03.不審者にご注意を

少女は窮地に陥っていた。
ゴーグルに三つ編みの変な笑い方が特徴的な男が少女の目の前に立ちはだかっているからである。

「くひひっ噂のおばけちゃんはっけーん!これは大ニュースだねぇ」

少女は考える。
これは琥太にぃに持たされているもし変な人にあった時に引っ張るひもを引っ張る時が来たのではないかと。
そう考えなければいけないほど、少女の前に立ちはだかる男は恐ろしいのだ。
しかしここは学校の中。防犯ブザーをならそうものならばきっと多くの人が集まってくるだろう。
少女は自分がいる場所を確認する。
ここは3階。階段は少し歩けば真っ直ぐ走ればすぐそこにある。階段を思いっきり降りて走れば琥太にぃがいるであろう保健室はすぐ近くにある。
────よし、逃げよう。

そう思ってからの少女の行動は珍しく早かった。物理的に。
叔父の琥太郎は後に語る。
「あいつ、逃げ足だけは速いからな」と。

「うわ!ちょ、逃げないでよ」

嫌です!!心の中で少女は即答する。
悲しいことにあくまで心の中で呟いた言葉なのでその拒絶は男に伝わることは無い。
少女は懸命に走り、男から逃げる。
これまた悲しいこと、男もその年齢の平均以上の身体能力があったために普通に追いかけてくる。
しかし、追いかけられたことに生まれた焦りがいけなかった。
少女は運悪いことに階段の降りようとした1段目で階段を踏み外してしまったのだ。グラり、と揺らぐ視界と体。背後から聞こえる男の焦り声と、よく知った声が少女の名前を呼ぶのを聴きながら、少女は転げ落ちた。

「真白!!おい、真白!しっかりしろ!」

少女は薄れゆく意識の中で、自分のことを大事にしてくれている人が自分を呼んでいることに気づく。この人が悲しそうなのは嫌だな、なんて能天気に考えながら少女は瞼を閉じた。


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少女が次に瞼を開いた時に、瞳ににうつったのは私を追ってきた怖い人が正座をさせられていて、その前には知っている人と知らない人がその怖い人にお説教をしている姿であった。

「あ!おばけちゃん起きた!?」
「桜士郎?その呼び方はやめなさいって言ったよね?」
「はい、ごめんなさい誉ちゃん」

少女は目の前で行われていることはよく分からなかったが、優しくでもぐりぐりと自分の頭を撫でてくれる手の持ち主が誰だか直ぐにわかった。

「痛いところないか?すぐに星月先生が来てくれるからな?」

不知火一樹先輩。琥太にぃに紹介してもらった人の1人だ。この学園の生徒会を務めていて、よく自分の世話を焼いてくれる優しい人だ。

「真白ちゃん、だよね?僕は金久保誉、よろしくね。それでこっちが」
「白銀桜士郎と申します。先程は大変申し訳ございませんでした」
「本当に桜士郎がごめんね?よく言い聞かせておいたからもう大丈夫だよ」

少女の小動物的本能が呼びかけている。────金久保さんには逆らってはいけないと。
だがつい少女は一樹の背中にその小さな体を隠してしまった。しかしそれがいけなかった。一樹と誉は少女は桜士郎に怖がっていると考え、ある結論に行き着く。

「真白、次こいつにあったら容赦なく防犯ブザー鳴らせよ」
「うん、その方がいいよ真白ちゃん」
「え、俺、不審者扱いなの!?」

少女は2人の気迫に押されて頷いたのだが、心の奥底で次に追いかけられるような事があったら今度は本当に防犯ブザーは鳴らそうと決めた。