ミステリーショップにいる所を双子に拉致された私は、モストロ・ラウンジで割れた皿やグラスを復元している。
給仕に不慣れな生徒が割った数より、グリムが洗った皿が滑って割れた数の方が多い。
グリムは隣で泡塗れになりながら食器を洗っていて、グリムが洗ってるのか洗われてるのかよく分からないくらい程に泡だらけ。
時々泡を吹き飛ばしてあげながら、洗った皿の水分を飛ばしたりしていた。
時々双子が様子を見に来るため、かなり真面目に働いていないとグリムがかわいそうな事になる。
イソギンチャクをぎゅうぎゅう絞められてるグリムを見ていたら、試験を楽しようとした代償にしては大きすぎるなと感じた。
自業自得なのだけれど、取引が失敗すれば自分もこうなってしまうのかと思うと身震いする思いだ。
翌朝も双子に連れられて食堂に行く事になった。今日はアズールさんも一緒で、とてもにこやかに爽やかな挨拶をされた。
初対面であれば好青年の印象を受けただろうけれど、今では胡散臭さで愛想笑いしかできない。
食堂で弟達を見かけたので、私は3人を振り切って駆け寄った。
「俺達の心配よりお前は大丈夫なのかよ」
私の取引を聞いたジャックが心配してくれた。優しいなと思いながら、大丈夫とテキトーなことを言った。
正直なところ3万マドルは払えそうに無くて困ってる。
サムさんにアルバイトの話を了承してもらえたけれど、バイトというよりも手伝いなので給料は歩合制なのだ。
彼は商売をしているのだ。売り上げに貢献出来なければ給与も無しになる。
昨日と同様、ミステリーショップでサムさんのお手伝いをしているとラギーくんが来た。
レオナさんのお使いで、ドリンクを買いに来たらしく彼お得意の交渉術で値切っていた。そのスムーズなやりとりに感動する。
教えてもらって実践したけれど上手く出来なかったので、ラギーくんにダメだったと報告した。
「アズールくんと取引したって聞いたっスよ、あんたも馬鹿っスねー」
「交渉術は学園長に使ったんだよ。アズールさん相手にはさすがに」
「ま、他にも知りたいなら、そうだなあ…ドーナツ3日分でいいっスよ」
そう言って、ドリンク片手に帰って行った。
彼の言うドーナツ3日分とは、丁度目の前にある1箱5個入りのドーナツの事だろうか。
とっても美味しいらしいけれど、割高なこのドーナツを3日間差し入れるのを考えると寒い財布に穴が空く心地がした。
昼食を食堂で摂るべく弟達を探すと割とすぐに見つかった。昼は朝ほど人集りがないのは購買で済ませたりする人がいるからだと思う。
みんなの輪に私も混ぜてもらうと、どうやら作戦会議中のようだった。
双子が人魚だったとか、取引の邪魔をして来るとか。絶望的な情報を聞かされて私も頭を抱えた。
破くなんて発想は無かったけれど、無敵だという契約書を破く方法を探るのもアリだと思う。
弟達を止めなくても"邪魔をしない、弟を手伝わない"という条件に反していないので大丈夫だろうと、ラウンジに行く彼らについて行った。
昼休みのラウンジに生徒は居らずVIPルームまで誰にも見られることなく来られた。
それらしい金庫を見つけたところで誰かが来る足音がし、大きな書斎机に全員で身を隠した。
足音の主はアズールさんで、金庫の契約書を確認すると出て行った。独り言の多い人だなと思った。
金庫の中身を確認するほどなのに、大事な契約書を机に置きっぱなしにする無用心な人ではないと思ったので、おかしいと感じた。
不用意に契約書を手に取ろうとするグリム達を電流が襲った。
変だと気付けた分、私は対処することができたけれど弟たちはぴくぴくと体を震わせていて血の気が引いた。
「おやおや、電気ナマズの攻撃でも食らったように震えて…無様ですねぇ」
アハハハという笑い声が聞こえて入り口を見ればアズールさんと双子が愉快そうに私達を見ていた。
私は彼らに鋭い目を向けた。他人を傷付けておいて笑って見ているなんて、どうかしている。最低だ。
触ろうとしただけで電流が流れるなんて嘘だと思った。それなら何故二重ロックの金庫に入れているんだと言ってやりたかった。
「ミヤさん」
アズールさんが私を咎めるような目で見てきた。私は黙って立ち上がり彼らの元へ行く。
弟達が信じられないような顔をしているのが容易に想像できる。"裏切り者"という目で見られたくなくて、彼らを一切見れなかった。
取引の条件はラウンジを手伝う事しか話していなかった。話したら仲間外れにされそうで、言えなかった。
「ごめんね」
「は?なんだよ、それ」
「くすっ、そういう事ですよ。
さて、大事なものを盗もうとする悪い子にはお仕置きが必要ですね」
まだ一年生の彼らに、しかも得意魔法を奪われた状態でなんて勝ち目はない。一切手出しできないのが歯痒かった。
アズールさん達を盾にするように後ろに隠れて、ずっと俯いていた。歯が立たない彼らを見ていられなかった。
エースが召喚した大釜が魔法で軌道を変えられ金庫に直撃した。アズールさんが声を荒げている様を静かに見ていた。
そのまま壊れてしまえばよかったのに。
言い争いをする隙を見て、弟達が私の横を通って出て行く。彼らは私に一切目もくれずに走って行った。
「それからミヤさん。取引の条件はお忘れですか?」
見ていたら分かるでしょうとアズールさんを見た。金庫が傷つけられて、不機嫌そうな顔をしている。
私は金庫に近付き杖を向けると、焦るアズールさんを無視して呪文を唱え傷を直した。本当は壊してやりたかった。
「これで今回の事は不問にして」
黙るアズールさんを了承したものとして私は鏡舎に向かう。弟達にきちんと説明したいなと考えながら重い足を動かした。