観念としての孤独

私たちが仕方なく男に着いて"入学式"へ行くと、同じ黒いローブに身を包んだ大勢の人が整列している部屋に辿り着いた。
一番奥の中央には、大きな鏡が怪しげに浮いている。

男は寮分けだと言って弟の背中を押して鏡の前に立たせた。その光景はまるでホグワーツの組分けの儀式のようで、私はここも魔法学校なんじゃないかと考えついた。
思えばマグルの世界で物が宙に浮いている事なんてないのだ。だとすれば、弟が入れる寮はない。何故なら弟は。

「分からぬ。この者からは魔力の波長が一切感じられない。色も形も、一切の無である」

私の弟は魔法族から産まれた魔法の使えない魔法使い  スクイブ  なのだ。だからホグワーツには通えず普通のマグルの学校に通っている。
一部の魔法族から軽蔑視されることがあるが、私を含む家族はそんなことはなく寧ろ喜ぶほどであった。

「魔法が使えない人間を黒き馬車が迎えにいくなんて!ありえない!!」

そうなのだ。魔法学校に通う者は魔力に差はあれど間違いなく魔法が使える。魔力の無い人間には入学案内は来ない。
それが、どうしてこんなところに居るのか、ユウの顔を見ても困惑するばかりで鏡の前に佇んでいる。

「だったらその席オレ様に譲るんだゾ!!」

男の拘束から抜け出た猫が自分は魔法が使えるから、弟の代わりに入学させろと喋り出した。
私は弟が危険だと思い駆け寄った。
その直後、不思議な鳴き声とともに炎が放出された。

「誰か!あの狸を捕まえてください!」

無差別に放出された火の魔法が彼方此方に飛んでいったにも関わらず、誰が猫を捕まえるかと互いに"譲り合って"いる。
確かにこの程度の火を消すのは造作もないけれど、ここには魔力のない人がいるのだから少し配慮があってもいいんじゃないだろうか。

私は弟を守る為に杖を天井に向けた。そのまま水を放出し天井にぶつかると細かい水滴になって辺りに降り注ぎ周囲の小火を消す。
ローブも髪も濡れたけれど、構わず未だに暴れる猫に杖を向けた。

縛れインカーセラス
「ミヤ」
「ん"な"ー!!なんなんだゾ!この縄!!」

弟が杖を掴んだことによって、狙いがずれてしまい胴体ではなく尻尾に縄が巻きついた。
上手く捕らえられなかったじゃないかと弟に非難の目を向けると、怯えが見えるような目をしてかぶりを振った。
確かにこの魔法は拘束の力を強くして苦しめる事もできる。けれど、そんなつもりは無く普通に拘束しようと思っただけなのに、弟にそういう事をするような姉だと思われていたというのがショックだった。

私が気落ちしていると猫は無事捕まえられたようで弟に使い魔がどうのと仮面の男が怒っている。
当然弟の物なわけが無く、騒々しく騒ぎ立てながらも外に連れて行かれた。寮に戻れという男の指示でガヤガヤしていた生徒たちがいなくなり部屋には3人だけになった。

「ああ、そういえば貴方の寮分けを忘れていました。想定外の事ばかりでしたが、貴方は大丈夫でしょう。先程は小火を消していましたからね。
さ、鏡の前へ」

もうすでに鏡の前にいたので体を鏡と向き合うように肩を掴んで、力任せに向き合わされた。
もたもたするなとでも言うような強い力に少しよろけそうになった。

「汝の名を告げよ」
「・・・ミヤ」
「汝の魂のかたちは・・・無い」

男は驚き信じられないと溢す。
それに対して鏡に写った白い顔は、魔力の波長はあれど色も形も見えてこない為に寮分けは不可能だと言う。
想定外のことに男は頭を抱えた。

しかし立ち直りの早い人なのか、すぐさま私たちに向き直り魔力の無い人間や寮分け出来ない者を学園には置いておけないと言った。
この鏡から帰れるというので、二人並んで鏡の前に立った。

私達の帰る場所を思い浮かべた。それなのに鏡は反応しなかった。
私達の帰る場所は、この世界のどこにも存在しないというのが緑色に怪しく光る魔法の鏡の結論だった。

再び頭を抱えた男は私達の出身を聞くと、図書室に移動し過去から現在まで同じ名前の場所がないか調べてくれた。
結果、存在しないことが分かり私たちは落胆した。

「身分証明になるような物は持っていますか?・・・見るからに手ぶらですけど」

言われてみれば、服はいつの間にか着替えているし杖は辛うじてあるがそれ以外は何も持っていなかった。
弟も同じ様子で、それを見た男は身分証も無ければお金もない私たちを放り出すのは教育者として非常に胸が痛みますとわざとらしく言った。

"自称"優しい男は、今は使われていない建物があると言い出した。昔、寮として使われていた建物でそこであればしばらく宿として貸し出せるという。
その間に帰る方法を探るのだと"自称"教育者の鑑の男が、大変良い思い付きだ善は急げですと出会って初めて見る軽やかな足取りで図書室を出た。

掃除をすれば寝泊まりできる、古くて趣のある建物と聞いて嫌な予感しかしなかった。

title by : 溺れる覚悟