、真白ちゃんお腹すいてない?メロンパン持ってきたよ」

メロンパン、の言葉に反応して嬉しそうにぴょこんと跳ねる深海真白ちゃん。彼女は星月学園2人目の女子生徒だ。本当は他の生徒と同じように入学させる予定だったそうなのだが、真白ちゃんが怯えて逃げてしまうため仕方なく私や生徒会のメンバーと星詠み科の生徒だけに知らせる形で真白ちゃんが入学してから、1ヶ月の月日が流れている。
だが、長い時間彼女の存在を隠し通しているのは難しようで真白ちゃんは度々他の生徒に見つかっては謎の女子生徒の幽霊として噂せれてしまっているようだ。幽霊と噂せれてしまう所以はきっと、彼女の見た目が関係しているのだろう。先天性白皮症通称アルビノと呼ばれるソレは彼女の体を白く染めている。ただ前髪で頑なに隠す瞳だけは紅く、その姿は確かに暗闇の中で見たら幽霊のように見せてしまうのかもしれない。
星月先生はそのせいで真白ちゃんは幼い頃から好奇の目に晒されて、いじめられたせいで自分の見た目を嫌っていると言っていた。

『月子先輩、ありがとう』

素直にお礼も言えて、とても優しい女の子なのに、皆に誤解されているのはとても悲しい。

「どういたしまして。半分こして一緒に食べよう?」

せめて、皆と打ち解けられる日まで。ううん、もし打ち解けられなくても必ず私が貴方のことを守ってあげる。
だって、貴方は私の初めての女の子の後輩なんだもの。先輩が後輩を守ってあげるのは当然だもんね。
だから、いつか貴方の声を聞かせてね。真白ちゃん。