「これは・・・」
確かに"趣のある"建物を前に形容し難い気持ちになる。
言葉にならない気持ちのまま男に促され中に入ると、中は想像以上に真っ白でボロボロで二人で絶句してしまう。
呆然としていると男は学園内を彷徨かないように言って、颯爽と出て行ってしまった。
「真っ白な埃が雪景色みたいだね」
「・・・ユウ」
「ははっ・・・」
弟の空元気な発言に乗れるほど、現状は優しく無くて二人で空笑いした。
とりあえずこの埃を何とかしなくちゃだなと杖を取り出すと、パラパラと雨が窓を叩く音が聞こえた。
徐々に雨脚が強くなってきて野宿とかにならなくて良かったと思ったのも束の間、頭頂部に冷たい感触が降ってきた。雨漏りしてきたのである。
踏んだり蹴ったりな一日だとため息をついた。
「ぎえぇー!急にひでぇ雨なんだゾ!」
強くなった雨音に負けないくらい大きな聞き覚えのある声がした。
声の方を振り向くと火の魔法を使っていた猫がいて、驚く私達の顔を見て忍び込むなんてチョロいと得意げに腕(前脚かもしれない)を組んだ。
弟はどうしてそこまでするのかと問い掛けた。
グリムという名前の猫は大魔法士になりたくているのに迎えの馬車が来ないからこっちから来てやったと答えた。
弟がグリムに過去の自分を見ているんじゃ無いかと、冷や冷やしながら見守っていた。
自分には魔力が無いと思いながらも一縷の望みを捨てずに入学案内を待っていたのは五年前のこと。
今、弟はどう思っているんだろうか。感情を隠すのが上手い弟と休暇以外会ってこなかった私には、弟の考えや気持ちがわからない。
「ふぎゃっ!また水が降ってきた!オレ様のチャームポイントが消えちまう〜」
「何箇所雨漏りしてるんだろう?」
「至る所にありそう・・・でも、このくらいなら魔法で治せるから」
「そうそう魔法でパパーっと・・・ってオマエは魔法使えねぇんだったな!」
グリムが笑いながら弟のことを"使えないヤツ"と揶揄った。私は、ムッとして言い返そうとしたけれど弟は強かにも手伝うよう要求した。
しかし、それに素直に頷くようなら学園まで押し掛けてこないだろう。
仕方なくどこかに行ってしまったグリムのことは置いておいて、弟には掃除用具を探しに行ってもらい私は談話室の雨漏りを治す事にした。
雨漏りの次は埃を取るかと杖を振ると、弟の叫び声がした。
私は慌てて談話室を出た。するとグリムの叫び声も聞こえてきて何か大変な事が起きたんじゃ無いかと思った。
しかし、二人が腰を抜かすほど怯えている相手はゴーストだった。
私も初めてホグワーツでゴーストを見た時は驚いたし、ちょっと気味が悪いと思っていた。たが、実際は気の良い者たちで冗談を言ったり相談に乗ってくれたり普通の人と変わらない存在だ。
けれど、弟にはその経験はないし怖がるのも無理はない。しかもゴースト自身も人が怖がるのを見て面白がっているようで、私は呆れてしまった。
二人は目の前のゴースト達を追い払うのに必死で私の存在には気付いていない。そのうち協力してゴーストに火の魔法を当てて物理的に追い出す事にしたようだった。
ゴーストも怖がらせるだけで悪いことをしそうには見えなかったのでそのまま放っておく事にして踵を返した。
談話室の修繕をし寝室二部屋の修繕を終えて再び戻ってくるとゴースト達はいなくなっていて、代わりに何故か学園長が居た。
弟に何か話しているようだったけれどトラブルでもあったんだろうかと近付いていくと私に気が付いた学園長が次いでとばかりに宣った。
「あなたも"雑用係"として特別に学内に滞在することを許可します」
私優しいのでと本当に優しい人は言わないセリフを吐き、夕食も持ってきてあげたのでしっかり食べて明日からしっかり働いてくださいねと言いたいことを言って私の返事も待たずに出て行った。
「一体どういうことなの」
「それが・・・」
弟は、なんだか猛獣使い的な素質を見出され、あれよあれよと勝手に決められてしまったようだった。
口の上手い学園長に良いように使われているような気がするが、調べ物をする事を許され行き場のない私たちを(オンボロ寮だが)こうして住まわせてくれるというのだから強く文句は言えない。
兎に角持ってきてもらった食事を食べ、シャワールームの整備も何も整っていないため魔法で簡単に身支度を整えて寝る準備をした。
グリムの寝床は用意していなかったので、どうするかという話になったのだけどグリムが仕方ないから弟の部屋で寝てやると偉そうに言った。
「オマエはオレ様に縄かけたヤツだろ?まあ、その程度の魔法は怖くねえけど、コイツを一人にして何かあったらオレ様が学園に居られなくなるかもしれねえからな!」
「はあ?私がユウに何かするわけないでしょ!」
「ミヤは僕の姉だからね」
「オマエら姉弟だったのか!?言われてみれば似ている気がするんだゾ!」
モンスターにとっては人間の美醜や性別は些末なことのようだった。
グリムにとって私が危険人物という認識は多少薄れたようだったけれど、学園長に言われた手前誰かに任せるのは気が引けるようで弟が責任持って預かる事になった。
title by : ユリ柩