「…反応がありませんね」
「めんどくせーなぁ」
弟達が食堂に行くところを捕まえて話をしようと思い、早目に寮を出ようと支度をしていたところを双子に突撃された。
けれど、防衛呪文をかけた扉は鍵開けの呪文も効かない。焦れるフロイドさんが扉を蹴破ろうとするけれど、当然開かない。
「昨日話し忘れた事があるのです。僕たちは他の生徒に聞かれても困りませんが、今話してしまってよろしいですか?」
「…どうぞ」
「イセエビちゃん、いい度胸してんね」
「自衛は大切ですから」
扉を蹴るくらいだから大層お怒りだと思ったけれど、フロイドさんよりジェイドさんの笑顔の方が怖かった。
二人はアズールさんから、契約違反しないよう私の監視を命じられているらしい。するつもりはないが、念には念をという事だろう。
腹減った〜というフロイドさんに、ついでだからと強引に誘われた。
食堂に行くならば変装しようと掛けた眼鏡を見たフロイドさんに「なにそのダッセー眼鏡」と軽蔑に似た顔で言われた。
「目立つので変装です」といえば「無駄な努力」と笑われたが、余計なお世話だと眼鏡は外さなかった。
食堂は混雑していた。といっても全員が席に着けるほど広いのだが、料理を注文するのに混んでいる。
二人と一緒にいても特別目立つことは無かった。何か疚しいことがある人や契約とかで関わった事がある人しか、わざわざ二人を気にしないのかもしれない。
その契約してしまった弟たちをこの人数の中から見つけるのは至難だった。
席に着くと、逃げないようにか間に挟まれてしまい居心地が悪い。私に興味が無いようだけれど、会話するなら私を挟んで話さないで欲しかった。
話しかけられないだけマシだと思って、美味しい料理に夢中になり過ぎないように周囲に弟がいないか探した。
「管理人さん、僕達もう行きますね」
「ちょっと遊んでくる〜」
「そうですね、貴方はくれぐれも邪魔しないよう大人しくしていてください」
席を立つ二人を目で追えば、ジャックの姿が目に止まり弟達が食堂を出るのが見えた。
監視は私だけじゃなく弟達もされているのかと、目を見張る。
詳しい内容は知らないけれど、フロイドさんの"遊ぶ"という発言に嫌な予感が頭をよぎった。
何に使うのか知らないけれど、アズールさんは余程オンボロ寮が欲しいようだ。
弟の取引が上手くいって欲しいが、私にもやらなければならないことがある。
1ヶ月以内に3万マドルを支払わなければならないのだ。よく考えたら恐ろしい額だ。
弟が今日中に取引の条件をクリア出来れば1万で済むけれど、アズールさん達の様子を見るに簡単にはいかなさそうなので3万は覚悟しなければならない。
私は何度目か分からない学園長室の扉を叩いた。
「ユウ!なんでこんな所にいるの?」
「ミヤこそ無事でよかった!」
いつも通り自動で扉が開けば中から弟達がエースとデュースと一緒に学園長室から出てきて、面食らった。
取引のために闇の鏡の使用許可を貰いにきたようで、これから珊瑚の海という国に行くらしい。
綺麗な名前の国だなと思っていると本当に海の中にあるようで、驚きが止まない。
「もたもたしてるヒマないんだゾ!」というグリムの言葉に善は急げと足早に行ってしまった。
「今日は来客が多いですねえ、全く…私は暇ではないんですよ!?」
「学園長が頼み事をしたせいで、寝泊りするのに1泊1万マドルかかる事になりました」
「アーシェングロットくんの商魂には、困ったものですね」
困っているのは私だという言葉は胸に留め、問題解決に関わる費用としてなんとかして欲しいとお願いした。
しかし、アズールさんとの契約は個人のものだから自分でなんとかしろと言われてしまった。
まあその通りなのだが、これは難しい要求をして徐々に要求の難度を下げていき、最終的に本来要求したい事を呑ませるという作戦なのだ。
この作戦は、とある方から教わったありがたい交渉術だ。
彼は他にもさまざまな交渉術を持っているようで、ぜひご教授願いたかったが今回は貸し借りゼロにする為教わった。
それ以上は"有料"とのことだったため、諦めざるを得なかった。
「それならせめて、今月分のお給料は変わらず戴けませんか」
「それくらいなら構いませんよ」
本題はここからだ。前回のアルバイトは事後承諾してもらえたけれど、今後もアルバイトしてもいいとは言われていなかった。
アルバイトが問題になって行動に制限がかかっては嫌なので、学園長からの許可が欲しい。
そう言えば、とーっても面倒くさそうに私の要望を呑むと言われた。流石に、何度も学園長に交渉しに来たのは迷惑だったかもしれない。
信用ならない人だけれど、今の私たちが頼れるのは学園長のような大人だけなのだから、大目に見てほしい。
学園長には深々と頭を下げてお礼を言って退出すると、急いで校舎を出ようと歩調が早くなる。
中庭を足早に歩いていると強い風が吹いた。風が止み細めていた目を開けると、足元に一枚の紙が落ちていた。
あまり生徒と関わりたくないけれど、目の前に落ちている物を拾わない訳にもいかず持ち主を探しす。
「それ、僕のだ!…あ、ありがとうございます」
「どうぞ」
「急いでるんで、
ロベリアのような髪色の子が小走りで校舎に入って行った。
女の子かと思ったけれど、声は男の子だし少し訛りのある口調のギャップに驚いてしまった。
そして学園長の言葉を思い出して、確かに体型を隠せれば見た目で女子だとは思われないと納得した。
その割にはバレてしまっているので、学園長の言葉を鵜呑みにするのは危険だなと思い直した。