カオスから生まれるコスモス

「ありがとうミヤ」
「怪我が治って良かったです」
「バイパーくんで最後ですね。ご苦労様でした」

放課後になって保健室まで行くと、学園長に集められたらしい怪我をした生徒が揃っていた。
私が入室すると皆怪訝そうな顔で見てきて居心地の悪さを感じたけれど、同じく私を見ていたトレイさんに微笑まれて少し落ち着いた。

学園長に返してもらった杖で順番に怪我を治していった。瞬く間に治る怪我に皆驚きの声を上げ感謝の言葉を述べてきた。
治りかけて大したことなくなっている生徒もいたけれど、皆平等に魔法をかけていった。

「ミヤのおかげで松葉杖生活と別れられてよかったよ」
「怪我が治って何よりです」
「君の国ではああいった魔法は普通なのか?」
「応急処置的な魔法はありますよ。それ以上の怪我になると大体魔法薬で治しますね」
「俺みたいな怪我も治せるなんて凄いよ」

お兄さんみたいな穏やかな声音で褒められるとちょっと照れくさくてぼそっとした喋り方になってしまったけれど、得意魔法なのだと言ってしまった。
今まで他人に得意だと言ったことは無かったけれど、物や怪我を治したりするのが得意で独自の回復呪文もあるのだ。
誰にも言うつもりは無かったのだが、違う世界というのとトレイさんの優しい雰囲気につい言ってしまった。

「今度怪我したらミヤのところに行くよ」
「何言ってるんですか!怪我しないのが一番ですよ」
「ははっその通りだ」

ちょっと困ったような笑い方をしていたトレイさんと鏡舎の前で別れて寮に戻ると、先に帰っていた弟とグリムから犯人がわかったと告げられた。
ラギー・ブッチが犯人だと確信はあるが証明するものが何も無いため、リドルさんがある作戦を打ち立てた。
作戦を聞くと肉を斬らせて骨を断つような、再び怪我人が出そうな作戦だった。

当日までの間、各所に根回しをしたり各々がどう動くのかを話し合ったりと粛々と準備をした。
私の担当は、トレイさんが"回復魔法が得意"という話をみんなの前でしてしまったため、当日観客の避難誘導時などに怪我人が出てしまった際の応急処置係になる。
杖の所持についてはリドルさんが学園長に口添えをしてくれたおかげで認められた。リドルさんにはこれからも頭が上がらないだろう。

いよいよ明日は大会当日だと、弟達と気合の入る気持ちで夜を過ごし早めに就寝した。
朝になり隣室の扉が開く音で目を覚ますと、起きるには少し早い時間だった。弟はもう起きたのかと思って体を起こして身支度も程々に部屋を出て一階に降りてキッチンへ向かった。

「お前・・・ミヤだよな?たがこれは」
「騙しててごめんなさい!」

キッチンで水を飲んだ後、談話室に戻ると何故かジャックがいて不測の事態に香水を着けていなかったことを思い出した。
案の定、すぐに気付かれてしまったため正直に認めて謝った。
ジャックなら誰かに言いふらすような真似はしないだろうから、しっかり事情を説明して納得してもらった上で誰にも言わないように約束をさせた。

ジャックは戸惑いはしたものの、デュースのように気にしないと言ってくれた。
誰がいつ来るか分からないから香水は四六時中つけていろと言われて、私は出かける時も持ち歩きますとジャックと約束した。
それから、弟がまだ寝ぼけていたようだったから、マジフト大会に遅れないよう起こしてやれと言って出て行った。
ジャックに言われた通り弟に声をかけて自分も身支度を整えると二人と一匹で朝食を取った。

エースとデュース達と一緒に大会の会場へ向かうと、サイドストリートではお祭りのような露店がたくさん並んでいて大変賑わっている。
店の外観の可愛さや漂ってくる美味しい匂いに、私もグリムと同様に気分が高揚していた。

エースとデュースはトレイさんの空いた選手枠を狙っていたが私が治療をしたため、狙っていた枠がなくなりがっかりした様子だった。
枠を狙って犯人探しをしていたけれど途中で作戦を降りることはなく、一緒に犯人探しを手伝ってくれるようで安心した。

選手入場の準備が進む中、食欲に負けそうになっているグリムを引きずりながらそれぞれの待機場所へ向かう。
私だけはみんなと別行動な為、途中で別れてコロシアムの方へ向かった。
待機場所へ着くと、選手の入場開始のアナウンスが流れた。いよいよかと気を引き締めると間も無く黄色い歓声が上がった。

選手に対する声援は徐々に混沌な声になり、周囲は一気にパニック状態になった。
私はコロシアムとパレードが一望できるように高い木の上に登っていたので被害は免れたけれど、まるで動物の大群に潰されるようにディアソムニア寮生に扮したケイトさんの分身が押し潰された。
パニックになった一般客に被害が及ぶかと思われたけれど、そうなる前に何者かが観客をコロシアム内に誘導した。

「あのツノって、もしかして弟が言っていた人かな」

ツノがどの程度の角かと思っていたけど、かなり立派なツノでグリムが命名した"ツノ太郎"が可愛すぎるんじゃないかって思った。
見た目に迫力がある分、呼び名が可愛くてそのギャップがいいなと思いながら呪文を唱える。

癒しの風よ吹けアネモス・セラピア

風がそよそよとコロシアムにいる群集に向けて吹き始める。
風が止めばまた吹かせるというのを数回繰り返すと、魔法で誘導された観客は全員コロシアムに入って行った。
もう大丈夫だろうと私もサバナクロー寮へ向かった。