つくり話がお上手ですね

「ミヤくんも説得に協力してくださいね。
三人寄れば文殊の知恵といいますし、アーシェングロットくんを説得するのは大変でしょうから」

「大変だと分かっているなら丸投げしないで」という言葉を発する前に居なくなった学園長に、舌打ちしそうになるが顔を顰めるだけに止めた。
具体的にどうするかという話し合いで、先ずは相手を知るところから始めようということになった。

その後、くたくたになったグリムが帰宅すると、イソギンチャクが生えている姿が間抜けで笑いそうになるのを必死に堪えた。
腕によりをかけて作った料理を食べ始めると、グリムはアズールとそっくり兄弟への怒りを吐き出しながらヤケになってご飯を掻き込み咽せていた。
そんなグリムの話を自業自得だと苦笑しながら、聞き流した。
早朝、グリムのイソギンチャクが引っ張られたようで泣きながら寮を出て行ったと弟から聞いた。

「さて、アズールを監視しにきたわけだが…」

二人は授業をサボることになるのだが、学園長直々の命なのだから何か問題があれば責任は全て学園長に投げるつもりでいる。
それより、1限目は『音楽』だという。"魔法学校"なのに魔法以外の勉強もするんだなぁと授業を覗いていると、めちゃくちゃ歌が上手くて聞き入ってしまった。
2限目は私が気になっていた『動物言語学』
貫禄のある猫ちゃんに真剣に猫語で話しかけている姿は、ちょっとシュールだなと思ってしまったけれど確り動物と会話ができてしまう彼に、凄い以外の感想が出てこなかった。
3限目の魔法薬学も同様に難しい調合を成功させていて、ジャックの言う通り完全無欠という言葉が相応しいと思った。

授業が終わると、私はそそくさと二人と別れて寮に一旦戻った。
ミステリーショップで働いた件やケイトさんのマジカメの件で、一時期話題になってしまったので人目を避けるためだ。
気休めに黒縁のウェリントン型の眼鏡を掛けているが、効果の程は分からない。

「えっ!夜に乗り込む!?」

昼休みの時間が終わる頃、再び食堂に行くとほとんど生徒は残っておらず直ぐに二人を見つけることができた。
午後も監視をするつもりだったが、ジェイドとフロイドという生徒から直々に招待されたらしく、今日の夜9時以降に『モストロ・ラウンジ』へ行くという。
名前からして学園長が言っていた経営している店の名前だろうか。

「ミヤは寮で待ってて」
「え、いや何で?交渉しに行くんでしょ?」
「お前は残った方がいいだろ。男だらけの所に乗り込むんだからな」
「その時はジャックが守ってくれるでしょ」
「相手はあのアズールだ。絶対はない」
「僕がダメだった時はミヤに頼むから、最初から全力で行かずに手数は残しておいた方がいい」

弟の申し出を渋々受け入れると、午後の監視は無くなったため寮へ戻ることにした。
ストリートを歩いているとグリム、エース、デュースの三人が校舎に向かってくるのが見えた。
疲れた顔をしている三人に声をかけると、今まで扱き使われていたらしい。休みの時間にも容赦ないなと気の毒に思った。
自業自得とはいえ重い代償だなと可哀想になった。

「物を消失させる呪文があるんだけど、頭から生えてるソレに使えるかやってみる?」
「本当か!!」
「ぜひやって欲しいんだゾ〜ミヤ〜!」
「やめておいた方がいいですよ」

頭から生えているとはいっても、元々無かった物だから綺麗に消せると思う。
けれど、突如現れたジェイドさんにやめておけといわれて杖を出そうとした手を下ろした。
アズールさんの契約の効力は強く、前に同じように生徒が消そうと魔法を使用し毛髪諸共消失したが、また直ぐにイソギンチャクだけ生えたらしい。
その悲惨な光景を思い浮かべてしまったようで、グリムたちが震え上がっていた。

本当かどうか怪しい話だが、嘘だと言える確証はないので私の提案は却下された。
ジェイドさんが「授業が始まってしまいますよ」と言うとグリム達が慌てて校舎へ走って行く。
私もそれに倣って学生のフリして校舎へ三人に遅れて走ろうとした。

「おや、貴方も学生だったんですか」
「当たり前じゃないですか、授業遅れちゃうので失礼します」
「そうですね、僕も急がなくては」

そう言って着いてくるジェイドさんをどう振り切るか考えながら歩いていると、彼は私にいろいろ質問してきた。
天気の話から昼食に食べた物とか、寮のこと、これから受ける授業のこと等聞かれた事は全て無視した。
横を歩く彼が怖くて前だけを見て歩いていたけれど、次にされた質問は無視できず足を止め彼を見上げた。

「どうして知ってるの」
「僕、人間を観察するのが好きなんです。
それで偶然・・気付いてしまって、いま貴方の反応を見て確信しました」

こういうタイプは分かりやすい怖さと違って厄介だし、読めないので苦手だ。
ニヤついた笑みを浮かべるジェイドさんに、どうするつもりか問うと表情を若干和らげて「情報は正確でなければ意味が無いので、その確信が欲しかったんです」と言った。
私はその事実をどうするのか聞いたのだけれど、欲しい答えは貰えないまま彼はどこかの教室へ向かって行ってしまった。