地を固まらせるのは君か慈雨か

マジカルシフトはクィディッチ以上にエキサイトするスポーツかもしれない。

キングスカラーが地面に倒れ込んだすぐ後、学園長が駆けつけ皆の無事な姿を見て大袈裟に胸を撫で下ろした様子を見せた。
グリムは早く罪を認めさせて大会の出場権が欲しいようで、短い前脚でキングスカラーの頬を叩きながら「起きるんだゾ」と声を掛けていた。

ようやく目を覚ましたキングスカラーはオーバーブロット中の記憶は無いようで、まさか自分がと信じられないようだった。
そして、今回の騒動は自分たちがやったと認めさせると学園長はサバナクロー寮の失格という処分を言い渡した。
それを仕方のないことだと受け入れるしかなかったのだが、被害者の生徒たちがやってきて失格にせず出場させてくださいと宣ったのだから驚きだ。

「サバナクローに欠場されると気兼ねなく仕返し出来ないからな」

今回の騒動で一番酷い怪我を負ったトレイさんは笑っているのにいつものいいお兄さんの雰囲気とは違って、意外と食えないタイプの人なんだと思ってしまった。
被害者の人たちは皆一様に同じ考えのようで、校則で魔法での私闘が禁じられているためにこの機会を逃したくないようだった。

学園長は止めたけれど、キングスカラーはボロボロの状態でありながらも挑戦を受けてやると強者の風格を損なわない堂々とした態度をとっていた。
王になれないと嘆いていたさっきまでのキングスカラーはおらず、挑戦を受ける様は確かにサバナクローを束ねるリーダーの姿だった。

「アンタはいつもみたいにふんぞり返って、ニヤニヤしている方がお似合いッス…シシッこんな風に!」
「何やってんだアンタら…フッ」
「ふふっ変な顔」

ほとんどの者が寮のマジフト場を出てコロシアムに向かう中、ラギーはキングスカラーに意趣返しとでも言うようにユニーク魔法を掛けた。
無理やり笑わされたキングスカラーには王者の風格なんて無くなっていて、でもなんだかお互いにさっぱりしたような雰囲気にジャックも私も笑みが溢れた。
雨降って地固まるとはまさにこういう事だなあと、弟の言葉を聞きながら温かい気持ちになった。

しかし、オンボロ寮の大会出場権という問題が残っている。
前回もそうだったので薄々思ってはいたけれど、どうやら学園長は約束を反故にする信用ならない人のようだ。
大会出場のために頑張ったグリムは憤慨して学園長のお尻に火をつけると言い出して、ちょっと笑ってしまい隣にいたジャックに笑ったら不味いだろという意味で小突かれた。

結局、グリムと弟はエースやデュースと寮のゴーストたちとチームを結成しサバナクロー寮生とエキシビジョンマッチをすることになった。
弟が心配ではあったけれど、実際試合が始まってからはマジフトの迫力に興奮してどうでも良くなっていた。
試合が進むにつれ盛り上がる観客に釣られるように興奮して周囲に負けないくらいの声援を送っていた。
特にサバナクロー寮生は怪我をしているというのに、無傷なオンボロ寮チームに勝るほどの素晴らしい連携プレーをしているから余計にエキサイトした。
私はクィディッチ以上にマジカルシフトというスポーツの面白さにハマってしまったのだ。

けれど、そんな気分が続いたのは前半までだった。後半が始まってすぐ、グリムが投げたディスクが弟に直撃したのだ。
私は勢いよく立ち上がり弟の元へ駆け付け、目立った外傷はないが保健室に運ばれる弟に私も着いて行った。
保健室の先生の診断によると軽い脳震盪とのことで、安静にしていればそのうち目を覚ますとの事だった。

「このくらいしかしてあげられなくて、ごめんね」

私はベッドに横たわる弟に少しでも早く目覚められるよう、癒しの呪文をかけると弟のベッドにもたれて大変な一日だったなあと穏やかに寝ている弟を見ていた。
何かと大きな騒動が起こる学園で私たちが家に帰れる日は来るんだろうかとぼんやりと考えていた。

どのくらい時間が経ったかはわからないけれど、扉の開く音と話し声が聞こえて重たいまぶたを開けた。
窓から見える空が暗くて結構寝ていたんだなあとグッと伸びをしてパーテーションから顔を出すと、いつ来たのかボロボロになったサバナクロー寮生がベッドで寝ていた。
今入ってきたグリム達を見ていると私に気付いたデュースが弟の様子を聞くので、まだ寝てると答えると無茶な攻撃するからだとグリムを詰った。
試合中の怪我なので私は責める気はなかったけれど、起きたらちゃんと謝るようにグリムに約束させた。

「怒ってない奴のする顔じゃないな」
「責める気がないだけで、怒ってはいるからね」
「うわ、出ました。ミヤの過保護っぷりはどんだけだよ」
「オレ様ちゃんと謝るんだゾ!だからその顔はやめてくれ」

グリム達に表情が怖いと言われるなんて余程怖い顔をしていたのかもしれない。
弟がまだ寝ているので側を離れて会話をしているとジャックが弟と私がどういう関係なのかと疑問を口にした。姉弟きょうだいだと言っていなかったようで、グリム以外の全員が驚いていた。

「確かに、言われてみれば似ているか」
「ミヤが年上とはねー」
「どうりで俺たちより魔法が上手いわけだ」
「あっユウ!目が覚めたんだゾ?」

弟が目覚めたことで会話は強制終了した。
私が弟に駆け寄って質問攻めにしたからだ。その様子にエースは呆れたような声を出していた。