空から降るは雨かそれとも

「レオナ……さっ、くるし……ッ!」
「まさか人間も干上がらせるのかよ!?」
「レオナ!それ以上はやめるんだ!
首をはねろオフ・ウィズ・ユアヘッド!」

一体何が起きているんだと自分の目を疑うほど、目の前の光景は信じられないものだった。
サバナクロー寮の寮長だというレオナ・キングスカラーを中心に周囲の人が苦しい表情をしており中には膝を折っている者までいる。
周囲の物が干からびて砂になっているのか、薄ら砂嵐のようになっている。

恐ろしきものから守れ プロテゴ・ホリビリス!」

キングスカラーに近づくにつれ空気が乾燥し一呼吸ごとに喉が渇いていくのを感じた。
私は一番被害が酷いラギー・ブッチに防衛呪文を掛けた。その直後、ジャックが大きな銀色の狼に変身してキングスカラーに襲い掛かった。
一瞬の隙をついてリドルさんがユニーク魔法を掛けると、周囲の干ばつの進行が止まった。

ディアソムニア寮生が今のうちに負傷者をこの場から避難させようと行動を起こす。
動けない者は動ける者に支えられ、動けそうなもの同士は互いを支えるようにしながらのろのろとマジフト場を出て行く。
私はキングスカラーから解放されたラギーに駆け寄り手の器を作らせた。

水よアグアメンティ。飲める?」
「……ど、もっス」

回復魔法を使いたいところだったけれど観客を癒す為に連続で魔法を使用したため、これくらいの事しか出来ないのに歯痒さを感じる。
キングスカラーはみんなの説得するような行動に終始鬱陶しそうにして全く聞く耳を持っていなかったが、リリアさんの挑発しているようにも聞こえる言葉に態度が一変した。

突然乾いた笑い声をあげたかと思えばリリアさんの王の器でないという発言を力無く肯定し、今までの感情を昂らせることない怠惰な様子から一変、吼えるように怒りを露わにした。
急に空気が変わり、身の毛がよだつようなエネルギーがキングスカラーから溢れてくるのを肌で感じた。
リドルさんの魔力封じの首輪が吹き飛ばされる程のエネルギーに手が震える。
ケイトさんが伏せるように言わなければ、吹き飛んだ首輪が当たっていたかもしれない。

「生まれた時から忌み嫌われ、居場所も未来もなく生きてきた。どんなに努力をしても、絶対に報われることはない」

苦痛と絶望を抱えていたキングスカラーから感情の昂りと共に可視できる黒い影が立ち上がり、もやもやとライオンのような姿になった。
これがオーバーブロットかと恐怖を感じながら目を逸らすことができない。

リドルさんもこうなった事があるのならば、キングスカラーさんも元に戻るのだろう。
そういうリドルさんは冷静に且つ素早く周りに指示を出し、それぞれが指示通りに動く。
私も早くラギーを連れて行かなければと思ったが、ここに残ると言い出した。こんなボロボロな状態で何を言っているんだと思ったが意志は固いようだった。

「ユウ、アイツを捕まえればマジカルシフト大会に出られる!気合入れるゾ!」

今度はグリムが理解出来ないことを言った。
弟は魔法が使えないというのにこの場に残れと言うのだ。
慌てて止めたけれど弟も異論はないようで、自分が全体を把握してみんなに指示を出すと言うのだから、私だけこの場を離れるなんて事はしたくなかった。

キングスカラーを正気に戻すために魔法を回避しながらこちらも魔法で対抗する。
ただ、魔力が尽きるまで暴走は止まらないため皆必死に対抗する。水の魔法、風の魔法、炎の魔法など持ちうる限りの致命傷を与えない程度の攻撃魔法をかけ続ける。
弟の指示は的確だった。こちらの被害は最小限に相手に最大のダメージを与えるような指示は、私たち魔法使いを統率する長のようだと思った。

オーバーブロットしたキングスカラーと対峙して長いようで短い時間が経過した頃、不意に背後のブロットの化身が消えて力尽きるように地面に倒れた。
これでキングスカラーは元に戻れたのだと一安心した。
みんな疲労で立ち尽くす中、グリムがキングスカラーに駆け寄って声を掛けた。なかなか目を覚さないので心配になったけれど、呼吸はしているようなので助かったんだと再び深く息を吐いた。

"生まれた時から忌み嫌われ居場所も未来もなく生きてきた。どんなに努力をしても、絶対に報われることはない"

頭を過ぎったキングスカラーの言葉が胸をざわつかせる。
魔力を持たずに生まれてきた者はどんなに努力をしようが魔力が生まれることはないし、魔力のない魔法族は侮蔑と嘲笑の対象になる。
それを自分の弟が背負っていくことになるなんて入学したてだった11歳の私は理解していなかった。

ホグワーツの夏季休暇が終わり二年生として学校に戻った私に待っていたのは、弟のことをダシにして心ない言葉を浴びせる人達だった。
友人もどこか余所余所しいと感じる態度をとられたときの寂寞感と、腫れ物に触るような態度をされたときの不快感を思い出した。