天使が運んだ悪魔のゆうわく

保健室に賑やかな声が響いた。幼い子供のような声音と滑舌は事実子供のもので、"レオナおじたん"と叫びながらキングスカラーのベッドに飛びついた。
それまでマジフト大会がどうなったかとかディアソムニア寮の寮長の強さとか、来年の大会についてとか話していたみんなの口が止まり、キングスカラーの甥だという少年の無遠慮な言動に衝撃を受けて閉口してしまう。

「みんなは、おじたんのお友達?」
「くくくっそーそー、おじたんのオトモダチ。ねー?レオナおじたん!」

キングスカラーの悩みの種がめちゃくちゃ天使なのと、容赦ない無邪気さを前に強く出られない"おじたん"の様子が非常に珍しく、みんな笑わずにいられなかった。
「後で覚えてろ」と凄まれてもチェカくんがベッドで無邪気に遊んでいるので全く怖くなかった。

「おねーちゃんもお友達なの?」

子供は無邪気で無遠慮で鋭かった。
ピシリとヒビが入った様に固まる私にラギーが「そーそー、お友達ッスよ」と答え、その返答で満足したチェカはまた楽しそうにキングスカラーに話しかけ、付き人が来て帰りたくないと駄々をこねるまで私は生きた心地がしなかった。

「他人の秘密を吹聴する趣味はねぇから安心しろ」
「そうッスね、誰かに言ったところで得なんて無さそうだし」

何度こそっと立ち去ろうと思ったかしれない。
けれど、出口から遠い場所にいたため人知れず退出するのはエース達の時の様に有耶無耶にするのは、頭が切れる人たち相手では得策ではないと思ったからだ。
だから、チェカが居なくなってしんとした保健室でどう話を切り出せばいいか模索していた時、口火を切ったのはキングスカラーだった。
しっかり覚えていた二人は、何がとは言わなかったが私には充分過ぎる言葉でありがたい対応だった。
二人には感謝の言葉を述べ、そのあとは何事もなく一日が終了したのだ。明後日は大事な予定があるため、弟にも説明しなきゃいけないなと思っていた。

「ミヤちゃん、おっはよ〜今日はけーくんとデートしよっ」
「え、え?ミヤ!どういうこと?」

これは、もちろん約束した"週に一回"のやつだった。迎えに来るとは思っていなかったため、弟には街に買い物に行ってくるとだけ言っていたので非常に混乱させてしまった。
事情を話すとため息をつかれた。
ケイトさんはというと、"大事なお姉さんに酷いことはしないから安心してよ"と言って待ち合わせの時間を告げて帰って行った。
時間まで1時間もなかったため、急いで朝食を片付けると急拵えの私服を着て植物園へ急いだ。

急拵えの服はやっぱりダメだったようで、街に出ると真っ先に服屋に入り八割衣装チェンジさせられた。
お金は先行投資と言われて払ってもらったので、今度何か別な形で返さなければいけないと思った。
その後も雑貨屋だったりアパレルショップだったりとウィンドウショッピングを楽しむと、ケーキが美味しいと評判のカフェに入った。

「食べる前に撮らせてね!…うん、いい感じ! #カフェ巡り #merienda #一番人気のケーキ #めっちゃカワイイ
お待たせ、それじゃ食べよっか♪」

ケイトさんは流れるようにスマホに指を滑らせるとマジカメに写真を掲載すると、お互い目の前にあるケーキとドリンクを交換した。
当然、学内の誰もいないのは確認済みなのだろうが、自分の甘い物嫌いを隠してまで写真のいいね数を稼ぎたいのかと執念を感じる。
私はケーキを食べながらトロピカルな色のジュースを飲み、ケイトさんはケーキとセットだったカフェラテを飲んでいる。

さっき撮れた写真を見せてもらうと、確かにフォーカスが絞られていてケーキがより映える、美味しそうな写真が撮れていた。
ケイトさんの指示でグラスを掴んでいた私の両手なども写っているが、ぼやけているので人物の特定は難しくちゃんと配慮してくれたんだなと安心した。

「幸せそうな顔してるけど、そんなに美味しいんだね」
「はい!ケイトさんも食べてみますか?」
「…それ、本気で言ってる?」
「ふふっ冗談ですよ!だから、そんなに怖い顔しないでください」
「う〜ん、じゃあさミヤちゃんが食べさせてよ」

ケイトさんの冗談めいた言い方と細められた瞳の真剣さに尻込みして慌てていると、ケイトさんがけらけらと楽しそうに笑った。
相手の思惑通りに揶揄われたことに急に恥ずかしくなって、グラスに入ったジュースを一気に飲んだ。

ケイトさんは基本的にチャラついた態度だけれど、偶に真剣な顔をすることがあるからドキッとしてしまう。
ドキっとすると言っても、これは胸のときめきではなく虚を衝かれたことで感じた恐怖に近いものだ。

「ケイト?奇遇だな」
「…トレイくんじゃん!その荷物もしかしてリドルくんからの頼まれごと?」
「ああ、今日使うはずだった苺の数が少し足りなくてな」

カフェを出て学園へ帰る途中、トレイさんに会った。トレイさんは私を一瞬見るとケイトさんと話し込んでいる。
もしかしたら、今日はいつもと違って女っぽい格好しているから気付かれなかったのかもしれない。

「ミヤってやっぱり女の子だったんだな」

三人にしか聞こえないようなここ前でボソッと呟かれた言葉は、私の希望を打ち砕いた。